崩壊した世界
お待たせしました。ようやく投稿できました。
「我が前に・光を灯せ――『ライト』」
ダリアがそう唱えると、頭上にサッカーボールくらいの光の玉が現れる。
光の玉は、蛍光灯のように明るく、薄暗かった廊下を照らした。
「「「「おおおおおーーー!?」」」」
その光景を見た皆の口から感嘆な声を上げた。
「ふふ、そんなにも魔法が珍しいですか?」
自分達の反応が面白かったのか、ダリアは微笑みながら訊ねてきた。
「ええ、とっても珍しいわ! 少なくとも私達がいた世界には同じ事が出来る物があるけど、さっきの魔法のようには出来ないわね」
「ほお! そうなんですか?」
興奮気味の雪妃の答えに、感慨深く興味を示した。
「そうよ、魔法はこちらでは当たり前の技術なの?」
「ええ、素質があれば誰にだって使えますよ」
雪妃の質問に対してダリアは素直に肯定する。
「本当ですか!?」
「マジか!?」
「よっしゃ! さすが異世界♪ やっぱり召喚モノはこうなくちゃ!」
「うわ~、マジであたしら異世界にいるの!?」
「信じられんが……目の前、あれを見てしまったからには信じるしかない」
それを聴き興奮する者、期待する者、仰天する者、驚愕する者、様々な感情を抱く。ダリアに次々と質問をかけて歩いて行く。
そんな彼等から、段々と遠退く白夜は苦笑いしながら口から愚痴をこぼす。
「まぁ、わかっちゃいたけど。もともと仲のいいわけでもないから、こうなるのが普通だよね」
ダリアの側で和気あいあいと話す皆を眺めた後、白夜はあらためて明るく照らされた廊下の様子を観察する。
壁は先程までいた部屋と同じで白い金属ような材質、所々壁に亀裂が入り崩れてる所もあった。
それにさっきから、何か物凄い違和感を感じるのはなんでだろう?
「おっと!?」
元の世界よりも高度な文明を感じさせる廊下を、よそ見をしながら歩いていたせいか、白夜は瓦礫に躓いて前のめりに倒れてしまう。
立て直そうとしたが、間に合わず倒れる白夜。
「危ないですよ、勇者様」
が、偶々、近くいた騎士が支えてくれた。
白人の様な肌と金色の長髪、青い瞳、しっかりとした体格の上に鎧を着た、爽やかな顔をした年上の青年だった。
その彼のお陰で、白夜は床に倒れずに済んだ。だから、
「ありがとうございます!」
布を巻いた物を抱える騎士に、白夜は助けたくれたお礼を言う。
「いえ、お気になさらず勇者様、それと遺跡の中はあまりよそ見をしていい場所ではありませんよ」
「……へ? 此処ってそんなにも危険な場所なんですか!?」
注意をもらい、白夜の歩く速度が少し上がった。
「ええ、普段は魔物や魔獣が徘徊しているところなんです。なので油断してると崩れた壁の中や瓦礫の下、天井から襲ってきますよ」
そう言うと彼は、周囲を見渡し警告する。
「……そ、そうなんですか?」
ビクッと一瞬、怯える白夜。不安を紛らわそうと彼に声を掛けようとするが、この騎士の名前を知らないことに気づき、
「あ、僕は天城・白夜です」
「これはどうも、私は姫様の従者兼この隊の副隊長しております。ジャン・リューブルです」
互いの自己紹介を終えた白夜は、リュブールに魔物について質問する。
「ところでリュブールさん、その魔物と魔獣はどう違うんですか?」
「魔物とはマナによって独自の進化をした生物、モンスターとも呼びますね。魔獣はその魔物が長い時間かけてマナを大量に摂取することで進化した突然変異の上位個体だと教えられました」
どうやら魔物や魔獣とは、この異世界独自の生物らしい。
「この二体の生物は体内に〝魔石〟と言う結晶が在るのが共通です。まあ、魔獣の大半は大型で存在感があるので遭遇すれば見分けられます」
魔物と魔獣の違いを丁寧に説明してくれた。
「その、さっきの〝マナ〟と言うのは?」
「マナとは、星の源たるエネルギーです。この世界のありとあらゆるものにマナは宿っていると云われています。先程、姫様が見せた魔法も体内に取り込んだマナを魔力に変換することで使えるんです」
リュブールがそう答えると、白夜はある事に気付いた。
「へえ……ん、じゃあ魔物や魔獣も魔法を使えるってことですかリュブールさん!?」
