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色彩のファンタジア ~ 白と黒の英雄讃歌 ~  作者: 小塚 正大
第一章  最弱の白と最強の黒
8/32

たった五秒の分岐点

お待たせしました要約、投稿できました。

 

 意識があやふやな白夜を抱き締める蓮花が、絶望の影に覆い隠された最中(さなか)――

 

「はああぁぁぁぁ!!」

「ギャアアァァァー!?」

 

 突如、ビックフットは背中に忍び寄った人物に斬られて悲鳴を上げる。

 その光景を茫然(ぼうぜん)と眺める白夜を抱えた蓮花。


「えぇ!? なに――きゃぁ!」


 突然、自分の腕を掴まれ、蓮花は慌ててそちらに振り向くと、


「ゆ、ユキちゃん! あ、カズくん。それに福島君!?」


 服が汚れ所々破れいる軽い怪我をした雪妃が自分の腕を掴んでいた。すぐ側には周囲を警戒する和馬、白夜に近付く直樹、そんな三人の姿があった。


蓮花れんか! リュブールさんが囮になってくれている、今のうちに逃げるわよ!! 福島君は天城君をお願い! 和馬は警戒ッ!!」


 雪妃は蓮花を立たせ、先に連れて歩き出した。


「おう、任せろ委員長! よいしょと――よし! 行くぞイケメン!!」


 白夜を肩に担ぎ直樹は、周囲を見張る和馬に声を掛けながら歩きだす。

 

「……なあ雪妃、なんで俺の時だけ(ざつ)な扱いなんだ?」

「気のせいよ」

 

 蓮花の隣でブツクサ文句を言って付いて行く和馬。そんな彼を適当なあしらい雪妃は足を進める。



 ◇ ◆ ◇ 



 乱暴に運ばれ、伝わる振動で背中から激しい痛み感じた。

 うめき声を漏らした白夜は朦朧(もうろう)としていた意識が戻る。


「いたぁ! ………ここは?」


 白夜は辺りを見渡した。始めに目に入ったの蓮花を連れいく雪妃の姿。そして隣で和馬はそんな二人を守るように周囲を警戒しながら移動していた。

 そんな二人を眺める白夜を、心配そうに見ていた蓮花と目が合った。


「あ、気が付いたの、天城君!?」


 そう言って目に涙を浮かべ、嬉しそう微笑みを浮かべた。


「ひっく、よ、よかったよ~!」

「ええ!? 小島さん、な、なんで泣いてるの!? それになんで僕は担がれてるの? どういう状況なの!?」

 

 白夜の声を聞き緊張が取れたのか、泣き始める蓮花を眺めいると、


「お!? 気付いたのか地味男(じみお)!」


 その騒ぎに気付いた雪妃、和馬、直樹の三人の視線が、白夜に集める。

 そして三人はそれぞれ思い思いの言葉を掛けてきた。


「お前ぇ、結構やるじゃねーか見直したぜ!」

「ええ、本当にありがとう天城君、蓮花を守ってくれて。この子、少し目を放せない所があるから」

「ああ、本当にええと…………君には感謝するよ――っぐ!?」

 

 無作法な態度の和馬に、雪妃が蹴りを喰らわす。


「ぃた!? ゆ、雪妃な『なに?』――し、 周囲の警戒に戻るぞ!」

 

