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01 令嬢は転生者。




懲りずに新連載! なんと101作目(。・ω・。)ノ



20190908




 私の婚約者は、第一王子だった。

 過去形なのは、今、婚約破棄を言い渡されたからである。


「私はこのトレイシー嬢に恋をしてしまった。だから、リディー嬢、私との婚約を破棄させてくれ」


 そう告げられた。

 サラサラしたブロンドとブルーアイを持つ美しいと賞賛される容姿のスチュアート王子。私の婚約者だった。学園を卒業したら、結婚をする。親同士が決めた相手。それが決まったのは、十歳の時だ。

 それから六年、伯爵令嬢としての教育から変わって、王妃になるための教育を受けた。

 王妃になる未来が確定していたから、厳しい稽古にも耐えてきたというのに、いきなり婚約破棄。

 いや、予想は出来ただろう。

 何しろ昨日の夜会で、スチュアート様とその隣にいるトレイシー嬢は注目を集めた。

 厳密にはトレイシー嬢である。

 彼女は、普段素朴な令嬢だった。男爵家の令嬢で、化粧っ気が全くない平凡な顔だ。ブロンドの髪はいつもしっかりと結ってあって、パーティーやお茶会ではドレスもシンプルのものばかり着ていた。

 なのに、昨日は突然、長いブロンドをクルクルに巻いてカールさせ、桃色のフリルドレスを着て、登場。顔には化粧を施して、とても綺麗だった。

 素朴な令嬢という印象から一転、華やかな令嬢に変身。

 スチュアート様は、一目惚れしたようだった。

 その時に、この展開は予想出来たはず。

 いや、やっぱり、予想は出来ない。

 だって、こんな公衆の面前で、告げられるとは夢にも思わないでしょう。

 ここは学園の庭園。私と友人がテーブルを用意して、お茶会を楽しんでいた。周囲には、カップルや友だち同士がお喋りを楽しんでいた。

 そんな中、スチュアート様は婚約者のいる身でありながら、トレイシー嬢をエスコートしてやってきたのだ。当然注目が集まった。修羅場だと、期待した眼差しもあったのだろう。

 そんな注目を浴びる中で、私は婚約破棄を言い渡されたのだ。

 ここで食い下がったら、どうなる?

 恋に落ちた。そう宣言したスチュアート様の恋路を、邪魔する嫌な令嬢でしかなくなるだろう。

 昨夜のパーティーでは、スチュアート様は明らかに恋した表情でトレイシー嬢といた。周囲の目にも明らかだったのだ。外堀を埋められた。

 私は、邪魔者でしかない。彼らの障害。

 築き上げてきたものが、崩れ落ちていくようだった。

 それでも、そこで卒倒しなかった自分を誇りたい。


「もちろんですわ。スチュアート様」


 笑顔でそう返したのだから、褒め称えてほしいものだ。


「お幸せに。トレイシー様」

「はいっ! ありがとうございます! リディー様!」


 一礼するトレイシー嬢は、今日も髪を結っているけれど、化粧を施した顔だ。頬を紅潮させているそんな彼女を、スチュアート様は優しく撫でた。

 私はそんなこと、されたこともない。

 友人達に呼び止められても、私はスタスタとその場を歩き去った。

 倒れてしまうその前に。

 どこでもいいから、逃げたかった。

 卒倒してしまうその前に。

 もっと遠くに離れてしまいたかった。

 壊れてしまうその前に。


「どこでもいいから、遠くまで行ってちょうだい」


 気付けば、私は学園前で待機をしていた自分の馬車に乗り込んで、御者に伝えていた。

 馬車に揺られて、意識を失うようにぼんやりと窓から流れる景色を見つめる。あっという間に、時間は過ぎ去った。何時間過ぎたのだろう。

 ハッと我に返った頃には、学園と家がある王都を出ているようだ。景色が、街並みから森に変わっている。


「ひぃいいっ!!!」


 御者のルンバの悲鳴が聞こえた。

 すると馬車が横転して、中にいた私は投げ出されてしまう。

 何が起きたのか、状況を把握しようと周りを見た。

 真っ先に目にしたのは、魔獣が三体。巨大な犬型。

 動物とは違いペットにも出来ない獰猛で、また魔物は違い知能が低い獣。

 馬が食われている。肉を咀嚼する音が聞こえた。

 黒い三つ目がギョロッと私を捉える。

 あ。私だ。次に食い殺されるのは。

 死ぬのだ。

 そう直感し、恐怖した瞬間だった。


 私は思い出す。


 生前の記憶。前世の自分を思い出したのだ。

 私は地球の日本で、オタク女子だった。

 不運にも事故に巻き込まれて、死亡。その時も、恐怖した。

 それが引き金になったのだろう。

 私は――――。


「“――引き裂け、風の刃――”!!」


 風の魔法を行使して、喰らい付こうとした一体の魔獣を切り裂いた。

 それから、ブーツを踏み鳴らして、剣を召喚する。光る白い円から出てきた剣を掴むなり、飛びかかる魔獣の首を刎ねた。続いて、最後の魔獣の額の目に剣を深々と突き刺して仕留める。

 どしん、と倒れる魔獣を見てから、剣を振って血を払う。

 周囲にもう魔獣がいないことを一瞥したあと、私は一息つく。


 ………………令嬢に転生してよかった〜!!!


