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10 魔法を獲得。




 救援の人々に名前を尋ねられ、モーリス達は名乗る。


「ちょうど冒険者ライセンスを更新中でして……ああ、リディー様。冒険者ライセンスを提示していただけますか?」

「今出すわ」


 モーリス達は、今冒険者の証であるカードを持っていない。

 私はギルド会館を出る時に収納魔法にしまった金色のカードを取り出した。


「き、金色のライセンス!!?」

「まさか! 伝説の!!?」

「え?」


 驚愕の様子で私のカードを見る救援者達。

 金色だけれど、それが何か?


「勇者レベルだ!! 勇者レベルの冒険者だ!!」


 間近でレベルを確認するなり、一人が騒ぎ立てる。

 そばに立っていた女性が、後ろに仰け反ったかと思えば、倒れてしまった。ギルド会館に駆け込んだ村娘さんだ。


「勇者レベルの冒険者様!!」


 村の人々が、慌てた様子で膝をつく。

 倒れた女性もなんとか起き上がり、跪いた。


「申し訳ありません!! レベル6の冒険者とばかり……勘違いをお許しください!! 本当に申し訳ありません!」


 そう必死に謝るものだから、私はどうしてレベル6と間違えたのか、わからず首を傾げる。


「レベル6の冒険者ライセンスのカードは、黄色なのです」

「えっ……色で分けているのですか?」

「はい。レベル7は銅色でしたが、見ていなかったのですね」

「ええ……」


 モーリスが教えてくれた。

 あの時は、視線を気にしていたのだ。モーリス達が出したカードを、見ていなかった。


「レベル7が銅色、レベル9が金色……ならレベル8は銀色ですか?」

「そうなりますね」


 ちょっぴり現実逃避をしてみる。でも、村の人々に跪かれている現実はそこにあった。


「助けていただいたのに、勇者レベルの冒険者様に差し出せる報酬が……ありませんっ」

「そんな報酬だなんて……」


 いらない、とは言えない。

 私は遠慮が出来るけれど、モーリス達にタダ働きさせたことになってしまう。そう言えば、一文無しの家出娘だと、すっかり忘れていた。報酬を遠慮しているほど余裕がない。

 かと言って、火事で村の半分が焼けてしまったのに、報酬を要求は出来ないだろう。


「報酬は、()()()どうでしょうか?」


 そこに響いた声。聞き覚えがあるけれど、声を発した少女に見覚えがない。

 ブロンドよりも黄色い髪が長く、裾が短いローブと短パンを履いた少女。瞳も黄色だ。


「先程、咄嗟に庇ってくれた人柄に惹かれました! ボクの忠誠を受け取ってください!」

「咄嗟に庇って……? あっ、もしかしてスライムさん?」

「はい! ライです!」


 スライムのライ。驚いて目を見開いていれば、ラグズフィアンマ様が「レアなスライムは、吸収したものに変身する能力を持っているぞ」と教えてくれた。

 吸収したもの。つまり、人間を吸収したことがあるのか。


「あっ、この姿は亡き育ての親からいただきました。この村の住人でして、葬送の時に最後の贈り物でもらった姿です。それからも、この村には親切にしてもらえました。恩に報いるために、あなた様のしもべになります!」