その質問に、対してリュブールは空いている左手をアゴに置きながら思考する。そして数十秒過ぎた後、
「……居るにはいますがこの辺の魔物にはあまりいませんね。ただ、魔獣に関しては魔法に似た能力を持っています。そもそも魔獣とはそういう特殊な能力を持つ強力な魔物のことを指すんです」
周囲を見渡した白夜は慌てて、リュブールに側まで近寄った。
「……もし、ま、魔獣に出会った!?」
そう訊ねると、リューブルは満面の笑みを浮かべ、
「姫様以外、束にならないと危ないですね♪」
「危ないですね♪ ――じゃないですよリュブールさぁーん!?」
質問に対して楽しそうな声で、さも当然と答えるリュブールに、白夜はツッコんでしまう。
突然、大声を上げったせいで、周囲を警戒していた騎士達やダリア達も足を止めて、何事かと全員の眼差しを集めた。白夜は顔を赤くしながら、慌てて皆に頭を下げる。
「ご、ごめんなさい!? なんでもないです!」
その様子を見て、皆は何も起きていないことが分かり歩き始めた。
そんな白夜を面白そうに眺めっていたリュブールを、ジト目で睨みつけ、
「………それで姫様以外とは? なんでダリアなら大丈夫なんですか?」
ツッコミのお陰で、少し冷静なりつつ白夜は不機嫌そうに先程の事について訊ねた。
「ハハハ、すみませんハクヤ殿。姫様は〈オルレアンの戦姫〉や〈竜殺の戦乙女〉と二つ名で呼ばれるくらいお強いですよ。それに魔導具も所持していますから」
愛想笑いして悪びれるリューブルに言われ、少し離れたダリアに視線を向ける。
「レリック?」
「はい、姫様の腰に差している剣が有るでしょ」
リューブルは指を指す。確かにダリアの腰に、黒い鞘とブロンズ柄の地味な剣が帯剣していた。
「ありますね。あの剣が?」
「はい、あの剣が魔導具《ゲオルギウス》です」
リュブールは肯定する。その魔導具のことを聞いてみる。
「……その、魔導具ってのは、どういうモノなんですか?」
「え?」
何いってるんだこいつ見たいな顔で、白夜を凝視した後、リューブルはすぐに何かを思い出したように頭を叩く。
「あぁ、そうでした! ハクヤ殿はこちら世界ことはなにも知らないでしたね」
「……ええ、そうです」
その事実を肯定し白夜が目で「早く答えて」とリュブールに訴えた。
「では、魔導具のほうからご説明します」
「お願いします。リュブールさん」
改めて、誇らしげにダリアが持っている魔導具のことを教えてくれた。
「魔導具は過去に存在した旧文明の魔導遺産のことです。この惑星ミルトスにある遺跡から発掘された特殊な能力や特性を持つ旧文明の魔道具なんですよ」
そう、リュブールが魔導具について説明する中、気になる単語があった。
「発掘品? いや、それよりも! 今、この惑星って言いませんでしたか!?」
「……? ええ、言いましたが、それがどうかしましたか?」
戸惑いながらジッと凝視する白夜に、リュブールは不思議そうに見つめる
「えっと……星が丸いこと、天体のことも知ってたんですか?」
「………なに、当たり前のことを言ってるんです?」
何故か、可哀想 な人を見るような目で見つけてきた。
その目で見られた白夜が鳩が鉄砲豆を食らったような顔する。
「いやいや! 普通、魔法がある世界って天動説が常識的な考えとか、海を果ては崖で、海水が滝になってるんだと思ってたりしないですか!?」
白夜の知るマンガや小説の知識を、リューブルに伝えると、
「ひどい、偏見ですねハクヤ殿!? このご時世、天文学くらい在りますよ! それに海なんて真っ直ぐに行ってもバルク大陸に運良く辿り着くか。もしくは海の魔物に襲われ、海の藻屑になるだけですよ?」
そんな偏見な考えに、驚き隠さずリュブールはこの世界の海について答えた。
自分の思い込みに赤面しながら、白夜はそのことを訊ねる。
「すみません! じゃ、じゃあ、ミルトスの人達は海を渡れないんですか?」
「近海ならともかく、外海は渡れませんよ。なにしろ〝死海〟と呼ばれるくらい危険な場所ですから、余程の物好きではない限り渡ろうとしません。子供でも知ってる常識です」
リュブールは当たり前の常識だと言わんばかり言ってきた。
はあ、と元の世界と異世界の海の違いに白夜は呆気に取られながら、
