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09 初仕事。



リディー視点。







「それにしても、初仕事にしては難しいよなー」


 馬に風魔法の加速をかけ、村まで走ってもらっている最中に、ぼやくようにルーシが言う。

 その前を横向きに乗っている村娘さんは、その早さに目を瞑ってルーシにしがみついている。


「そうね……下級の亜種であっても、幻獣は幻獣。せめて意思の疎通が出来ればいいけれど」

「無理じゃね?」


 風の中でも会話が出来るのは、魔法のおかげだろう。風が声を届けてくれているのだ。

 ドラゴンと同じ幻獣でも、サラマンダーは下級。そして、亜種であるヘルサラマンダー。意思の疎通は難しい。村を襲っているなら、なおのことだ。

 だけれど、それでも幻獣は幻獣。殺してはいけないのだ。

 必要以上に傷付けずに、追い払う。きっとルーシが言うように、難しい。


「まっ! 大丈夫だろう。火属性耐性のある主と、火属性と水属性魔法レベルが上がったオレ達ならな」


 ニィッと、ルーシは笑って見せた。そうね、と微笑みを返す。

 問題は、村の被害か。前方には、黒い煙がいくつも上がっていた。

 救援を送ってくれるとギルドマスターは言ってくれたが、間に合うだろうか。間に合うことを願う。

 逃げ出したであろう村の人々が、見えてきた。

 加速の魔法を解いて、馬から降りる。


「冒険者です! ヘルサラマンダーは……!」

「キェエエ!!」

「いるようですね!」


 ヘルサラマンダーの鳴き声は知らないけれど、きっとそれだろう。

 見回すが重傷者は、見たところいない。


「のちほど救援が来ます。私達はヘルサラマンダーを追い払います!」

「行くぞ、てめぇら!」


 カッと地面を踏み付けて、光から剣を召喚する。剣を受け止めて、再び加速の魔法を発動してルーシ達と村に入った。

 早速、一匹のヘルサラマンダーと出くわす。村の道のど真ん中にいた。

 馬車並みに大きな蜥蜴が、赤よりも黄色い炎を纏っている。その巨体に似合わず、するりと素早く移動すると教科書に記されていた。

 だから、移動されるその前に、水を作り出して覆う。 纏っていた炎が、消えた。すると吊り上がっていた目は下がり、弱気な顔になる。そのままシュルシュルと尻尾を巻いて、逃げ出した。


「なんだ、炎を消しちまえばあっさり逃げてくじゃねーか」

「ヘルサラマンダーは、レベル6の火属性です。レベル10の水属性魔法を浴びて、戦意喪失したのでしょう」


 つまらなそうに言うルーシに、冷静に返すモーリス。


「手分けして、ヘルサラマンダーの炎を消して追い払い、逃げ遅れた人がいれば助けましょう」


 馬で走っていた時にも確認した。

 モーリスは水属性レベル9、ソーイは風属性レベル9、ガーラドは土属性レベル9。それぞれ、ヘルサラマンダーの炎を消せるほどの魔法は使える。

 そして火属性レベル10のルーシなら、自由自在に操り、鎮火も可能だ。


「了解、主」

「「了解しました、リディー様」」

「……」


 ルーシが真っ先に駆け出し、物音がする方へ行くと、同時に頷いたモーリスとソーイが前方へ進む。無言で頷くガーラドはルーシを追った。

 ガーラドは、無口ね。

 私も、別の音がする方へと駆けた。

 火がついた建物を水の魔法で鎮火しながら、進んでいく。呼びかけても誰も、返事をしなかった。逃げ遅れた人はいなさそう。

 一匹のヘルサラマンダーが、燃え盛る一軒の中にいたので、炎を奪い鎮火させた。たちまち、さっきのような弱気な顔をして逃げ出す。

 白い煙が上る中に呼びかけ続ければ、ぽむぽむと跳ねるボールを見付けた。


「あれは……スライム?」


 魔物のスライムのようだ。

 水色のスライムが普通だけれど、そのスライムは黄色い。レア種のスライムだろう。

 この村の住人だろうか。


「そこのスライムさん!」


 ポムポムと跳ねていたスライムが、こっちを向いた。

 そんなスライムを逃がしてあげようと、駆け寄る。

 すると、それが現れた。

 ミシミシッと軋む建物を押し潰し、一際大きく感じるヘルサラマンダーだ。恐らく、群れのボスだろう。

 火を噴いたものだから、咄嗟にスライムを抱き締めて、背中を向ける。


「っ!!」


 すぐに私自身は火の攻撃が効かないし、スライムにも無効だということを思い出した。

 サッと振り返り、炎を操り、ヘルサラマンダーが纏うそれも鎮火する。

 しかし、一筋縄にはいかないようだ。先の二匹と違い、弱気な顔にならない。まだ目を吊り上げて、炎を灯した。

 戦意喪失してくれ。

 だったら、水の魔法で、冷やしてやるわ。

 そう思ったが、辺りに影が覆われる。

 次は何かと見上げてみればーーーードラゴンだ。

 巨大なドラゴンが、舞い降りて、後ろ足でヘルサラマンダーを掴む。

 そして地面に、ズトン!! と押し潰した。

 そのドラゴンと目が合う。琥珀の瞳。覚えがある。

 ルビーレッドに輝く鱗と、漆黒のツノを伸ばしたドラゴン。ボンッと赤い煙にまみれたかと思えば、人の姿に変わり降ってくる。

 ルビーレッドの輝きを放つ長い髪を靡かせた見目麗しい青年。ドラゴンと

同じ捩れた大きなツノを生やしている。深紅のコートのような格好で、後ろには先端が尖った尻尾が生えていた。


「会いたかったぞ! リディー!」

「ラグズフィアンマ様!?」


 ラグズフィアンマ様は白目剥いているヘルサラマンダーの頭を滑るように降りると、私の目の前に着地。無邪気な笑顔で、腕を広げた。でも私が抱えているスライムを見ると、それを取って地面に下ろす。