 ジト目の雪妃に睨まれて、和馬は慌てて周囲を見回す。


「ははは、みんな無事良かったよ。それと小島さん、もう僕は大丈夫だから一緒に委員長の話を聞こう?」

「白夜君……うん、そうだよね!」


 微笑を浮かべる白夜に慰められ、蓮花は手で涙を(ぬぐ)いを顔を隠しながら、この状況を知るために雪妃を見つめる。


「ねえ、ユキちゃん! 一体、何がどうなってるの!?」

「落ち着いて蓮花、今から事情を説明するから」


 雪妃は穏やかな声と優しい笑みを浮かべる。それを見た蓮花が落ち着きを取り戻していた。


 そんな蓮花を見届け、雪妃は視線を先いた場所を視線を向ける。

 白夜もつられて向けると、大猿の魔獣(ビッグフット)とリュブールの戦い繰り広げていた。


 ビッグフットの大岩ような拳で殴り掛かり、リュブールは身体(からだ)を捻り転がる。

 しかし、避けた先にビッグフットの大木ような足で鋭い蹴りを放たれた。

 その蹴りをリューブルはギリギリのところで長剣を盾にする。

 が、ボールように吹き飛ばされた。

 リューブルは苦悶の表情を浮かべながら地面を転がり、長剣を突き刺し立ち上がる。


 旗色(はたいろ)が悪く、防戦一方だった。

 雪妃は視線を戻し、事情を告げる。


「あの魔獣に吹き飛ばされ倒れていた私達の元に、リュブールさんが来て助けてくれたの。その時にポーションみたいな物を渡してくれたの」


 ポケットから薄緑色の液体が入ったビンを見せる。白夜と蓮花が見た後、ポケットに仕舞う。


「自分が囮になっている間、貴方達を助けて、廃墟に避難するよう指示されたわ。加藤君と石田さんはもう廃墟に隠れてるから大丈夫よ、だから三人とも急ぐわよ!」

「きゃあ!? ユキちゃん急に走らないで!」


 白夜と蓮花に今の経緯を説明し終わると、雪妃は蓮花を連れてその廃墟にある方に走り出した。


「お、おい、委員長!? こっちは人一人(ひとひとり)担いでいるんだぞ!」


 そんな雪妃達に慌てて声を掛ける直樹。だが、聞こえていないのか先に行く雪妃と蓮花。


「………だ~もう! しっかり掴まっていろ地味男!」

「わあぁ!?」


 仕方ねえ、と呆れ気味に白夜を担ぎ直し直樹は走り出した。

 急に走り出した四人の姿を和馬はジッと眺め――


「なぁ! ま、待ってくれ君達!? 俺を置いて行かないでくれ!」


 自分が置いていかれたことに気付いた和馬が、急ぎ四人を追いかけた。


「雪妃お前! 本当に俺の扱い(ひど)くないか!?」

「ハイハイ、急ぎなさい和馬」

 

 雪妃の側まで追いつき和馬はブツブツと文句を言う。それを雪妃は適当に対応した。


 そして荒れた道路を急ぎ駆け抜け、徐々(じょじょ)にヒビが入り崩れた壁やツタが巻き付いた廃墟に辿り着いた。

 周りに目を配る雪妃と蓮花、その隣で息が荒くさせる直樹と和馬。

 そんな中で、一番近く比較的に形を保っている廃墟から――

 

「おーい! 委員長、こっちだ! 早くこっちに来てくれ!」

「早くしなさいあんた達! マジであの騎士の人がピンチよ!? ああ! また吹き飛ばされた!」


 廃墟の入り口から身を乗り出し秋吉(あきよし)桃子(とうこ)が大声を上げ手を振る。

 二人の姿を見つけた雪妃は(ゆび)()し入り口に走り出す。


「あそこね!? みんな早く急いで中へ!」


 雪妃達は急ぎ入り口から廃墟の中へ入った。

 急いで入ったせいでホコリが舞う中、雪妃は咳をしながら全員いることを確認する。


「ケホッケホッ! みんないるわね!?」


 そして白夜を担ぐ直樹に近づき、雪妃はポケットからポーションを取り出した。


「福島君は天城君を下ろしてこれを飲ませてあげて」

「! おおう、分かった。よっと――」


 直樹は背負っていた白夜を降ろし、


「大丈夫か地味男。ほれ、早く飲め!」

 

