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14 木の精霊。




「せ、精霊様!? 大丈夫ですか!?」


 慌てて、駆け付ける。

 よく見れば、池がほんのり濁っていた。紫色だ。これは毒ではないのか。


「精霊様、触ります」


 断りを入れてから、モーリスが精霊を起こした。

 ぐったりした精霊は、目を開かない。気を失ってしまったのだろうか。

 私は池に手を入れて、水の状態を確認した。やはり毒だ。

 でも即死するものではない。草や花が枯れる程度の微毒。人も飲めば、体調を崩してしまう。しかし、木の精霊には厄介な毒かもしれない。

 すぐに毒を消さなくてはいけないと思い、宙をくるりと人差し指を回してそこに水を作り出す。


「口を開けてください。毒消しと新鮮な水です」


 空気中の水を集め、魔力で増幅させた。


「“ーー淀みも汚れも、清浄であれーー”」


 毒の浄化をさせる光属性の魔法を唱え、水に込める。

 ぽうっと仄かに光が灯った。その光が消えれば、完了。

 精霊の顎を掴んで軽く引けば、すぐに口が開かれた。

 その中に毒消しの水の玉を入れる。顎を上げて口を閉ざせば、ゴクン、と飲み込んだ。

 効くまで少し時間が必要がいる。

 周りを見れば、ガーラド達は熊達を牽制するように見張っていた。

 どうやら、熊も大きなガーラドに勝てないと思っているようだ。襲ってはこないし、動こうともしない。精霊を見守っているようだ。


「……もっと……」


 精霊がか細い声を出す。


「水ですか?」

「う、ん……」


 水を要求。私は掌の上に水を出して、それを一粒ずつ飲ませた。

 ゴクン、ゴクン、と飲む精霊は、やはり女性のようだ。妙齢の美女。

 瞼を上げると、タイガーアイの石をそのまま嵌め込んだような瞳だ。


「もっと!!」

「あっはい」


 クワッと目を見開き、ガッと手を掴まれた。

 どうやら毒から回復しようだ。

 もっと水を作り出すと、それにかぷっとかぶり付いてきた。

 よっぽど喉を枯らせていたようだ。ゴクゴクと飲み干していく。


「ぷはーっ!」


 生き返ったかのように息を吐き出した精霊は、自分で起き上がった。

 着物にフリルをあしらったロングスカートを合わせた、なんちゃって和装な格好。全体的に、若葉色。耳には、白いすずらんのピアスをぶら下げている。


「ありがとうー!」


 がばっと抱き付かれた。ウッディーとミントの香りがする。


「もう何日も何日もずっと、オエーッて感じだったの! 吐きそうで吐けない気持ちの悪さわかる? それで立てなくて、動けなくて、もう最悪! でも、もうすっきりしたぁ!」


 一度離れると、どんな体調不良だったかを訴えるタイガーアイの美女。それから、手放しで喜ぶ。


「それはよかったですわ。私はリディーと申します。精霊様でお間違いないでしょうか?」

「うん、わたしはペリミント。木の精霊だよ」

「ペリミント様ですね。どうして毒に侵されていたのですか?」


 池を覗き込むと、紫色の濁り。

 この毒は一体どこから?


「聞いてくれる!? リディーちゃん!」

「はい、なんでしょう?」

「なんか毒持ちの魔獣が現れたみたいでね! わたしの領域の動物が毒に侵されちゃって! 毒受けた身体で池に入っちゃったもんだから! わたしまで受けちゃって! もう動けないのなんのって!」


 いきなり、ちゃん付けをされるとは驚いたけれども、話を聞く。


「毒性の魔獣ですか……」

「リディーちゃん! お願い! 毒に苦しんでる動物達も治してあげて!」

「精霊様の頼みごとを断れませんわ」


 にこやかに承諾をすれば、精霊は笑みを深めた。


「名前で呼んで! リディーちゃん!」

「では、ペリミント様。この池は動物達の飲み水なのでしょうか?」

「そうだよ、ほとんど飲みに来るよ」

「なら、この水を浄化して毒消しの水に変えさせていただきますね」

「ほうほう!」


 池の中に手を入れて、もう一度唱える。


「“ーー淀みも汚れも、清浄であれーー”」


 ぽうっと仄かに光った。よし。これで池は毒消しの水に変わった。

 あとは動物達が飲めば、回復をする。


「ありがとう! 木属性以外の魔法は全然だめだったから、助かるよ! それじゃあ気を取り直そうか!」


 立ち上がったペリミント様は、どーんと胸を張った。


「強き者よ! よく来た! ……何故ここに来たの?」


 演技かかった口調で言ってきたかと思えば、キョトンと首を傾げたペリミント様。葉が擦り合うように、長い髪が揺れた。


「発言してもよろしいでしょうか? 精霊様」


 私の隣に移動したモーリスが、挙手する。


「よろしい」


 モーリスの下手に出た態度が気に入ったように、ふん! と息を吐いてペリミント様は許した。


「我々は、冒険者のリディー様率いる従者の一行です。依頼されて来ました。“迷いの深い森”で消息を断つ理由を解明するために来たのです」


 私が率いる従者の一行。ちょっと恥ずかしいわ。


「そう。でもここずっと、毒で倒れてたから、人がどうなったかは知らないわ」

「いつからですか?」

「三ヶ月くらい前かしら」


 そんなに!?

