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05 鬼と令嬢。




 鬼族のルーさんと対峙する。

 ルーさんは、手に火を燃え上がらせて刀を出現させた。

 水魔法が得意だと言ったのに、火の魔法で挑んでくるのか。相当、自信があるようだ。


「それでは行かせてもらいますわ」

「おう」


 十分離れたルーさんに、向かう。


「“ーー加速せよーー”」


 走りながら唱えれば、風の魔法で加速。一気に間合いを詰める。

 ビュッと剣を振り上げると、火属性の刀が叩き付けられた。

 重い。鬼族と力勝負は負ける。

 火の粉が散る向こう側に、ルーさんがニヤリと笑っている顔が見えた。

 かなり軽んじられているようだ。ムッとしてしまう。

 水の魔法を発動。そして飛び退く。ちょっと剣を交じり合わせただけで、手が少し痺れている。やっぱり強い。

 発動した水の魔法は、ルーさんの顔の周りに水を作り出した。そのまま覆うつもりだったけれど、身を屈めたルーさんは避ける。それから飛び退いた私に接近。下から火属性の刀が振り上げられた。

 首を刎ねる勢いだ。

 それを仰け反って回避し、顔面を蹴り上げる。

 頬を掠めただけで、ルーさんも回避した。

 くるり、左手で円を描く。さっき作り出した水を操り、ルーさんを捕らえにかかる。

 ルーさんは振り返ると、爆破した。無詠唱。火属性魔法はレベル9辺りか。

 そんなルーさんの隙だと思い、叩き切ろうとした。しかし、刀が受け止める。

 両腕で押し込んでも、片腕で持っている刀がカタカタと鳴るだけで動かない。


「やるじゃねーか」

「まだまだ!」


 結構楽しんでいる自分がいた。負けず嫌いが、前世を思い出して、拍車をかけたみたい。絶対に勝つ。

 剣に水を纏わせれば、火の刀と交わっていることで、水蒸気が上がる。

 私より長身の彼の視界を水蒸気が奪う。その隙に、彼の脛をブーツで蹴り上げる。


「ッ!」


 力が緩んだ。剣を上に振る。水を纏ったそれは、ルーさんの頬を掠めて赤い線を作った。ギロリと睨まれる。

 いやいや。そっちは首を刎ねる勢いで振ってきたから、お互い様でしょう?


「そっちがその気ならっ! 喰らいやがれ!!」

「!?」

「ルー!!」


 私の足元に、火の円がボッと灯った。

 モーさんの制止の声も、遅い。

 ルーさんが左手を上げれば、爆発するかのように一気に燃え上がる。火柱だ。明るい赤の火に飲まれた。

 しかし、すぐに火は鎮火する。

 熱を浴びたけれど、私は無傷だった。


 ………………死んだかと思った!!!


 もう灰すら残さずかっ消されたかと思ったではないか。火傷すらしていない。服だって焦げてもいなかった。


「あ!? なんで、てめぇ! 無傷なんだよ!?」


 何故でしょう!? 私にもわからないわ!

 困惑するルーさん達にそう言ってやりたかったけれど、気が付く。

 まさか、竜王の加護のおかげではないか?

 火属性の魔法レベルが上がっただけではなく、火属性の耐性が与えられて守られたのかもしれない。


「ふっ……」


 竜王の加護をもらってよかった!!!

