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社畜の邪術  作者: 初永姚
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社畜の追放

文章の指摘ください。

少しの間呆けた表情で固まった後、ライトは思いだしたかのように反論する。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ!」


静まり返った占いの場にライトの焦った声が響く。


「なんでまた俺が追放なんてされなきゃいけないんだ!確かに俺は怪しいし、黒い穴から出てきた時点でもうほとんどアウトなんだろうけど、そこのお前…、ラクスは俺が一般人だって認めてただろ!?」


悲鳴のように悲痛なライトの言葉にラクスは無表情で言う。


「なぁ、ライト・アサヒ。お前の職業がなんだったかわかるか?」


「あ?邪術師なんだろ?でもそれがどうしたんだよ?俺の知識の中では、邪術ってのはただの魔術と同じような物だったと思うんだけど…。それじゃあ、ここには魔術師っていう職業がないから恐れられてる、とか?」


ライトの問いにラクスは静かに首を横に振る。


「いや。魔術師やそれに近い力を持つ陰陽術師、奇跡師や仙術師などは確かに存在している。」


ラクスの言葉を聞いてライトは一度落ち着いてから怪訝そうな顔をする。


「じゃあなんで追放なんてことになるんだよ?」


ラクスはライトの問いに元々鋭かった視線をさらに鋭くしながら答える。


「お前は、白魔術と黒魔術を知っているか?」


ライトは元の世界でもそこまでオカルトにハマっていたわけではなく、中二病の時は基本的に適当なことを言っていただけなのでそんなことなどわからない。ラクスの問いに、名前のみで中身を想像して答える。


「白魔術が良い魔術で、黒魔術が悪い魔術、とか?」


「いや、そういう分け方ではない。」


基本的なことである、白魔術と黒魔術の違いもわからないことに呆れてため息を吐く。だが、呆れたようでありながらもラクスの表情にはわずかな安堵が浮かんでいた。


「なら、この街からの追放の餞別として白魔術と黒魔術の違いを教えてやろう。」


最早エヌマからの追放、という言葉には誰も、ライトでさえも異を唱えない。社畜であった時の上司の有無を言わせずに仕事を無理やりやらそうとしている視線に気づき、なにを言っても無駄だと悟ってしまったからだ。


「まず、白魔術だが、これは基本的に物質に干渉する魔術の類だ。通常の魔術や錬金術、陰陽術や奇跡術、仙術、そしてお前を今占った呪術などがこの部類に入る。」


そこまで一気に喋ってラクスは一息つく。ラクスの言葉の中に自分の知らない物があったので、ラクスが説明をまた始める前にライトはラクスに問いかけた。


「なあ、説明の腰を折るようで悪いんだけど、その…、奇跡術、ってのはなんだ?」


「なんだお前、そんなことも知らないのか…、って、職業を魂に刻み付ける技術もないような遠い国の出身なのだったな。ならばそんなことも知らない、ということに一々ツッコむのも野暮か…。」


呟いた後にラクスは若干熱の籠ったような声で喋り始める。


「それだけ遠いところから来たのだったら、単語は知っていようとも、中身まではよく知らない物もあるだろう。よし、最初から説明してやろう。」


「いや、いいんだけど…」


若干迷惑そうにしているライトの様子を無視してラクスは少しだけ声のトーンを上げながら説明を始める。わずかに顔が紅潮し、目も光っているように見えるのは気のせいだろう。


「それではあ、まずは基本の魔術からだ。魔術とは、自分の体内に存在する「マナ」と呼ばれる目に見えないような小さな物質を使って事象に介入し、それを思い通りに改変するものだ。マナの量は人それぞれで、マナの量が多ければ多いほど兵士への適性も高くなる。軍の中では特別な位置づけとなり、マナが一定量以上ある魔術師は一個師団と同等の戦力を誇ると言われていて、現在我がエリシュ王国の中に二十二人いる。彼らは一人一人が戦争に適応した独自の魔法を持っていて、それを使うことによって一国を滅ぼしたこともある。さらに二十年前には…」