 ライは明るくそう語り、そして頭を下げた。

 納得していれば、村の人々はライにお礼を伝える。


「ボクがこの方の従者になりたいって理由が大きけれどね!」


 なんて、村の人々にお茶目に返すライ。


「では……スライムのライさんを報酬としていただいてもいいでしょうか?」


 私は従者であるモーリス達と村の人々に確認した。

「本人がこう言うので」と村の老人が、頭をもう一度下げる。


「何かごちそうをくれ!」


 モーリス達の意見を聞く前に、ラグズフィアンマ様がそう要求をした。

 ヘルサラマンダーのボスを追い払ってくれたのは、ラグズフィアンマ様だ。貢献したのだから、要求するのも当然。


「で、では、なんとか料理をお作りします!」


 人々は急いだ様子で村に戻る。


「オレ達もごちそうをもらうだけでいいか」


 そう頭の後ろで腕を組んで、ルーシが言う。


「いいの?」

「主だって、この村から無理に金をもらっても気分悪いだろう? いいよ」

「ギルドから少しばかり報酬が出るはずです。それで十分ですよ」


 モーリスからそれが聞けて安心をする。報酬。少しお金がもらえるなら、生活が出来る。一文無しは、つらい。


「テイム、してくれませんか?」


 期待の眼差しで待っているライに覗き込まれた。


「ええ、もちろん。私はリディーよ。あなたの新しい名前は……」


 名前を名乗ってから、テイムに必要な名付けを行う。


「ラム」


 スライムのライから、ラムに変更。

 ライムも考えたけれど、ちょっとそれでは緑色を連想してしまう。

 だから、イを抜いてラムにさせてもらった。

 やっぱり、ネーミングセンスないのかしら。


「はい! 今からボクはラムです!」


 ライからラムに変わった人型のスライムは、嬉しそうに顔を綻ばせる。

 テイム、完了だ。

 私はまた魔力が吸い取られる感覚と目眩に襲われてしまい、気を失った。

 そう言えば、結構魔力を使ったあとだ。それにレア種のスライム。また特殊なテイムとなったに違いない。




 寝返りを打つと、頬がぷにぷにのぷるんぷるんに埋もれた。

 水のベッドかしら。私ったら、長い夢でも見ていたのだろうか。

 鬼族と会って、勇者レベルの冒険者になって、ヘルサラマンダーの鎮火をして……いや、どう考えても夢ではない。

 我に返った私は目を開いて、頬に当たるぷにぷにの正体を探る。

 黄色い。あ。スライムか。

 スライムのラムを枕がわりに寝かせられたみたい。


「ん……いい香り」


 まだ焦げた香りもするけれど、食べ物の香りも鼻に届く。


『食事、出来てますよ!』

「ありがとう、ラム」

『えへへ』


 やっぱりスライムのラムが、枕になっていた。


「ここは……」

『ボクの家です!』


 簡易ベッドに、質素な印象を抱く小さなベッドルーム。


「おう。気が付いたか、リディー。ほら、料理だぞ」


 ラグズフィアンマ様が、尻尾でドアを開けて入ってきた。両腕にはウエイターのように食べ物が乗せられたお皿を置いて、運んできてくれたのだ。


「ありがとうございます」


 髪型が崩れていないことを確認してから、ベッドから立ち上がる。

 すると人型になったラムが、後ろから抱き付いてきた。

 ……胸がないわね。つるぺた……はっ! 失礼ね。忘却!


「ステータス確認してみて、リディー様! きっとびっくりしますよ!」

「? ……ええ、今確認するわ。ステータス」


 ラグズフィアンマ様も待ってくれるようなので、手を翳してステータスを表示した。


[【名前】

 リディー・ラーグ・ライアクア

 【種族】人間族

 【性別】女性

 【年齢】16歳


 【称号】伯爵令嬢 転生者 加護の保持者 鬼の主

 冒険者 勇者 テイマー

 【加護】竜王の加護

 【魔法】

 水属性レベル10 火属性レベル10

 風属性レベル07 土属性レベル06

 雷属性レベル01

 光属性レベル05 闇属性レベル05

 【従者】鬼族 ルーシ モーリス ソーイ ガーラド

 スライム族 ラム]


 称号に勇者が新たなに加わっていたので、目が飛び出るほど驚いてしまう。

 勇者レベルだから、勇者の称号がついてしまったのだろうか。

 そんな大それた存在ではないのだけれども……。

 勇者の次に目についたのは、雷属性レベル01。


「雷属性魔法を獲得!?」

「びっくりした? ねぇ、びっくりした?」


 鬼族をテイムしたあとに火属性と風属性と土属性が上がったように、魔法を新たに獲得してしまったようだ。

 雷属性は、とてもレアな魔法である。魔法を学ぶ学園でも、習得は困難とされている。


「ラム、あなた、雷属性の魔法を持っていたの?」

「そうだよ! すごいでしょう?」


 えっへんと言わんばかりの顔をするラム。


「ええ、とてもすごいわ……」


 私は感心しながら、ラムの頭を撫でた。ぷにぷにせず、普通に艶のある髪の感触がする。


「だから黄色なの? レア種のスライムは」

「いや、ラムが特殊なだけだ」


 ラグズフィアンマ様は代わりに答えてくれると、お皿を一つ差し出してくれた。フォークとナイフがセット。多分、鶏肉料理だ。

 ありがたく受け取る。


「おー、主。起きた。よく気を失うな」

「仕方ありません。立て続けに魔力を使ったのですから」


 どうやって食べようかと立ち尽くしてれば、ルーシとモーリスが顔を見に来てくれた。一日に二回も倒れるとは、なんとも面目ない。

「ダイニングテーブルはこっち」と、ラムに背中を押された。

 ベッドルームを出れば、また小さなダイニングルーム。

 村の一人暮らしなんて、こんなものなのだろう。

 これまた小さなテーブルには、すでに料理と飲み物が置かれていた。


「すみません、リディー様。料理をもらいすぎました」


 ラグズフィアンマ様とは別に、ソーイとガーラドが持ってきてくれたもよう。


「いいよ、オレ達で食べちまえ」


 テーブルに置かれた料理を、ルーシが受け取る。

 私はラムに引いてもらった椅子に座り、夕ご飯を食べさせてもらう。

 照り焼き風に味付けたチキン。美味しい。

 話を聞くと、村の人達は救援に来た人々にも料理を振舞っているそうだ。無事だった家でどんどん料理を作っては運んで渡していて、外は宴会状態らしい。

 ルーシ達の分の椅子はないので、床で座って食べている。慣れている様子だ。

 お腹を満たした私は、早速獲得した魔法を使ってみることにする。


「“ーー静かなる雷をーー”」


 ラムに教わった呪文を唱えれば、合わせた手の中にチリチリッと静電気が発生する。

 これが雷の魔法か。

 ルーシ達も持っていない魔法だから、食い入るように見てくる。


「そうだ。ラムは何か変わった? 姿はさっきと変わっているようには見えないけど」

「んー、特には……あ、水属性と火属性のレベルがアップしたこととスライムの時の大きさが少し膨れたくらいかな」


 あら? そうだったかしら。

 レベル10の魔法は、従者にレベル1アップさせる。

 高い魔法レベルの属性を持つ従者にした主人は、そのレベル1アップするようだ。


「おい。いつまで主に引っ付いてるんだ。いい加減離れろ」


 ルーシが指摘したのは、ラムだ。私の肩に顎を乗せている。


「無性でも、くっ付くな」

「無性? ……えっ、ラム、女の子じゃないの?」


 性別がない。女の子の姿なのに、無性。


「スライムだもん」


 そうだよね。スライムだもんね。

 ……知らないわ!?

 だから、つるぺただったのか。

 ラムはそれでも私にべったり。ルーシが引き離そうとした。

 もう陽がどっぷりと暮れてしまったので、シゲルの街に戻ることは明日にして、一泊させてもらう。場所は、ラムの家。ベッドが一つしかなかったからどうしようと思ったけれど、スライムに戻ったラムと私で使っていいと言われた。モーリス達はその辺で寝ることに慣れているとのこと。

 私は申し訳ないと思いつつ、ぷるんぷるんのラムを枕にして、また眠らせてもらった。



 

20190915

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