「それじゃ、先程いったバルク大陸とは? 他にも大陸も在るんですか?」
「ありますよ。バルク大陸は東にあるミルトス三大陸の一つで、他に我々がいるエノク大陸。南にあるトビト大陸があります」
この世界には大きな大陸が三つもあるんだ、と感心していると白夜は気がつく。
「あ! すみませんリュブールさん。話を逸れました魔導具についてお願いします」
随分と話が逸れたので、魔導具の続き頼んだ。
「ああ、そうですね! あまりも楽しく話していたので、つい、別のこと話していましたね。どこまで、話しましたかハクヤ殿?」
「この世界の名がミルトスで、遺跡から発掘した物が魔導具と言うところまでです」
今までした質問を確認し思いだすとリューブルは苦笑を浮かべる。
そんなイケメンスマイルを指摘した白夜に向けてくると、
「ああ、そうでした! まずはこの第二遺跡《知恵》から………………」
改めて、真剣な表情を作るリュブール。その態度に白夜は喉をならす。
「………此処がいつの時代に作られたのかは――まったく分かっていません」
「……はあ? わかないですか!?」
あまりにも勿体ぶった態度を作っておきながらリューブルの、その答えに唖然とする。そんな白夜を無視してリューブルは、周囲の壁や柱等を見ながら進める。
「ええ、というのもそれらの情報や記録は大崩壊によって喪失してしまったんです」
「大崩壊?」
「二千年前に起きた大戦――〝終幕大戦〟を終わらせた大災厄のことです」
「大災厄? でも大戦を終わるのなら良いことなのでは?」
戦争を終わらせた行為に、平和な時代に住んでいた白夜にとってごく当たり前の反応だった。
だが、表情を変えずリュブールは、首を左右に振り答えを否定した。
「確かに大戦は終わりました。それは良いことです。が、同時にその時代に在った高度文明を支えた魔導技術――道具や設備、その全てが使用出来なくなったそうです」
「使えないって……過去の文明にあった道具や施設までもですか?」
「ええ、そうです。すべて使用出来なくなったそうです。敵味方問わずあらゆる道具や施設も、鍵と呼ばれるモノ以外……」
マジか、と白夜はあまりのスケールの大きさにビックリした。
「ですから学者達によると、この場所は少なくとも大崩壊が起きる前の時代から存在していたらしいです」
「………明らかに僕達がいた世界の技術を越えてますよ、ここ」
そう言われ改めて周囲を見渡す。
金属のような白い壁に、世界的に有名な某宇宙戦争SF映画に出ってくる自動ドア、何かのケーブルようなもの。言われてみればどこか近未来を感じさせる廊下だった。
周囲を見渡しながら白夜は、ふと気になったことをリュブールに訊ねた。
「さっき言ってた〝鍵〟ってなんですか?」
そう言うと頭の中に玄関のカギを思い浮かべる。
「そのカギはではありませんよハクヤ殿」
「エスパーですかあんた!?」
リュブールに心を読まれたと思い、思わずツッコんだ。
「エスパー? 多分、ちがいますよ」
言葉の意味をなんとなく理解しているのかリュブールは否定する。
「まあ、話を戻りますが旧文明の遺物や遺跡の施設は〝鍵〟がなければ動きません。
故に当時の大災害を合わせて〝大崩壊〟と呼ばれているんです」
と、説明の終えるリュブールを、白夜は眺めていると彼の手に持っているモノに目につく。白夜は布に巻かれたモノを指差して半信半疑で訊いてみた。
「あの、もしかしてリュブールさんがさっきから持っているそれが鍵なんですか?」
「ほう! よく気づきました。たしかに、私が持っているのは鍵と呼ばれるモノの一つです。我が国が所持している至宝なんですよ」
よく気づいた言わんばかりにリューブルは抱えていた、白い布を巻かれた剣ような物を見させてくれた。
「鍵の一つ? ということは他に在ることですか!?」
「ええ、十四個ある内、我々が七つを所持しているそうです。
残りの七つは誰が所持している者達かは分かっていますが………」
リューブルはそう断言する。すると、辺りが喧騒し始める。
この異世界ミルトスの色々と有益な事を聞けて良かった、と白夜はそう思った。
(……あれ? じゃあ、僕達を召喚された時に聞こえた女性の声は誰なんだ?)