 気を取り直して、私を抱き締めた。

 抱き上げて、くるりと勢いよく回るものだから、思わずしがみ付く。


「ちょっと捜すことに手間取ったが、見付けたぞ」

「え? なんで私を捜していたのですか?」

「何故って……今朝、わりと強力な火属性の魔法を浴びただろう? 加護の効力が発動した。それを感じたから心配してな」

「あ、そうなのですか……加護を詳しく知らないので、伝わるとは思いませんでしたわ。心配をおかけしたようで、申し訳ありません。ラグズフィアンマ様の加護のおかげで、無事です」


 今朝のわりと強力な火属性の魔法とは、ルーシのあれだろう。

 加護を与えた相手に危害が加わると伝わるようだ。


「あの……下ろしてくださいませ」

「んー断る!」


 とても上機嫌な笑顔で断られてしまった。

 腕に座らせるように私の足を抱えて見上げるラグズフィアンマ様。

 ドラゴンの力ってすごいのね。


「ところでこんな村にどうしているんだ? てっきり王都に住んでいると思って、そっちに行ってしまった」

「……実は、加護をもらったあとに冒険者になろうと決めまして」

「冒険者だって? なれたのか?」


 パッと明るい顔をしたラグズフィアンマ様は、面白そうに話しを聞き出す。


「はい。ラグズフィアンマ様の加護のおかげでしょう。勇者レベルと呼ばれるレベル9という判定を受けました」

「そうか!」


 またくるりと回るから、ついラグズフィアンマ様のツノをがしっと掴む。


「し、失礼しました!」


 慌てて謝罪をするも、ラグズフィアンマ様に怒った様子はない。


「構わん。リディーなら、どこを触ってもいい」


 そんなことを言われましても。

 苦笑を零していれば、すりすりーっと鼻に鼻を擦り付けられた。

 ち、近い! 見目麗しい人型ドラゴン様の顔が!


「おいっ!!」


 鋭い声が、飛んできた。ルーシのものか。

 周りを見れば、ルーシ達が囲むように立っていた。

 全員、戦闘態勢でラグズフィアンマ様を睨み付けている。


「なんだ? 鬼族達よ」


 そんなルーシ達の睨みなんて、どこ吹く風。余裕な態度でラグズフィアンマ様が問う。


「なんだじゃねーよ! 放しやがれ!!」


 ルーシが火の刀を持って向かってくる。

 敵と捉えて、斬りかかるつもりだ。


「待って! ルーシ! やめなさい!」

「!?」


 咄嗟にラグズフィアンマ様は敵じゃないことを示すために、彼の頭を抱き締めてしまう。コルセットに包めれているとはいえ、私の胸に、ラグズフィアンマ様の顔が埋もれる。

 な、なんて破廉恥な!!

 慌てて離れる。でも、足をしっかり抱えられている私は、そんなには離れられなかった。


「ごめんなさい! ラグズフィアンマ様!」

「何を謝る必要がある?」


 きょっとん、としているラグズフィアンマ様。気を悪くしていなくて、安心した。


「刃をしまいなさい。彼は、私に加護を与えてくれたドラゴン、ラグズフィアンマ様よ。敵ではないわ」


 その体勢のまま、私はルーシ達に告げる。


「彼らは今朝、私の従者になった者達です」

「ほう。従者まで手に入れたのか」


 面白がるラグズフィアンマ様に、剣をしまったモーリスが歩み寄った。


「失礼しました。加護を与えしドラゴン様……我が主を下ろしてもらえないでしょうか?」


 そう礼儀正しい態度で頼む。


「仕方ない」


 ラグズフィアンマ様はむくれつつも、私を置いた。


「リディー様。村を襲ったヘルサラマンダーは、それが最後のようです」

「鎮火も済みました」


 モーリスに続いて、ソーイが報告をする。


「よかった。逃げ遅れたのは、このスライムさんだけみたいね」

「「スライム?」」


 私から聞いて、初めて存在に気付いたらしいモーリスとルーシ。

 ぷるるん、と黄色のスライムが揺れる。


『逃げ遅れてたわけじゃないよ! 逃げ遅れた村の人を探してたんだ!』


 口がないからなのか、思念伝達で訴えてきた。


「そうでしたの。勘違いをしてしまいました。すみません」


 しゃがんでから言葉を返す。それから両手を出した。


「村の人々は、あちらに集まっていますわ。運びましょうか?」

『べ、別にいいけど?』


 ぷるん、と揺れるスライムの許可を得たから、抱えさせてもらう。

 改めて触れると、もちもちした感触がする。

 私が感触を楽しんでいると理解して、モーリス達は持つとは言い出さなかった。

 ラグズフィアンマ様にルーシ達を紹介しながら、村外れに向かう。そこには救援者が到着していて、軽い火傷を負った人々の治療を終えていた。

 私の手から離れたスライムは、一通り回ると安心したように、ぷるんと一度揺れる。

 村の人々は私達に感謝の言葉を伝えたようと押し寄せてきたから、モーリス達が壁になって対応をしてくれた。



 

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ありがとうございます!!


20190914

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