22 旅の支度。
ばぁっ!
連載再開しました!
まったりと更新するので、お付き合いいただけたら幸いです。
リディー一行の冒険! 開始です!
ひんやりしたぷるんぷるんの枕に、顔を沈める。
明るさを感じて、目を開けば、朝陽がカーテンの隙間から漏れていた。
起き上がって、んーっと背伸びをする。
見慣れた大きなベッドの上。私の部屋だ。ちょっと夢心地で眺めた。家に帰った事実が、安心感を与える。
私は枕代わりを買って出たスライムのラムを抱えた。
うとうととしていて溶けてしまいそうなスライムを、ムギュッと抱き締める。ひんやりと気持ちいい。
『おはようー、リディー様ぁ』
ラムも、起きた。思念伝達で挨拶をする。
「おはよう、ラム」
私はそっと撫でてから、ベッドの上に下ろす。
ネグリジェ姿で窓まで歩み寄り、そしてカーテンをサッと開いた。
朝陽を浴びて、深呼吸をする。
「ふぅ……!」
深く息を吐いても、胸が高鳴っていた。
緊張と期待だ。
今日、私は正式に冒険者として、旅立つ。
[【名前】
リディー・ラーグ・ライアクア
【種族】人間族
【性別】女性
【年齢】16歳
【称号】伯爵令嬢 転生者 加護の保持者 鬼の主
冒険者 勇者 テイマー
【加護】竜王の加護 迷いの深い森の精霊の加護
【魔法】
水属性レベル10 火属性レベル10
風属性レベル07 土属性レベル06
雷属性レベル01 木属性レベル10
光属性レベル05 闇属性レベル05
【従者】鬼族 ルーシ モーリス ソーイ ガーラド
スライム族 ラム]
これが、今の私のステータスだ。
水色に煌めく白銀の髪と瑠璃色の瞳を持つ、自分で言うのもあれだけれど、美少女。
婚約破棄を言い渡されて、ショックで王都を飛び出したら、魔物に襲われた。
その瞬間に、前世を思い出した転生者である。
それから、幸運続き。
竜王の加護をもらえたり、鬼族の従者達が出来たり、勇者レベルの冒険者になったり……。
家出をして心配もかけたのに、温かく迎え入れてくれた家族の元に生まれて、心から感謝をする。
『リディー様ぁ、着替えないの?』
「すぐ着替えるわ」
ぽやぽやしたような寝ぼけた声で問うラムを振り返って、微笑んだ。
スライム族のラムも、従者である。無性なので、一緒に寝る許可が出た。
ルーシ達もなんだか私の部屋で寝たそうな視線を向けていたけれど、家族の手前、遠慮したみたい。
サイズの小さなドレスをラムに貸してあげて、使用人に着せてもらった。
人の姿になったラムは、黄色の長い髪と瞳を持つ美少女の姿。でも無性である。
そんなラムには、レモン色のドレスを着てもらった。私のお古だ。
ドレスが着られて、大はしゃぎしている。
私はライトイエローのドレスを着たことに気付くと、余計大はしゃぎをした。
そんな朝の支度を終えて、ラムと一緒に腕を組みながらダイニングルームに足を運ぶ。
すでに席についていたルーシ達を見付ける。
「あ、おっはよー主」
「おはようございます、リディー様」
「おはようございます」
「……おはようございます」
こちらに気付くと、すぐにルーシ以外が立ち上がって、朝の挨拶をしてくれた。
ルーシは、少しボリュームがあるブロンドの髪と額から伸びた長めの黒いツノが二つある鬼族の青年。Vネックのシャツとズボンといったラフな格好。
その隣に立つのは、モーリス。一番年上で、オールバックにした白髪。生え際にある小さなツノは二つ。ワイシャツとベストを合わせた格好。イケおじって感じである。
