藍川姉妹にお気をつけ
この小説は魔法やバトル、世界分が無く、藍川姉妹と梓好香の一年後にむけた、ドタバタとした日常を書いている小説です。
朝5時40分、この下宿の朝は早いもので6時朝食。億劫な手付きで鳴りやまない時計に制裁を下そうと私の手が無造作な雨となって周辺に降りそそぐ。カチッと爪に絶妙にスレ違った時計は床に転げ落ち、苛立った私はようやくベッドからなめくじのように抜け出して、時計の騒音を止めた。
「全く…ご機嫌ですねぇ」
誰に対する訳でもなく、ベッドから半身ずり落ちている体制のままボソッと呟く。ああ、最近独り言が増えたねえ。いや、若干17才で老化がスタートを切ったって訳でもないんだけど。まってまって、誰が決めたんだ。老化は17才でも進むかもしれないよ。いや、そうだと困るから、老化じゃないことにしておこう。ああ、時間がもう50分に。起きなきゃ、起きなきゃ。よいしょー。
心の掛け声と共にスタンドアップした私は、6畳の部屋のうち1畳分を占拠するタンスから服を取り、手早く着替えを済ませた。ちなみに三畳はベッド、2畳は机。ぎゅうぎゅうである。おっと、閑話休題。
「好香ちゃん、ご飯だよー!」
「あ、今行きます!」
下宿のお母さんからの声に完全に目が覚めて、慌てて3階から1階へ走り下る。下宿は細長く、横があまりない建物なので声や足音が良く響く。ゴメンなさい、下宿のお父さん。私の足音が煩いと思います。ええ。
「遅れました、スミマセン」
「いいの、いいの。今日は特別許しちゃう」
そう言うと下宿のお母さんはチラリと私の後ろを見た。
「えと、どちら様ですか?」
私の後ろにいつの間にか居たのは、漆黒の大きな目と漆黒の綺麗な艶のある髪を持つ女性。彼女は髪を真ん中で分けていて、肩に掛かる位まで伸ばしている。おまけに軽く外にはねていて可愛い。大きな目の前には、これまた大きな黒渕眼鏡。時代外れな眼鏡だが彼女についた眼鏡は何故だかファッションのようで、キマっていた。左目にある泣きボクロがアクセントみたい。服装はマントのような黒いフード付きコートを着ていた。ここまで、黒づくめの彼女の靴下は真っ白。何故かドキッとした私は変態だろうか。足フェチだろうか。いや、それは無い。一度も足でときめいた事など無い。いや本当に。誰に言い訳してるのだろうか。だろうか。
「藍川祥子、27才、164センチ、バストはC、職業は会社員、階級は部長という名のフライ級。宜しくね、梓好香ちゃん!」
語尾に音符が三個付く位のハイテンション。まあ、突っ込み所はそこでは無い。
「あの、失礼ですが年齢は本当に27才で?」
「はい、勿論!ちなみに好香ちゃんは本当に15才?」
「ええ、勿論。身長は145センチですがまだ伸びます。話を戻しますが、本当の本当に27才?」
「皆からは20才がいいとこって言われます、照れまーく?」
いや、疑問符つけられても…しかし、20才がいいとこってのは本当。肌の艶なり、顔の造りといい、高校生でも通じそう。
「ちなみにね?部長も本当だよ、苦笑い〜」
わざとらしい苦笑いを浮かべ、私を見つめる。ちょっぴりときめく。いや、あー、本当かな?苦笑い〜。
「あのね、好香ちゃん!祥子お姉さんは今日からこの下宿に住む事になったの!何でも有名な国立大学の卒業生だから、勉強教えてもらいなさいな!あっはっは!」
下宿のお母さんは男らしく笑い、私をポンっと叩いた。多分、私専属の下宿となりかけていた所に人が入り、下宿らしくなる事が嬉しいのだろう。頑張れ、52才!
なに言ってんだよ、私。
「じゃあ、おばさん!ご飯食べましょうか!」
「ほい来た、祥子さん!」
なんだ、このハイテンション…無駄に仲が良い二人に引きつつも台所にある食卓の椅子に座った。
「いただきます」ウィンナー、ぱくり。
「へへへ〜」
私を見てにやける藍川さん。
「どうしました?」目玉焼き、ぱくり。
「別にー!可愛いなってね」
「…なんですか、それ」ウィンナー、ぱくり。
あれ、ウィンナーなくなった。開始早々ペース配分を間違えた。
「あら、お父さんいないわ。ちょっと呼んでくるわね」
ドタドタと足音を鳴らせ、2階の部屋へ下宿のお母さんが下宿のお父さんを起こしに行った。
「…あずあずー」
「?…私の事ですか?」
「そう!あずあず、あーん!」
箸に刺したウィンナーを向かい合わせの形で私に向ける。