未知なる存在と最初の不運
見て頂き有難うございます。この七話が投稿日が違うのは改稿作業よって新しく投稿したものだからです。他に改稿日が違うのがありますが、気にせず最後まで読んで頂けると嬉しいです。
ビックフットとサルの魔物達に周囲を囲まれたダリアは、瞬時に《ゲオルギウス》を構え、冷静に騎士達に命令を下す。
「チッ、ビッグフットか、厄介な相手に見つかったかジャン! お前達は今すぐユキ達をジルの所に連れて行っていけ!」
「な、姫様!? いくら強いと言っても一人は危険です。せめて私だけでも!」
リュブールの必死の懇願に対し、ダリアは首を横に振る。
「気持ちありがたいがジャン、お前さっきの出来事で怪我をしただろう?」
「……気付いていたんですか、姫様」
「ああ、怪我人では足手まといなるだけだ」
「――――ッ」
不調を見抜いたダリアの指摘に、リュブールは息を詰まらせる。
「ハイドエイプならお前達でもなんとか出来るだろう。だが、ビッグフットは一対一の方が戦いやすい。ジャン、奴の能力を忘れているか?」
それにユキ達を見てみろ、と言ってダリアは武器を構え、魔物の群れを見据える。
リュブールは言われ通り雪妃達の方へ顔を向ける。
そこには、初めて見た魔物や魔獣に恐怖し、腰を抜かす者や動けない者達がいた。
とても自分から歩いて行ける者達がいなかった。
「そういう事だ、心配する必要はない。それとも忘れたか? 私のクラスと《ゲオルギウス》の力を」
それに、とダリアは目線を地面に転がっている布を巻かれた剣に向ける。
「お前にはそれを持って帰る使命があるだろう? 先に荷物をジルがいる所に置いてこい」
そんなダリアの視線に、気付くもリュブールはそれでも食い下がらず説得を続ける。
「いくら《魔導剣士》が戦闘に特化してるからとしても多勢に無勢です! 撤退しながらジルバートいる野営地まで一緒に行きましょう姫様!?」
「ならばジャン、私は殿を務めようお前達! 周囲の魔物は頼む。そして今すぐに撤退準備! 道具は全て捨てていく!」
決意を固め、ダリアは休憩するために設置した道具を見渡しつつ、騎士達に指示を出す。
「「「はっ、了解です!」」」
ようやく立ち上がるリュブールは、まだ納得していないようだった。
魔物たちと対峙するダリアは一瞬、視線を寄越しさらに追求する。
「我々の都合で喚び出してしまったユキ達をどうするつもりだ、ジャン?」
「――ッ!? それは……!」
白夜達のことを出され、言葉を詰まらせるリュブールは片手で目元を覆い隠す。
「ユキ達を召喚した我々には責任がある。ならば、彼等の安全確保を最優先にしなければならない。ジャン、それが解ったのなら早く準備をしろッ!」
その言葉で説得され手を退かし、憎たらしくダリアを見た後、リューブルは渋い顔で地面に落ちていた布を巻かれた剣を拾い。
「あぁぁー!? もう分かりました、分かりましたよ姫様っ!! まったく一度、決めたらテコでも動かないだからウチの姫様は……無茶だけ絶対しないでくださいよ!」
「善処するジャン。お前、気をつけるように」
互いに掛け声かけて去っていく。魔物の気配を気にしながらダリアは、白夜達に話し掛ける。
「すまない皆さん。ジャンとの会話でお分かりかと思いますがそういう流れになりました。 急ぎジャン達の元へ行ってください――ふっ!」
「「「「ひぃぃぃ!?」」」」
会話は中に襲ってきた二匹を切り捨て、構え直し警戒を強め。
いち早く雪妃が意識を持ち直す。周囲の魔物を警戒しながら会話を再開する。
「………一応聞いておくけどダリア、助けはいる? これでも私達、貴方達から勇者として召喚されたんだから」
