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社畜の邪術  作者: 初永姚
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社畜の転移

お願いだから文章の指摘ください。

平日の夜一時であるにも関わらず、ところどころに明かりがともっていて、若干人気のある大きな通り。


そのと通りの中に一人の男が疲れ果てたような暗い雰囲気を出しながら歩いていた。


「ハァ…。まーた残業かよ…。」


男の名は朝日ライト。黒髪黒目で普通の身長、くたびれ果てた黒のスーツを着ている、夜の新宿を歩けば一分で少なくても五人は見つけられそうな平凡な容姿をしている。ただ一点、そのくたびれ果てて死んだ魚のような鈍い輝きを放つようになった目を除けば、だが。


「一人暮らしだから誰に迷惑かけるわけでもないけど、やっぱり社畜はさすがになぁ…」


キラキラネームでは?と思うほどの明るい名前とは逆な憂鬱でしかないようなその表情を通りの街灯が冷たく照らす。明かりに照らされたことによって自分の輝いていた過去を連想してしまったらしい。誰に聞かせることもなく一人でライトは自虐を開始する。


「小学校の頃は煌めいてたなぁ…。友達も結構いたし、自分の夢もちゃんと持ってたし、それなりに努力して勉強もしてたのになぁ…。」


どうしてこうなっちゃったんだろう、と死んだ目を空中に怪しく泳がせながらライトは呟き、目線を足元がようやく見える程度の明るさしかない地面に移す。


「たった十二年経っただけなのにここまで不甲斐ないダメな社畜になってるなんて、昔の自分は想像してなかったなぁ…」


ライトはそのボサボサな髪の毛と死んだ魚のような目でかなり老けているように見えるが、その実ライトは小学校を卒業してからまだ十二年しか経っていない。つまり、ライトは二十四歳なのである。


「この前なんて、電車の中で優先席に座ってる高校生から席譲られたもんなぁ…。そこまで老けて見えるってことは、やっぱり俺の人生はクソみたいなモンだったんだなぁ…」


どんどん自虐を繰り返していくうちにライトの心の中はどんどんと暗くなっていき、それに比例して目も

どんどん濁っていく。


「もう、自殺でもしようかなぁ…」


下を向きながら思いつめたような声を出して自分を完全に否定しようとしてみるが、実際に本心から死にたいなんてことは思えなかったらしい。声のトーンを元々の物に戻して自虐を止め、ライトは今度は自虐なしで自分の昔のことを思い出す。


「あぁ…。中学の頃も結構楽しかったなぁ…。中二病にかかったりしたっけ…」


自分の黒歴史を思いだしてクツクツと笑う。高校生の頃に思いだすと恥ずかしくて死にたくなるような黒歴史でも、今の疲れ果てたライトには輝く思い出だった。


「こうやって腕に呪文っぽいよくわからない文字を書いて適当にポーズを構えてさ…」


思い出に浸りながらライトは自分の右腕に適当にそれらしい文字に見える物をポケットから取り出したマジックペンで書きこんで適当に右手を自分の顔に被せて彫刻の「考える人」に少し似たポーズをとる。昼間やったら危険人物扱いされるのだろうが、今は深夜の一時なので周りに人影はなく、通りを走る車もライトのことなど気づくこともなく通り過ぎて行く。


「我が身に宿りし闇の力よ!我が呪文と魔力に反応し、それを贄として我が願いに答えよ!…なんてな。」


短いような長いような呪文を唱え終わってから苦笑いをする。バカらしい、と思いながらもライトは思わずポツリと呟いた。


「このまま社畜生活なんてしたところで楽しくもなんともないしなぁ…。あーあ。出来ることなら異世界にでも行きたいよ、まったく…。」


ライトが言葉を言い終わった瞬間、ライトの足元が大きく光った。


「え?なにこれ?」


ライトの戸惑う声を無視して光はライトの足が地面についているところに収束する。収束した地点から十六の方向に光の直線が伸びていき、直径一メートルほどの十六角形とその上にすっぽりと重なる円を描く。


「ちょ、まさかこの世界ってファンタジーの世界にでもなってたわけ!?」


なにがなんだかわからない、という響きの声に答えるように光は今度は十六角形の各頂点を結び始める。なぜかすぐそばにある電柱の光が消えた。

光で描かれた図形の中に浮かび上がってきた英語の筆記体のような文字を見てライトは悲鳴に近い叫びを上げる。


「なっ、なんだよコレ!?この文字、この虹色の光…。もしかして、魔法陣だっていうのか!?」


ライトの叫びを肯定するかのように光がライトの体を足を伝って這い上ってきて、それにライトの顔は意味の分からない物に遭遇してしまった恐怖心と魔法のようなことが現実に起こっていることについての驚き、そしてわずかな高揚感を映し出す。


「待てよ…。これはもしかして、異世界召喚というやつじゃないか?転生して俺TUEEEEとかできる系のパターンじゃないのか?」


自分の足元に展開され、今も自分の腕にまで這い上がってきていた光を見てライトは中学生の頃に読んでいたネット小説を思い出して顔を明るくさせる。


「いや、待て待て。もし異世界に行ったとしても、俺が強くなってるのかは当然わからないわけだ。強いといいなぁ…。いや、その前に転生の部屋的なところに行ってチートをもらうのもアリかも!」


想像をどんどん膨らませ、ライトの表情は一年に一回しかない休みの日である正月を迎えた時のように幸せそうな、どこか大人と呼ぶにはだらしない物に変わっていく。


「さーて!どんな特典もらおっかなー!自分で考えるのもアリだし、でもそこはあえてアニメのキャラの能力を考えるのも…。」


そこでライトの言葉は聞こえなくなった、というかライトの体はその場から消え去った。


その場にはライトがいたという証拠などどこにもなくなっていた。

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