 雪妃から受け取った薄緑色の液体の入ったビンを強引に白夜の口に入れられた。


「んぐ!? ごほっごほっ! いきなり飲ませないで福島君!? (のど)に詰まりそうになっ――あれ? 痛みが引いてきた!?」


 (おどろ)き咳き込む中、背中の痛みがスッと引いて身体(からだ)が軽くなった。

 いきなり痛みが消えたことに驚きながら白夜は立ち上がり身体の調子を確かめる。

 そんな白夜の様子を雪妃は遠目で眺めていると、和馬が文句が言ってきた。


「ゴホッゴホッ、雪妃!? もっとゆっくりと入れ! ホコリが舞ってるぞ!!」

「………非常時よ和馬、我慢しなさい」

「おい!」

 

 雪妃の素っ気ない答えに納得出来ないのか、和馬は更に問い詰めようとするが、蓮花と桃子に止められる。


「けほっけほっ!? カズくん! ユキちゃん! 今は喧嘩してる時じゃないよ」

「ゲホッゲホッ!? お嬢さまの言う通りあんた達も喧嘩は後にしなさい!」

「そんな事よりも外を見てろよ!」  


 突如(とつじょ)、廃墟の中に秋吉の焦ったような声が響き四人は動きを止めた。


「あの騎士の人がヒヒみたいな魔獣に殺されかけているぞ!?」


 入り口で外を眺めいた秋吉は、大急ぎで外の状況をみんなに伝える。


「「「え!?」」」


 急ぎ白夜達は崩れた入り口に集まり外の光景を目撃する。


 所々鎧が壊れ、ボロボロ姿のリュブールが苦渋の表情を浮かべ倒れていた。

 そして歪んだ笑みを浮かべるビッグフットが、ハンマーように握った太い両手を、リューブルの頭上に掲げる最中だった。


「「きゃあ!」」


 その光景に雪妃は声も出せず固まり、蓮花と桃子は振り下ろされた光景を想像したのか、手を使い顔を覆い隠し、悲鳴を()げる。


「「「ツ!?」」」


 和馬、直樹、秋吉三人は息を詰ませリュブールが殺されそうな光景に固まってしまう。ただ一人を白夜を除いて。


「リュブールさぁぁぁぁぁぁんん!!」

「「「「なぁ!?」」」」


 白夜は廃墟の入り口から飛び出し、荒れた道路をただ我武者羅(がむしゃら)に走る。

 そんな白夜の後ろ姿を、皆は唖然と見つめた後、


「お、おい、馬鹿(ばか)、戻れ! 地味男ぉぉぉぉぉぉ!!」

「きゃァぁぁ天城君!? 危ないよ! 戻ってきて!」

「ちょ!? なにやってのあんた! 戻りさいよ!!」

「あの馬鹿! 委員長ッ! なんとかならないっ!?」


 すぐに正気を取り戻し、直樹、蓮花、桃子、秋吉は必死に大声を出して呼び止める。


「和馬! 急いで追い掛けて!!」


 苦苦(にがにが)しい表情で雪妃は振り向き和馬に指示を出した。


「お、俺が! なんでッ!?」

「和馬の手に持っているものはなに? いいから早く行なさい!」


 いきなりことに驚き混乱する和馬に、手に持つ布を巻いたモノを指摘した。


「あ! そうか、分かった!?」


 和馬は慌てて追いかけるが、白夜とはかなり距離を離れていた。



 ◇ ◆ ◇ 



 ビッグフットから距離にして約百メートルまで近づいた時、白夜は自身の行動に戸惑いながら走っていた。


 ……ど、どうしよう!? 行った所で殺されるだけなのに、咄嗟に飛び出しちゃったよ僕!


 リュブールが殺されそうな所を見た時に、身体が勝手に動き走り出していた。

 何故こんな行動を取ったのか考え、そしてすぐに自分の心に浮かぶ。


 ……あの時、みんなと孤立していた自分に少し話し相手になってくれた。


 (おん)を感じるほど助けられた訳でもない。

 深く感謝するほどお世話になった訳でもない。

 盛り上がるような珍しい話題でもない。

 何処(どこ)にでもある、誰にでも出来る、ただの世間話(せけんばなし)程度の会話(コミュニケーション)


 ――だけど。


 彼の気遣いで、見ず知らずの場所で不安だった僕は心から救われたんだ。

 だからこそ思った。


 ……やっぱりそんな優しい人を見棄てるなんて僕にはできないよ!