 長い間苦しんでいたようだけれど、よくそれで生きていられたものだ。精霊だから、だろうか。けれど、木の精霊故に苦しんでいた。


「十中八九、毒性の魔獣の仕業でしょう。討伐させてもらいます」


 私も立ち上がってみると、ペリミント様の方が背が低い。


「あっ、わたしが見付けてあげる!」


 ペリミント様はそうはしゃぐように言い出すと、中央にある大きすぎる木に手をつけた。

 ソーイやガーラドが魔法でしたように、森の中を探るようだ。

 病み上がりだから止めようと思ったけれど、すぐにペリミント様が振り返る。その拍子に、ふわっと髪が舞い上がった。


「見付けた。この先、真っ直ぐ行ったところにいるよ」

「もうわかったのですか? 大丈夫ですか?」

「わたしは精霊。これくらい大丈夫!」


 ふん! とまた息を吐いて、胸を張って見せるペリミント様。

 精霊の魔力は、桁違いなのだろう。それとも、木属性の魔法だけ、無敵なのだろうか。流石はこの森を支配しているだけはある。


「リディーちゃん、おいで」


 ちょいちょいっと手招きをされたので近付くと、両手を掴まれて引っ張られた。

 額に、ぶちゅっとキスをされる。次の瞬間、ミントの香りに包まれた気がした。


「今……もしかして、加護を授けてくださりましたか?」

「あったりー! 加護をあげるのは何百年ぶりだっけ? 勇者以来だよ!」


 勇者と聞いて、ギョッとしてしまう。


「勇者様に、加護を授けたとは初耳です……」


 歴史の教科書にも、載っていない。彼のステータスも明らかにはされていないから、しょうがないのかも。 


「加護を授けてくださり、光栄です。ありがとうございます。ペリミント様」

「毒から助けてくれたお礼! 魔獣も倒してもらうしね!」


 深々と頭を下げれば、ポンポンと頭を叩かれた。

 見れば、少し離れた位置で、動物達が池の水を飲み始めている。


「それでは、倒しに行ってきますね」

「うん! よろしくー!」


 ブンブンと手を振るペリミント様に見送られて、私達は指差してもらった方角へと歩き出した。

 ふと、ルーシと目が合う。


「運も実力の内」


 ニッとルーシは、また言ってくれた。

 これも実力のうち、か。


「ちょっと確認するわね。ステータス」


 歩きながら、手を宙に翳す。


[【名前】

 リディー・ラーグ・ライアクア

 【種族】人間族

 【性別】女性

 【年齢】16歳


 【称号】伯爵令嬢 転生者 加護の保持者 鬼の主

 冒険者 勇者 テイマー

 【加護】竜王の加護 迷いの深い森の精霊の加護

 【魔法】

 水属性レベル10 火属性レベル10

 風属性レベル07 土属性レベル06

 雷属性レベル01 木属性レベル10

 光属性レベル05 闇属性レベル05

 【従者】鬼族 ルーシ モーリス ソーイ ガーラド

 スライム族 ラム]


 吹き出してしまうことを堪えた。


「どうだった? どうだった?」


 ラムが興味津々にステータスの変化を問う。


「木属性が増えた……」

「そうですね、木属性の精霊ですから」


 先を歩くモーリスが相槌を打つ。


「レベル10」


 私がそう驚いた要因を言えば、モーリスがバッと振り返った。

 後ろのルーシ達も注目しているとわかる。


「いきなり、レベル10に上がるって……精霊って本当に偉大ね」

「木属性レベル10……生まれながら使えるエルフでも、ほとんどいないはずですよ」


 人間と違い、エルフは木属性を生まれながらに使える種族で有名だ。

 木属性と言えば、エルフ族。そう名が上がるほど。

 風や木の魔法は、エルフの専売特許というところだろう。そんなエルフでも、レベル10の域にはそう易々といけない。モーリスは心底感心した眼差しを注いできた。

 振り返れば、ラムは拝んでいたし、ルーシ達も「流石、我が主」といった尊敬の眼差しを送ってくる。

 本当に私は、幸運のようだ。



 

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20190920

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