7. 彼らの行く末
問題の仮婚約破棄騒動の後、わたくしたち関係者は全員王宮に呼び出され、国王陛下から今後についてお言葉を賜ることになりました。
「この度のウィリアムの行為により、ウィリアムには王族たる資格なしと判断、王位継承権を剥奪する」
国王陛下の第一声に、誰もが息を飲みました。王家は罪の捏造によって貴族との契約を反故にする、などという話が広まれば、国が崩壊してしまいます。ウィリアム殿下が厳しい処分を受けることは分かっていましたけれど、やはり第一王子殿下の失脚の報を受け入れるのは、王国民として大きな衝撃がありました。
「御意」
ウィリアム殿下は、ただそう一言述べ、その処分を受け入れ、膝をつきました。
「今後については、東の国防を担うリュータイトの地に封じる。生涯の妻帯を禁じ、その血を残すことは許さぬ」
王とは、我が子の幸福さえ犠牲にして国を導いていかなければならないものなのでしょう。国王陛下は重々しくウィリアム殿下に最後のお声がけをなさいました。
「誰よりも国に尽くすべき存在でありながら私情に捕らわれ、『真実の愛に生きる』などと言い出し、これまで寄り添ってきた仮婚約者であるマリーローズ・アンベイク侯爵令嬢を侮辱、さらには王族の義務を放棄した罪、その身を国に捧げて王国の安寧のために使うことによって償え」
国王陛下の申し渡しに対し、ウィリアム殿下は深く頭を垂れました。
「ウィリアムの助命に関しては、アレクのとりなし、そしてマリーローズとアンベイク侯爵家からの嘆願が大きく影響している。今後は王太子として起つ弟を良く支え、この恩を返していくように」
国王陛下のこのお言葉により、アレクサンダー殿下の立太子がすでに内定していることが分りました。
「ローズ、この度はすまなかった。王子妃の試験は他にいくらでもやり様があったものを、そなたに苦痛をもたらす方法を取ってしまった。ローズの対応は、素晴らしいものだったと聞いている。私たちとしては、ぜひ王太子妃としてそなたを迎えたいのだが……」
国王陛下はチラッとアレクサンダー殿下に視線を移し、またわたくしを見つめました。
「王家からの謝意として、王太子アレクサンダーが二十歳になるまでは、仮婚約者、婚約者は定めない――ローズがその地位についてくれると決意しない限りは。ローズが他の男を望むなら、この条件は無きものとし、そなたの希望を叶えることとしよう」
要するに、国王陛下は、これから成人までの間に、アレクサンダー殿下にマリーローズを口説き落とせ、とおっしゃっておられるのです。何とも心強い後押しに、心に希望が灯りました。
わたくしはこっそりとアレクの様子をうかがいました。わたくしがアレクサンダー殿下――アレクに淡い心を抱いたときは幼過ぎて、初恋を自覚したときには、すでにウィリアム殿下の仮婚約者となっていました。胸に秘める、苦しくも物語のようなきれいな恋。それが、現実のものとして許されようとしている、そのことに胸が躍ります。
アレクが、紺碧の瞳を輝かせて、わたくしの震える手を取りました。
「マリーローズ……俺のローズ。幼い頃からの俺の秘めた思い、これから存分に伝えさせてもらうよ。覚悟しておいて」
遠慮のない甘やかな視線と、手に伝わる男性特有の力強い指先に、わたくしは動揺してしまいました。きっと、顔は真っ赤になっていることでしょう。王太子妃教育には、恋愛指南は含まれていなかったのです。これから、わたくしは止まってしまった恋に心をゆっくりと解していって、今度こそ、王太子妃として……いえ、好きな人の妻として、アレクと寄り添って生きていけるような関係を築いていきたいと思っています。
ふわりと幸せな気持ちに満たされて、わたくしはアレクとつながっている指に少しだけ力を入れました。
それに応えて、柔らかに撫でられた爪先に、わたくしはますます赤くなってしまったのでした。