 死にかけた私の心臓は、バクバクと震えている。流石に怖かった。また死ぬかと。

 伯爵令嬢として育てられた私は、自分の身は自分で守れるように、攻撃魔法も剣術も叩き込まれていた。魔法も学ぶ学園の実技試験でいい成績を出していた、それが発揮出来てよかったと思う。

 私のためにお金を惜しむことなく、教育に注ぎ込んでくれたお母様とお父様に感謝。たまにお相手をしてくれたお兄様にも感謝を送ります。ありがとうございます。


「あっ! ルンバ! 大丈夫!?」

「お、お嬢様っ」


 やや小太りの御者のルンバの無事を確認しようと、横転した馬車の後ろを探した。

 ちゃんと無事だ。ガクガクと震えているけれど。

 そもそもあなたがこんな森まで馬車を走らせたせいなのよ。

 そう言ってやりたかったけど、遠くまでお願いしたのは私だ。責めることが出来ない。


「無事なら、馬車を元に戻して」

「も、もう魔獣はいないでしょうか?」

「私が確認しているから、お願い」


 私が見張っている間に、馬車を起こしてもらう。もちろん、彼も魔法を使う。念力の魔法で、なんとか押し上げるのだ。

 その間、森を見張る私は、額を押さえた。

 スチュアート王子が婚約破棄した場所と時間は悪い。もっと二人きりの時に、または両方の両親の同意を求める場で告げてほしかった。

 でも彼の気持ちはわかるのだ。

 だって、私は少女漫画や小説が大好き人間だった!

 化粧っ気のある女性より素朴な女性がシンデレラのように王子を射止める話が大好物だったのだ!

 おめでとうコノヤロウ!!!

 婚約破棄のショックから、祝福の気持ちが勝ってしまった。

 素朴なトレイシー嬢と逆に私は、化粧をしたようなはっきりした顔立ちである。アイラインを書いたようなくっきりした目元に、黒く長い睫毛。瞳は、瑠璃色。整った睫毛は、手入れが不要。唇にはいつも真っ赤な口紅をつけている。色白の肌には常に日焼け止めを塗って、その白さを保っていた。

 長い髪は水色が仄かにある白銀色。毛先がくるりんとしているのは、いつものことである。そんな髪をハーフにまとめている髪型。

 はっきり言って、美少女である。

 え? ちょっと待って。化粧映えする素朴な令嬢より、元から美少女の令嬢の方がよくない? 美少女だよ! 美少女!!

 あっ! でも、スチュアート王子はこの顔に飽きたから、トレイシー嬢に恋をしたんだよね! ごめんね!!

 改めて考えると、素朴な令嬢に敗北してしまった美少女令嬢って、ダメージ大きい。私は次に胸を押さえた。

 どう足掻いても、私は婚約破棄をされた令嬢だ。男爵令嬢に負けた伯爵令嬢。王子に捨てられた令嬢。素朴な令嬢に婚約者を取られた美少女令嬢。


 や、やばい……!

 家族に合わせる顔がないわ!!


 今世の家族はとっても愛情深い人達だ。

 前世はあまり家庭環境が良くなかった。両親の別居、離婚に、そして再婚。ちょうど思春期だった私が受け止めることが出来なくて、現実を直視をしないように漫画や小説に逃げた。漫画や小説の世界が、私の心の拠り所だったのだ。

 今世のお母様もお父様も、物心ついた頃から、私に愛情を注いでくれた。溺愛と言うのだろう。お兄様も、暇さえあれば、私を膝に乗せて本を読み聞かせることまでしてくれた。

 愛されていたのだ。そう思うと涙を流しそうになった。

 しかし、今回の婚約破棄を知ったら、どんな反応をするだろうか。

 きっと失望してしまうのだろう。反応が怖い!

 勘当か!? 勘当なの!? 家族の縁を切られてしまうのか!?

 王妃になるための準備を無駄にしたことを責められる!?

 ごめんなさいっ!!! 私だって、私だって! 本当は私を選んでほしいとすがりたかったけれど、どう考えてもスチュアート王子の好感度は、全部トレイシー嬢に持っていかれてしまっていたから無理! トレイシー嬢に婚約はもう決まっているって言い放ったら、私は悪役令嬢になっちゃうじゃん! 無理よ! 詰んだわ!! 令嬢人生が詰んだ!!


「お、おお、お嬢様っ!!」


 ルンバに呼ばれて、振り返る。

 なんだ、人が、十六歳で人生が詰んでいると悲観している最中に……!?


「!!?」


 舞い降りた。それを見て、驚愕をする。

 ドラゴンだ。馬車なんて軽く踏み潰せそうなほど巨大なドラゴンが目の前に舞い降りて、覆い被さるように私達の上にいた。



 

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