さらに隣にいるのは、ソーイ。モーリスより小柄な鬼族の青年で、群青色の髪と青い瞳を持つ。ツノは左の額の上にあり、右目は髪に隠されている。ハイネックの服を着ていた。
一番低い声を出して、一番大柄な鬼族の男性は、ガーラド。外側に向かって伸びる黒いツノは二つあり、赤茶の髪は襟足が長い。誰よりも逞しい身体つきをしたガーラドは襟を立てたシャツを着ている。
この鬼族の四人と、スライムのラムが、私の従者達だ。
「おはよう、皆。よく眠れた?」
「ああ、ぐっすりだぜ。あんなフカフカなベッドで寝たのは初めてだ」
ルーシがケラケラと笑うように、代表して答えた。
我が家の客室で、しっかりと眠れたようだ。
モーリスが私の定位置の椅子を引いてくれたから、私はそこに座る。
「お綺麗ですね、リディー様」
そっと声をかけてくれたモーリス。
今までのよりフリルで膨らんだドレスを着ているから、褒めてくれたのだろう。
ありがとう、と微笑む。
「見て見て! リディー様のドレスを借りたの!」
ルーシ達の後ろで、ラムはドレスを見せびらかせた。くるりと回って、ひらっとスカートを舞い上がらせる。
「へぇー可愛いじゃん」
「いいと思う」
「……うむ」
ルーシとソーイとガーラドは、褒めてあげた。
「仲がいいんだな、君達は」
そこで入ってきたのは、リディアックお兄様。
「お兄様、おはようございます」
私が挨拶をすれば、ルーシ達も続いて挨拶を交わす。
その調子で、ライアクア家が集合した。
リリィーお母様、ラディアックお父様は一緒に来たから、立ち上がって挨拶。流石のルーシも立って、お辞儀をしてくれた。空気が読めて、礼儀正しくて、いい従者だと思う。お兄様達も、気に入っているみたいだ。
穏やかな朝食をとる。こうした家族揃っての朝食も、しばらくお預けか。
お母様達を見れば、微笑みを向けてくれた。愛と優しさを感じて、微笑みを返す。
食事を終えて、二時間弱が経つと、お母様が呼んだ仕立て屋の一行が来た。
「勇者レベルの冒険者として、ライアクア伯爵家の令嬢として、美しくあってほしいの」
お母様の要望は、美しさ。
戦う中でも、美しさを求める。
ライアクア伯爵家の令嬢として、と言われると背筋を伸ばして固まるほどの緊張を覚える。
「そんな身構えなくていいのよ、わたくしの美しい娘。基本は動きやすさを重視していてその上、美しいドレスを着てほしいだけよ」
お母様に、そっと背中を撫でられた。
「はい、お母様」
「じゃあ、始めてちょうだい」
お母様は、仕立て屋にそう声をかける。
部屋にいるのは、お母様と私とラム、そして仕立て屋の女性陣。
ラムも私と同じく新しい服を仕立ててもらうのだ。
ああではないこうでもないとお母様の指示に従い、仕立て屋の女性陣は行き交う。
前開きのドレスが流行っているから、足を出すのは抵抗もないし、周りにも引かれない。
短パンも、もちろん穿く。けれども、腰に何かしら巻いておく習慣がある。フリルのスカートだったり、レースだったり。
短パンに、前開きのフリルを合わせる。足を上げて、動きやすいことをチェック。身軽でいい。
それに軽いレースを足すように、お母様が言う。
チュールスカートみたいな感じとなった。
透けたレースを摘まみ、長さを確認する。そこは仕立て屋さんに、調節してもらう。
様々な色のレースを、どんどん合わせてもらった。
足首に届くほどがちょうどいいと、一つずつそんなデザインのドレスを作っていく。
「まぁ、本当に! 噂の勇者レベルの冒険者が、リディー様なのですか!」
お母様が自慢したものだから、仕立て屋の女性陣が騒ぎ出した。