 お人好しの自分を恨めばいいのか、今までの姉妹に振り回され続けた人生(鍛えられた苦労性)に恨めばいいのか、分からない。


 ――それでも。


 もし、この場に紫姉さんや紅葉が居たら――


 ……僕と同じ事をするな。


 そう確信し僕は苦笑いを浮かべてしまう。

 ならば、僕は――憧れている姉妹(かぞく)に恥じないように覚悟を決めた。


「わああああああああぁぁぁーーーっ!」


 残り半分に来た時、恐怖で震えながら僕は大声で叫び、魔獣に突進した。

 その叫び声に気が付きビッグフットは拳を振り下ろすのを止め、叫ぶ僕の方に視線を向ける。

 

「グウゥ!?」

 

 ビッグフットは顔を歪め叫びながら向かってくる僕の姿を数秒、注視した。

 時間するとたったの五秒程度だった。


「……………フッ」


 相手にするのがバカらしいとビックフットは鼻で笑い、視線をリュブールに戻し、再び拳を振り落とす。

 

「くぅー!?」

 

 迫り来る死の恐怖に顔を引きつりリュブールは呻き声を漏らし拳をただ見つめ――

 

「グフゥゥ♪」

 

 歪んだ笑みを浮かべて見下ろし、拳を振り下ろす魔獣。

 

「クソォォ、や、やめろぉぉー!?」


 たったの数秒しか囮になれなかったことに悔しさと、目の前でリュブールを救えない後悔が自分の心に重くのしかかる。


 ――その瞬間だった。背後から力強い足音が僕の耳に聞こえ、


「いや、十分だ少年。魔獣を」


 (うし)ろの道路から凛々しく力強い声と共に。


「え!?」

「穿て――『竜を貫き(アス)――」


 顔を振り向き視界に入ったのは、力強い眼差し。所々(ところどころ)、魔物の血で汚れたウェーブがかかったハチミツ色の髪を(なび)かせ、血で汚れた銀色の鎧を(にぶ)く輝かせ――


 疾風迅雷(しっぷうじんらい)


「――殺す輝く聖剣(カロン)』!!」


 疾風(はやて)(ごと)く現れ、ビッグフットに向かって《ゲオルギウス》を突き立て、僕を置いて走り去る。

  瞬時に全長四メートルの青白い巨大な光剣を創り出された。

竜を貫き殺す輝く聖剣(アスカロン)』は両拳を振り落とす最中の魔獣(ビッグフット)、目掛けて雷鳴(らいめい)(ごと)(はや)さで地面を削りつつ突き進む。


「ゥギイ!?」

「チッ!」 

 

 が、青白い光の(やいば)に気づきビッグフットは両拳を振り下ろすのをやめて、慌ててバックステップで距離を取った。リュブールとの間に青白い光の壁が出来上がる。


 そして倒れているリュブールは目の前に生まれた光の壁を目にするとすぐ身体を起こし、それを作り出した人物に振り向く。

 リュブールと僕は同時に彼女の名を叫ぶ。


「ひ、姫様!?」

「ダリアさん!」

「はあ、はあ、無事か!? ジャン!」


 リュブールを救ったダリアは呼吸が荒く、肌から大量の汗を(にじ)ませていた。

 かなり距離を休まずに走ってきたようだ。

 同時に、ビッグフットが地面に着地と共に光の大剣が砕け散り、元の長剣に戻る。

 ダリアはそのまま僕達を庇いながら魔獣に《ゲオルギウス》を構え牽制する。


 自分の無茶な行動で稼いだ五秒が、リュブールの死の運命を変えた瞬間だった。


最後までお読みいただきありがとうございます。次も不明ですが次も読んで下さると嬉しいです。

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