「「「「――ッ!?」」」」
声を震わせながら、強がる雪妃の発言に、白夜達から緊張が走る。
そんな白夜達の様子を、ダリアは一瞬視線を向け、やれやれと苦笑い浮かべ。
「素晴らしい提案ですが生憎、どのような力を持っているのか解らない者に背を預けるつもりはありませんのでご安心ください。――はあぁぁ!」
と、襲ってきた灰色のサルを切り捨て、
「それより皆さん、早くジャン達のところに行ってもらった方が助かります!」
緊迫した空気をほぐすようにダリアは優しい声で提案を拒否し、離れるよう指示される。
「「「「ほぅ~!」」」」
その答えを聞きいた白夜達は安堵の息を漏らす。
◇ ◆ ◇
「分かったわ、みんな急いでジャンさん元へ行くわよ。さっさと立ちなさい!」
ダリアの指示を聞き、雪妃は急ぎこの場から離れよう促す。だが、それに難色つける者が現れる。
緊迫した空気が緩んだお陰で和馬と直樹が反対してきた。
和馬は女性を置いて行くことに持ち前の正義感を示す。
「待ってくれ雪妃! いくらなんでもダリアをいや、か弱い女性一人には出来ない。此処は一緒に逃げるべきだ!」
「そいつの言う通りだ委員長、女一人に任せて尻尾を巻いて逃げるなんざオレのプライドが許さねえ、だから逃げれるかっ!」
プライドが許さねぇ、という理由で直樹は拒否する。
和馬と直樹の一方的な言い分に、左手を頭を抱える雪妃。そして冷ややか目で、
「はあぁ~~、和馬それに福島君……誰がか弱いって? 女一人? 貴方達の空っぽの頭をゆっくりと後ろに向けて見なさい♪」
そんな二人に苛ついた声で指示を出す。
「「はあぁ?」」
「おい、雪妃な……」
「いいか、さっさと向くっ!!」
「「はい!?」」
凄みある声と睨みで、言われた通り二人は後ろに振り向く。
そこには全身に魔物の血を浴びたダリアが、一匹の魔物の顔面に蹴りをブチ込む光景が写った。
「「………………」」
その衝撃的な光景を目撃して和馬と直樹は無言になる。
「分かった馬鹿共♪ くだらないこと言ってないで、さっさと行くわよ!」
「「「「はい!」」」」
「「ハィ」」
雪妃はその二人に冷ややか声を掛けて白夜達と移動し始める。自信を粉々にされ素直に言うことを聞く自信喪失した和馬と直樹はリュブール達がいる広場に走っていく。
前方から魔物の鳴き声と人の雄叫びが耳に聞こえた。
魔物の群れと戦っている騎士達の姿が見えてきた。すると、騎士一人がこちらに気づき、近づいてくる。
よく目をこなすと、その騎士はリュブールだった。彼は手を振り、自分達を出迎えてくれた。
「皆さん、よくご無事でここまで来られましたね。姫様は?」
「さっきの場所で魔物達相手に足止めしてるわ」
そう言って雪妃は振り向き、さっきまでいた場所を眺めた。リュブールも同じ方を見る。
そこには数十匹の魔物に囲まれながら魔獣と戦うダリアの姿があった。
ダリアは長剣で素早く切り裂く。しかし、ビックフットは後ろに避けると巨大な腕で薙ぎ払う。それを《ゲオルギウス》で受け流しダリアは切り返す。
が、またビックフットは素早く動き避ける。一進一退の戦いを繰り広げていた。
ダリアの戦う光景を目撃した自分達は息を止める。しかし、リュブールだけは口に手を置き、考えを巡らせ呟く。
「これはチャンスですね! すみません勇者様、少し協力をお願いしてもいいですか?」
「チャンス? それに協力って私達になにを?」
そう問い掛けると、リュブールは周囲を確認して、
「いえ、これを預かって貰えるだけで充分です」
布に包まれた剣を預ける。雪妃はそれを受け取った。だが、
(……重っ!?)