「最強の水使いと名高いライアクア伯爵家のご令嬢様であるリディー様が、勇者……! 並みのドレスではいけませんね! 勇者様のドレス! 腕が鳴ります!!」
そして女性陣は、目を爛々と輝かせて、手を動かし始めた。
私とラムは一息ついて、お母様とお茶を啜る。そこで、部屋の扉がノックされた。
「今、入ってもよろしいでしょうか?」
モーリスの声だ。
「よろしくてよ」
お母様が許可を出せば、使用人が開いた。
「リディー様達のお菓子を持ってまいりました」
「あら?」
「お菓子!?」
モーリスを見て、私はちょっと驚いてしまう。黒の燕尾服を着ている。イケおじのモーリスによく似合っていた。
ラムはそれどころではなく、お菓子に飛びつく。
「わぁ! 皆、似合っているわね!」
モーリスだけではなく、ルーシ達も同じく黒い燕尾服でビシッと決めていた。
持っていた箱を運んでくれながら、ニッと笑うルーシ達。
鬼族で筋肉質な体型なのに、上手く着こなしている。
「なんか、今人気のお菓子だってさ。ちょっと王都を見回って、買ってきたぜ。主の噂も聞いたぜー? なんか勇者レベルの冒険者が現れたって、お祭り騒ぎ状態だったぞ。王都の冒険者ギルド」
王都の冒険者ギルドが、お祭り騒ぎ。
想像して気の毒に思う。対応が大変そう。
ルーシは面白がり、ソーイ達は箱の中身を見せた。
小さな三色のマカロンと金箔をまぶしたクリームが添えてあるパンケーキのお菓子。
「美味しそう!!」
ラムはルンルンとはしゃぎ、椅子に戻った。
お母様と囲うテーブルの上に、パンケーキを並べてもらう。
甘い匂いに負けて、私もいただくことにした。
「ボクも、王都を見たかったなぁ……」
「また今度にしましょう」
「そうよ、好きな時に帰ってきたら、その時にゆっくり見回っていけばいいでしょう?」
マカロンを味わっていたいたけれど、羨ましそうにラムはむくれる。
でもすぐに、私とお母様で宥めた。
このドレスを仕上げてもらったら、もう旅立つ。
いつでも帰って来れるのだと思うと、私は顔を綻ばせながらも、クリームを乗せた甘いパンケーキを食べた。
「じゃあ、オレ達も着替えてくる」
ひらっと手を振って、ルーシ達は部屋をあとにする。
「あ、そうそう、休学届も学園に届けたぜ」
「ああ、お父様の同行をしたから、皆格好を決めていたの?」
「主の従者がみすぼらしい格好で、主の学園をうろつくわけにはいかないだろう? まぁ、旅の間は我慢してくれよ?」
二ッと口角を上げてからルーシは、パタンと扉を閉めた。
「ところで、ラグズフィアンマ様には会えないかしら?」
お茶を啜ろうとしていたから、危うく噴いてしまいそうになる。
昨夜に、竜王であるラグズフィアンマ様のことも話した。
「今どこにいらっしゃるのか、わかりません。それに、竜王様ですからね。お呼び出来ません」
「そうよね……残念だわ」
お母様は頬に手を当てて、心底残念がって息を吐く。
ラグズフィアンマ様……今どこを飛んでいるのでしょうか。
私は顔を上げて、窓を見上げてみた。当然、美しいドラゴンの姿はなかった。
◆◇◆
ルオベリ王国の最果ての冒険者ギルドにて。
勇者レベルの冒険者が現れたことが、知れ渡り、騒ぎになっていた。
「勇者……レベル……だと?」
一つの影が、ゆらりと揺れる。
「オレよりも、上のレベル9?」
その影の魔力で、その場の空気が凍てつく。
「どこのどいつだよ……? ああん!?」
ツノの生えた黒い仮面をかぶったそれは、憤っていた。
20200812