「ちょ、魔術のことは理解したから、次を頼む!」


テンションの高いラクスの話を途中で斬って次の話を促す。その声には、うんざりしたような響きが聞いただけでもわかるような多さで含まれていた。


若干苦笑いをしている周りの呪術師の目線に囲まれて、ラクスは自分が説明に没頭しすぎていたことを理解して一つ咳ばらいをする。ヘイネルから向けられたような敵意の目線ならともかく、微笑ましい物でも見るような目線には慣れていないのだろう。


「錬金術とは、魔術の中でも物の構成材料の改変に特化した物だ。魔術には呪文の詠唱が必要だが、錬金術にはそれが全く必要ない。その代わりに錬金術では物質に魔法陣を描いてそこに体の一部を密着させてそこからマナを流し込み、それによって物質の状態や質などを変えることができる。というか、それしかできないのだが。

だが、マナと呪文のみを使って事象を改変する魔術とは違って、錬金術の物質の改変には限界がある。

それは、同じ量の物からは同じ量の物しか作り出せない、まあ所謂等価交換、というやつだ。まあその言葉を知らなかったら意味だけ覚えれば良いぞ。」


ライトが目の前で納得したように頷いているのを見て理解したのだと解釈してラクスは話を続ける。


「陰陽術は、魔術の中でも質量を持たない物質に干渉することに特化した物だ。陰陽術で使うのは詠唱で、それによってマナを質量を持たない物、もしくは質量の物凄く小さい物に浸透させて、マナを媒体にしてそれを操れる。まあ、操れる物の実例としては、水や空気、あと有名なのが死者の霊など、だな。それで…」


「死者の霊を操るって、どういう風に操るんだ?」


陰陽術を使えば自分が憧れている歴史上の人物などに会って話せるのではないか、と意外にも歴史オタクの気質があるライトはラクスの説明を遮って問いかける。ラクスはそうだな…と考えるようなポーズを取ってから答えた。


「私は陰陽師ではないのでよくわからんが、昔聞いた話だと、呼び出したい人に強く関わっている物、例えば遺骨などだな。まあ、それを使って霊を召喚した後に霊を説得して、それで使役することを許してもらうらしい。説得できるようになるためにはかなりの実力が必要なんだそうで、一部の陰陽師のみができる術らしい。」


「それじゃあ俺には無理かぁ…」


自分では到底できないような術であったことを知ってライトはガックリと首を垂れる。そんな様子をチラリと見ながらもラクスの解説は続く。


「それで、次に仙術だが、実際に仙術の職業、仙人に就いている者はほとんどいない。精々この大陸に三十人いたら良い方だろう。」


「マジか…」


ライトは驚きの声を上げる。魔導大陸の中にどれだけの人口があるのかは分からなくとも、その中で三十人いるかいないか、という少なさの仙人の貴重さはライトにもよく理解できた。


