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産廃水滸伝 ~産廃Gメン伝説~ 9 産廃錬金術  作者: 石渡正佳
ファイル9 産廃錬金術
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通夜の追跡

 法事のため、伊刈は午後四時に仕事を早退し、自家用車のパジェロて自宅に向かっていた。東洋エナジアの水沢に印象が似ている叔父が入院先の県立がんセンターで亡くなり自宅で通夜の予定だった。ところが国道に出るなり廃棄物を撒き散らしながら疾走しているダンプを発見してしまった。怪しいと睨んだ伊刈は通夜どころではなくなり追跡を開始した。ダンプは国道から県道、さらに市道へと折れた。どうやら太陽環境の最終処分場へ向かっているようだと気付いた。

 違法車両だと思ったのは勘違いだったかと思い直しながら伊刈は搬入口の手前でブレーキを踏んだ。その直後、予期しないことが起こった。追跡してきたダンプが搬入車受付を素通りして場内に直行したのだ。伊刈はブレーキをアクセルに踏み直しダンプの追跡を再開した。受付の係員の制止に対して身分証をかざしただけで伊刈も場内へとノンストップで進行した。ダンプは最終処分場の一番奥へ向かっていた。鉄板が処分場の底に開けた穴に向かって敷かれていた。不法投棄現場で見かけるジャンプ台である。穴の縁で三百番台の大型バックフォーが一台稼動していた。ダンプはジャンプ台をバックし始めた。廃棄物を穴に投棄しようとしているのだ。見知らぬパジェロの進入がしてきたのを作業員たちが何事かと見守る中、伊刈は車を飛び降りて廃棄物に沈み込むジャンプ台をのろのろとバックするダンプの運転席の横に立った。

 「そのまま待て」

 伊刈の命令に従ってダンプが停止した。積荷をダンプアウトする寸前だった。ジャンプ台の先には大穴が掘られていた。深さは五、六メートルと思われた。最終処分場の場内ならどこに何を埋めてもかまわないというわけではない。処分場の底に大穴を掘れば形状も容量も変る。一割以上の増量は変更許可がなければできないし、それ以下の変更でも届出は必要である。つまり伊刈は無許可もしくは無届変更の現行を捉えたのだ。現場をそのままにしておくようにオペレータに指示してから伊刈は環境事務所に連絡した。既に五時を回っていたにもかかわらず、長嶋、遠鐘、喜多の三人が現場に向かった。三人が到着するまで伊刈は工場長の永塚から事情を聞いた。

 「社長はどこ?」

 「今日本にいないんですよ。協会の視察旅行で中国に行ってます」

 「じゃ倅さんは」

 「専務も今日は来てません」

 「連絡はつくの」

 「ええたぶん」

 「じゃあ呼んで」

 「わかりました」

 「ここに穴を掘れと命じたのは社長かな」

 「ええまあ、どっちかっていうと専務かなあ」

 「はっきりしないね」

 「専務に聞いてくださいよ」

 「もしかして深穴はここが初めてじゃないのか」

 「さあ、どうでしょうかねえ」永塚は他人事のように嘯いた。

 チームの三人が到着したので穴の大きさを計測した。深さは六メートル、広さは縦横十メートルだった。重機が大型なので不法投棄現場のジャンプ台よりも大きな穴だった。計測を終えても御園専務は姿を現さなかった。現場をそのまま保存するようにと口頭で命じ、書類の調査を三人にゆだねて伊刈はやっと通夜の会場に向かった。自宅に寄って喪服に着替える時間がなくなり仕事着のままで焼香した。祭壇の写真を見るなり、やっぱり水沢に似ていると思った。性格はよいのだが酒癖が悪いため家族からは疎まれていた叔父だった。死ぬ間際には断酒会に入ったりして更生を期していた。その矢先肺がんが見つかった。寂しい往生かと思っていたのに友人は多かったらしく通夜会場は賑わっていた。人生の濃さは他人には計り知れない。

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