預かったモノが以外と重かった。なので自分の隣にいた和馬にそれを渡し、リュブールの行動に疑問の視線を送る。
「申し訳ないですが荷物を持ちながらでは、剣を振れないで」
「それは強行突破に出ると解釈しても?」
周りを見渡す。騎士達と魔物達とのにらみ合いが続いていた。
それを眺めた後、リュブールは自分の問いに「ええ、そうです」と頷き、ダリアの方に顔を向ける。
「スウゥゥゥー、ひぃめぇさぁまぁぁー! 合わせくださいぃぃぃ!!」
その大声が聞こえたダリア、《ゲオルギウス》を掲げ返事を返し、 ビッグフットとの戦い戻る。
「では、皆さん合図したらすぐに東側の大道を沿って走って下さい。此処から五キロ先にジルバートがいる野営地ありますから、そこなら安全です」
リューブルは持っている長剣で東の大道を突き出し、道を示す。
「私達が道を切り開くので自力で辿り着いて下さい。お前達も分かったな!!」
「「「了解です、副隊長!」」」
リューブルの確認する声に、他の騎士達は力強く応じる。
雪妃は振り返りリュブールが話した事を、白夜達に簡単に伝え――
「みんな聞いた通りよ、準備いい?」
「ああ、任せろ雪妃、もしも時はこれで魔物達を追い払う」
そう言う和馬は手に持っている布を巻いた剣を掲げた。
「委員長、確認なんざ要らねえよ、もし委員長が転んだら担いで運んでやる。なあ秋吉?」
直樹は調子のいいことを言った後、秋吉に話を降る。
「直樹、委員長って運動神経は良かったんじゃなかった?」
そう言うと桃子は、秋吉に侮蔑の眼差しを向けた。
「うわぁ……オタ吉。なんで委員長のプロフィール知ってのよあんたキモ!?」
「はあ!? このくらい誰だって知ってるよ!」
「あーハイハイ、そういう言い訳はいいから絶対に足を引っ張らないでよオタ吉!」
「このギャル子………お前こそ足を引っ張んなよッ!」
「はあ? なんであたしが………」
秋吉に言い返された桃子は眉をひそめる。お互いに罵詈雑言を始まる所、
「二人もこんな時、喧嘩しないの。もう本当に仲がいいね」
「よくないって言ったでしょ、お嬢さま!」
蓮花がそんな二人を微笑みながら誉めるも、桃子は食って掛かるのだった。
そんな雰囲気ですぐにリュブールが合図を上げた。
「準備は良いですね。合図を始めます三、二、一」
左腕を真っ直ぐに頭上に掲げる。
「火よ・我が手に集え――『ファイアボール』」
空に向かって火球を打ち出す、と同時に騎士達が正面に魔法を放つ。
氷の固まり、風の砲弾、炎球、様々な魔法が東の大道に殺到した。
◇ ◆ ◇
空に火球が上がる。ビッグフットと戦っているダリアはそれが合図だと解った。
直後、魔獣が《ゲオルギウス》の間合いに入ると、
「魔獣を穿て」
私はビックフットの胸に長剣――《ゲオルギウス》を水平に素早く突き出し――
光剣貫通
「――『竜を貫き殺す輝く聖剣』!」
突き出す刃から、鋭く巨大な全長四メートルの青白い光の剣が創り出される。そして、この青白い光の大剣はビッグフットの胸元を、光の速さで貫く。
「ゥギャァァァァァー!?」
光刃に貫かれた魔獣は絶叫をあげた。同時にダリアは身体を捻り光の大剣を担ぎ、息を吸うと、
「うおおおぉぉぉぉぉぉぉー!」
剛刃旋風。
雄叫びをあげ、心臓を貫かれ絶命する魔獣ごとコマのように回転。
ブオォォォォォォン!
力強い風切りを音を生み出した青白い巨大な光の刃は、旋風を巻き起こしながら、
「キイィィィー!?」
周囲のハイドエイプ達を悉く切り裂き、薙ぎ払った。
そして私が光の大剣を振り終わった瞬間、半身を失った魔物達からザァーーと血が噴き出し、雨となって降り注ぐ。それを浴びた自分の全身は血に汚れる。
数秒後。血の雨が止まり、そこにできた紅い池の中心、私は剣を振った体勢で立っていた。
そして、役目終えたように《ゲオルギウス》の光の刃からピキッとヒビ割れた音が鳴り、段々と刀身にヒビが行き渡りガラスように砕け散りる。
すると、そこには元の《ゲオルギウス》――金属の長剣が現れた。
私は《ゲオルギウス》の刃の状態を確認して急ぎ東側の大道に目指して走り始めた。
◇ ◆ ◇
ダリアがビッグフットを倒すと同時期。東側の大道を塞いでいたハイドエイプ達目掛けて、数十発の魔法が着弾。土煙が舞い上がった。