 私は笑みを溢すと、宙を横に切る。同時に火の玉を三つ作り上げた。


「無詠唱!? てめぇ……! 水と火の無詠唱なんて聞いたことがねーぞ!! 何もんだ!?」


 ルーさんが牙を剥き出しにして問い詰めてくる。

 うん。私も正反対の属性の魔法レベルが高く無詠唱で使えるなんて、聞いたことない。普通は偏るのだ。


「私は名乗りましたわよ?」


 不敵に笑ってみせる。ちょっと演技かかっているかしら。


「仕返しです」


 火の玉をルーさん目掛けて、剣で飛ばす。

 火の玉は例えるなら火炎瓶。ルーさんが躱すと、地面に落ちた火の玉が、火炎を上げる。


「おい! モー! アイツ、何した!?」

「……わかりません」


 ルーさんは三つ目の火の玉を叩き斬ると、モーさんに意見を求めた。

 竜王の加護を持っているなんて、予想も付かないだろう。


「“ーー加速せよーー”」


 また風の魔法を行使して、接近をする。

 今度は火を纏わせた剣を叩き付けた。火花が派手に散る。

 続けて、水を出す。そうすれば、水と火でまた水蒸気が上がり、ルーさんの視界を奪える。爆裂の魔法を使おうとしたその時だ。

 ルーさんが後ろに飛んだ。飛び退いたのではない。後ろに引っ張られたのだ。そんな飛び方をしていたし、ルーさん本人も「うお」とか漏らした。

 私の目の前に、ソーさんが現れたかと思えば、二本の短剣を叩き付けられる。それは風を纏っていて、風圧を感じた。

 一度飛び退けば、状況を目にする。

 ルーさんを引っ張り、離したのはガーさんだ。

 そして、ソーさんが短剣を構えていて、その隣にモーさんがサーベルのように細い剣を持って立っている。

 え。なんか。敵認定されている?

 ビュッと、ソーさんが風のように間合いを詰めてきた。

 こっちは風属性の魔法を無詠唱か!

 力でも負けるのに風に押されてしまい、私は引き離すために爆破させる。中々の威力で、ソーさんが弾かれるように離れた。

 モーさんまで向かってくるその前に、魔力を大量に流して波を作り出す。両腕を突き出して、押し寄せる。

 鬼族の一行は、波に呑まれた。そして、彼らの気配を感じ取り、軽く手を握れば捕らえることに成功する。頭だけ出して水の球体に閉じ込めた鬼が四つ。


「くっ!」

「ちっ!!」


 ソーさんとルーさんが足掻き、風や火の魔法を行使するも、私が握っている間は解放されない。わりと究極の魔法である。多く魔力を消費する分、強力だ。

 レベル10の水魔法は、最強だと自負している。


「はい。私の勝ちでいいですわね」


 そうにっこりと微笑むと、四人揃ってぽっかーんとした顔をした。


「なんでルーさんと一騎打ちだったのに、参戦してきたのですか? 私、敵意はありませんわよ?」


 一応言っておく。怖かったのだろうか。心外である。


「ふざけんな! 二つの属性魔法を無詠唱で操る怪しい小娘に、身の危険を感じないほどバカじゃねーよ!!」


 ルーさんの水の球体は、中で爆発を続けた。まだ足掻くつもりか。


「信じてもらえないかもしれませんが、あなた方の脅威にはなりません。本当に食事を分けていただけて助かりましたわ。それなのに、なんだか険悪な空気にしてしまい、申し訳ありませんでした」


 恩を仇で返したようなものでしょう。悪いことをした。

 すっかり楽しんでしまい、反省をする。それを示すために、深々と頭を下げた。


「解放をしますが……襲ってこないでくださいね?」

「……ご冗談を。我々四人を捕らえることが出来るなら、殺すことも容易いあなたに牙を向けません。そうですよね? ルー」

「……っ!」


 モーさんが確認をすると、ルーさんは顔を歪めるだけ。答えなかったが、モーさんは理解してもらったと判断したのか、頷いて見せた。

 握った手をパッと離せば、水の球体は形を保つことが出来なくなり、崩れ落ちて草原に零れる。

 すっかりずぶ濡れになった一行を乾かそうと思い、火の魔法を使うと言おうとしたが。


「クソッ!!」


 濡れた草原に拳を叩き付けて、ヘコませるルーさん。

 自分が負けるなんて、思いもしなかったようだ。自惚れていた自分に対する怒りか、私という小娘に負けた怒りなのか。悪いことをしてしまったかな。しかし、勝ちは勝ち、負けは負けである。