「仙術のことについてなんだが、現時点ではなにもわかっていない。強さも原理も、使い手さえも、な。」


若干雑な説明にライトは不満そうな表情を浮かべる。


そんなライトにめったにしない申し訳なさそうな顔をしながらもラクスは最後の説明に入る。


「呪術は占いをやることに特化した魔術で、基本的に選職をできることはもう知っているだろうから、最後にお前が知りたがっていた奇跡術だ。

奇跡術は、簡単に言えば、この世ではありえないことができるだけの魔術だ。

奇跡術の世界の法則を完全に無視した現象は、魔術の到達点とも言われている。

まあ、この世に奇跡術師は一人しかいなかったし、その奇跡術師も五年前に死去したからな。」


「そうか…。じゃあ…。」


「ああ。奇跡術は現在、この世には存在しない。新たな奇跡術者が現れるのを待つしかないだろうな。」


奇跡、という言葉になにか神秘めいた物を感じていたライトはまたもや首を垂れる。


そんなライトの肩にふと誰かの手が置かれる。


振り返ったライトの目に入ってきたのは、黒い穴が出現したときに城から打って出た騎士たちとはまったく違う漆黒の色の鎧を纏った三人の騎士たちだった。


「ラクス王子。コレが邪術師なのですね?」


ライトの肩に手を置いた騎士はその手に込める力を少し強くしながら低い声で問いかける。


「ああ、その通りだ。」


ラクスの言葉を聞いて兜の中の兵士たちの目が憎悪に塗れた薄暗い物に変わる。


「やめろ。」


もう一人の騎士が剣を抜こうとしたのを見てすかさずラクスは制止の声をかける。


しばらく震えた後に一礼して剣の柄から手を放した騎士を見てラクスは言う。


「お前の気持ちはわからんでもないが、生憎とその男、ライト・アサヒは追放処分が決定している。ここでソイツを斬ったりしたら、逆にお前が罪に問われるぞ。」


「追放刑…、ですか。は。了解しました。」


「オイ、こっちに来い!」


ライトの肩を掴んでいる騎士と剣を抜きかけた騎士の真ん中にいる騎士がライトの首に剣を突き付けてライトを連行して占いの間の四隅の中の一つに描かれている直径十メートルほどの魔法陣の方へと歩いていく。


それに合わせて二人の騎士は一斉にゆっくりとライトから離れてその騎士の約三メートル後に下がる。


三人の騎士とライト、それにラクスが魔法陣の中に入った後にラクスが呪文を唱える。


「『天の神よ。我が願いに答えて我が身を移せ。【テレポート】』」


ラクスが唱え終わった後に魔法陣が一瞬輝き、すぐに輝きを失う。


輝きの無くなった魔法陣の中には、なにもいなくなっていた。



「うわっ!」


一瞬でまったく違う景色が目に入ってきたことにライトは驚きの声を上げる。


「現在、午後四時二十分。エリシュ王国首都エヌマでの追放刑を開始する。」


ラクスが教科書でも読むように無感動に追放刑の開始を宣言する。


通常、追放刑は基本的に都市から追い出すだけの平和的な物だが、エヌマでの追放刑は少し違う。


エヌマでは、追放刑と決まった罪人を高さ六十メートルの壁から突き落として罪人を追放するのだ。


追放とは名ばかりの実質的な死刑であるが故に、エヌマで犯罪はほとんど犯罪が起こらないが、稀に犯罪を犯した者は遠慮なしに壁から突き落とされる。


「なんだよ…それ…」


ラクスから説明を受けたライトは呆然と呟いた後に一生懸命ラクスに縋る。


「なぁ、なんでこんな刑を受けなきゃいけないんだよ!お前は、俺が一般人だと信じるって言ってたじゃないか!」


ライトの言葉にラクスは冷たい目でライトを見ながら返す。


「ああ。確かにお前は一般人なんだろうさ。」


「だったらなんで!」


「お前の職業が黒魔術の中の一つだからだよ。」


氷よりも冷たい声になにか言い返そうとしていたライトの口は止まる。


「それでは、さっきの白魔術と黒魔術との説明の続きといこう。」


有無を言わさないその口調に、内容を知っている黒い鎧の騎士たちも思わず聞き入る。


「黒魔術とは、基本的な魔術とは違って、人そのものに干渉する魔術だ。その中には、魔術の到達点の一つとされる、まあ黒魔術バージョンのような物の魔法と、そしてお前の職業である、人間そのものを操る邪術がある。」


「でも!邪術師でなにがわる」


「邪術師自体に罪はない、そう言いたいんだろう?」


自分の本心を見透かされてライトは押し黙る。


「確かに邪術師、引いては黒魔術師たち自身には罪はないさ。だがな、十五年前にこの国に進行してきたわずか二名の黒魔術師たちにこの国は滅ぼされかけ、民の中でも実に五割が死んだ。」


「なっ…」


「黒魔術の使い手、というだけで追放刑は確定している。」


絶句しているライトを無視して騎士たちに向き直ってラクスは言う。


「やれ。」


「「「は。」」」


どこか嬉しそうな声で了解の意を示しながら三人は一斉にライトの体を押し出す。


「えっ?」


ライトの体は、重力の法則に逆らうことをせずに落ちていった。


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