「「「キイイイィィィィ!?」」」
魔法と土煙で視界を奪われた魔物たちは大混乱。
そこに騎士達が現れ、混乱中の魔物達に斬りかかる。
「「「「うおおぉぉぉぉーーッ!」」」」
「今です! 皆さん走ってください!」
そう叫ぶリュブールは走りながら魔物を切り捨て道を作り出す。
白夜達がその切り開かれた道を走り抜ける。土煙で視界が悪いが、前に遅れないように固まって走っていく。
土煙の中、辺りから騎士達の雄叫びと魔物たちの悲鳴があっちこっちに聞こえきた。
しばらくすると土煙から抜け周囲が崩れた街になった。
前を見るとリュブールを筆頭に和馬、直樹、雪妃、桃子、秋吉、蓮花、白夜の順で走って行く。後ろから段々と雄叫びや悲鳴が小さくなっていく。
完全に聞こえなる頃に蓮花の走るペースが落ち近づいてくる。
「小島さん、頑張ろう多分あと少しだから」
「はあ、はあ、あ、ありがとう天城君!」
息を切らせ追い付く蓮花を励まし二人並んで走り出す。
とはいえ長年ろくに整備されず放置された道路。
そのせいで白夜達は走るのに苦労し、多く体力を消耗していた。
先を走る雪妃達さえ、白夜の目で分かるほど段々とペースが落ちていく。
「あ、あと、どれくらいなんですか!? はあ、はあぁ」
「あと、半分ですから頑張って下さい……!?」
そんな中、息が切れかけた秋吉の問いに、先頭を走るリュブールが振り返る。
「――皆さん! アレを見てください!」
リュブールが周囲を警戒しながら道路の先に指差す。その先に煙が立ち昇るのが見えた。
前から息を切らさずに走る雪妃の応援する声が響いた。
「みんな、あそこまで頑張って行くわよ!」
「はあ、はあ、なんで委員長は息を切れてないのよ!?」
その雪妃の姿を見て、息を切らせながら桃子は不思議そうに質問する。
キョトンとする雪妃は平然とその答えを返す。
「こんなの普段から運動していれば普通よ、石田さん?」
「その普通ってのが分かんないんだけど!?」
前方で、そんな雪妃達の会話が聴こえてくる。
空に上る煙を見たお陰でペースが少し戻っていた時だ。
一番後ろにいたお陰で、白夜は建物の上にいたビッグフットを発見したのだ。
そして、その大猿の魔獣が建物の上から飛び降りた。この事を気付いたのはリュブールと白夜の隣にいた蓮花だけである。
「あぶない! みんな避けてぇぇぇぇ!!」
「「「「え?」」」」
白夜の叫びと同時に近く降りてきたビッグフット。着地から衝撃波が生まれ、自分達を吹き飛ばした。
「「「「うわあぁぁぁ!?」」」」
「ウオオオォォォォォーーッ!」
皆の悲鳴はビッグフットの雄叫びによって潰される。同時に衝撃波による瓦礫のつぶてが蓮花を襲う。
「………!」
咄嗟に白夜は背を向け、蓮花を庇うように抱きしめた。直後、大小の瓦礫のつぶてが背中に当たる。
「かぁ!? いだぃ! あがぁ!!」
「あ、天城君! だ、大丈夫!? ねぇ天城君! しっかりして天城君!?」
背中に激しい痛みを味わう。当たった箇所からくる激痛で白夜は体勢が崩れ、蓮花に抱きしめられながら意識が朦朧とする。
「「「つ~!?」」」
「「うぅ~」」
近くで男女のうめき声が聞こえた。
どうやら他の皆も怪我を負い倒れているようだ。
「天城君しっかりして! 駄目だよ!! 目を閉じたら!?」
そんな中、目の前から蓮花の泣き声が聞こえる。
すると、蓮花の声に反応したのかビックフットの唸り声が足音が近づいてくる。
「グルルゥゥゥ!」
魔獣の事を気づき、朦朧としている意識を繋ぎ止め呻きながら白夜は呟く。
「こ、こじぃまさん、僕ぉいって、逃げぇて!」
言葉になっていない声で自分の意思を伝える。
だが、涙を流しながら蓮花は激しく首を左右振ると、
「天城君を置いていけないよ! ぐすっ、それにごめんなさい、ひっく、私、さっきから腰が抜けて動けないの!」
泣きながら蓮花は、白夜を抱きかかえる状態で謝る。そして、
ノシノシ、ノシノシ、ドスン!
そんな白夜達のもとへ現実――絶望の足音ともに影が二人を覆い隠すのであった。
最後まで読んで頂き有難うございます。初めてなので戦闘シーンの表現が結構難しく苦労しました。