 ルーさんの悔しい表情と、一行のただならぬ雰囲気から察するに、負けてはいけなかったような、そんな空気だ。


「ンモォオオオッ!!!」


 そこに轟く雄叫び。マンモスによく似た魔獣が現れたのだ。巨大だ。


「ちっ!! ヤツの親か!!」

「そのようですね」


 どうやら、私達が食べたのは魔獣。それも、マンモス型の魔獣だったようだ。美味しくいただかれたことに激昂する魔獣が、ドシンドシンと地面を揺らしながら猛突進してくる。

 一行が戦闘態勢に入ったけれど、私は一撃で仕留めた。

 試したくなったのだ。最強レベルの火の魔法の威力を。

 火の玉を投げ、そしてその腕を振り上げて、燃え上がらせた。

 紅蓮の炎が、空をも焦がす勢いで燃える。

 そしてーーーー真っ黒の黒炭だけが残った。それが朽ちる。


「……」


 これが、竜王の加護でレベルアップした火属性の魔法か。

 怖すぎる。正直な感想だった。

 鬼族の一行に、顔を向ける。同じ感想を抱いたらしく、ジリッと後退りをされた。ドン引きってこれのことを言うのだろう。

 私は貴族令嬢スマイルを保って「何か?」と言わんばかりに、首を傾げてみる。


「っ……!」


 ルーさんが、ガクッと膝をついた。

 まともに立っていられないほど、恐怖したのかと内心焦る。でもそうではなかった。

 自分の意思を片膝をつき、頭を下げている。


「テイムしろ……いいや、テイムしてくれ!」

「えっ?」


 いきなりの発言に目を瞬かせていれば、モーさんもソーさんもガーさんもルーさんのように傅いた。


「鬼族は戦闘種族です。勝者に下ることは、至極当然。どうか、我々をあなた様の配下に加えてください」


 モーさんが説明を加えて頼んできた。


「配下って……私はそんなつもりでは」


 いきなり配下にしてくださいと言われても、困ってしまう。

 私は伯爵令嬢……じゃなくて、冒険者を目指す家出娘だ。

 テイムとは、魔物に名付けをして従えること。名付けをして、魔物がその名を受け取れば完了。何故か人族と魔族だけが出来るのだ。

 すでに名前を持つ鬼族にも、有効だとは知らなかった。


「オレ達が要らないなら、殺せ!!」

「極端ですわね!」


 クワッとルーさんが言い出すものだから、ちょっと待ってと手を突きつけて制止させる。

 従者にするか、殺すか。

 その二択を突き付けられるとは、おかしな話だ。別に主従関係を決める決闘でもなかったのに、どうしてこうなってしまったのでしょうか。

 そう言えば、モーさんが手合わせをする前に確認をしていた。もしかして、鬼族は手合わせイコール主従関係を決める決闘だったのかもしれない。


「冒険者を目指していると仰ったではありませんか。あなたの命令に従う仲間が出来たと思ってください」

「仲間……ですか」


 モーさんが柔和に微笑み、そっと促す。

 一人さすらう冒険者を想像していたけれど、ゲームで言うパーティーが出来たと思えばいいのか。上手く丸め込まれたような気もするけれど、承諾しよう。


「それなら心強いです。では、本当にいいんですね? 私にテイムされても」

「はい」

「二言はねぇ!」

「あなた様に仕えます」

「……」


 念のために確認すると、モーさんはあっさり返事をした。

 ルーさんは誰かの下につくって感じではないけれど、もう覚悟したらしい。

 冷静にソーさんが返事をすると、ガーさんが頷きを見せた。


「そうですか。それでは、テイムさせていただきますわ」


 私は微笑んだ。

 テイムには、名付けが必要。新しい名前を考えてあげなくては。


「ルーさんは……ルーシ」


 今の名前に付け加えるなら、今まで使ってきた名前を愛称に使えるだろう。

 ルーシゲルと付けようと思ったけれど、ちょっと響きがあれだ。なのでシだけを付け加える。

 シゲルはこの先の街の名前だけれど、意味は太陽。太陽みたいなブロンドで、火属性のレベルが高いルーさんにぴったりだろうと思った。


「モーさんは、モーリス」


 これは響きが好きなので、そう名付けてみた。


「ソーさんは、ソーイ」


 これも響きで決めてみただけである。


「ガーさんは、ガーラド」


 決定打は、響き。

 もしや、私はネーミングセンスがない?


「ありがたき幸せ。この力、この身、この心、あなた様に捧げます」


 モーさんことモーリスが告げれば、四人は頭を下げる。

 魔力がごっそりと減った感覚がして、私はクラッと目眩を覚えた。



 

 

20190910

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