召喚時に頭の中で聞こえた女性の声を思い出す。
(……ダリアの声でもなかったし、声? ………ああ!)
記憶を手繰る白夜は、今しがた自身が抱いていた違和感の正体に気が付いた。
そして、隣で歩くリュブールに確認する為に問い掛けた。
「リュブールさん!」
「はい、なんですかハクヤ殿?」
リューブルは慌てる自分を不思議そうに顔で眺める。
「それです!? リュブールさんそれ!!」
周囲が少しずつ明るくなっていく中、白夜がそのことを指摘した。
しかし、リューブルは意味が分からないと表情を作り、首を傾げる。
「はい? ………なんのことですか?」
「言葉ですよ! どうして日本語をリュブールさんやダリアが喋れるんですか!?」
何故この異世界の言葉が通じると再度、指摘するが、リュブールは更に理解出来ずに言った。
「ニホンゴ? 何を言ってるんですか? ハクヤ殿、さっきから共通語を話しています」
「え!? 日本語じゃなく共通語? 何ですかそれ!」
「はい?」
心底信じられない顔になる僕を、リューブルは首を傾げて見つめる。
そんなリューブルのあまりにも率直な態度に、嘘はついていないことが分かった。
「どうゆうこと? じゃあ、あの時、聞こえた女性の声は?」
一人、愚痴る白夜を、側で様子を観ていたリュブールが、
「女性の声!? まさか、ハクヤ殿は女神に御会いしたのですか!?」
白夜の漏れた単語に驚愕し、顔を迫る勢いで追求してくる。
「め、女神って誰ですか!?」
あまりにも迫力に怯えて、足を止め一歩下がてしまう。
リューブルはそんな白夜の様子を気にせず追求する。
「女神イヴです! 先程、述べた旧文明の遺跡や遺物を生み出し与えたと云われている女神に御会いしたのですか!?」
彼にまくし立てられた白夜は、召喚される間に起きた出来事を話した。
最後まで聴いた後、落ち着きを取り戻したリュブールはある確信して結論を述べてきた。
「やはり女神イヴでしょう。世界広しといえどもその様なことが可能な存在は、かの女神しかいません」
「女神!? じゃあ、僕達がこの世界の言葉を通じるのは?」
「女神の加護のお陰で翻訳されているんですね」
リューブルは何のためらいもなく断言する。
その落ち着いた態度に違和感を覚えた白夜は、先程の態度について口にする。
「そうなんだ。でも何でそんなにも慌てていたんですか?」
「………終幕大戦のおりに女神イヴは、魔神アダムよってエデンに封印され、そのせいで大崩壊が引き起こされた、と教会の伝承に伝わっているんですよ」
リュブールは慌てていた態度の経緯を言った。
伝承について聞いて、元の世界の宗教ことを思い出し。
「教会の伝承ですか? でもそれって信用できるんですか」
自分達の世界の歴史を鑑みる白夜は渋い顔をしながら視線を送る。
「はい、その伝承は信用できます。なにせ、この事を伝えたのが〝七徳大聖〟と呼ばれた御方達ですから」
「七徳大聖?」
「はい、七徳大聖とは――」
何者なのか、と首を傾げる白夜に、リューブルが説明をしようとした時だ。
「おしゃべりはその辺にしておけジャン。もうすぐ出口が近い、警戒しておかないと怪我だけじゃ、すまなくなるぞ」
リューブルは前いたダリアが注意をされ顔を向ける。
出口と思われる大扉から差し込む光で、白夜は目を雲せた。
やがて光に慣れ、出口の方から花の香りが漂ってくる。
(……日の光が差しているってことは)
今、外は日が出ている時間帯なのか。
光に照らさせた通路から白夜はそう思った。
「どうやら出口に着いたようですね。喋りながら歩いていましたが何事もなく出られて良かったです」
前を歩きながらリューブルは周囲を確認し、白夜に話を降ってきた。
「良かった! ……でも続きは?」
「それは、王都に行けば陛下がお話しするでしょう。すみませんが、今は護衛は集中させてください」
そう言ってリューブルは周囲を警戒しつつ、進んでいく。
暇になった白夜は皆がいる方に顔を向ける。
誰もが彼もがこの先にある未知の光景に興奮しながら進んでいた。
すると、前にいた蓮花がその視線に気付き、手を振ってきた。
「………あはは」
ぎこちなく蓮花に手を振り、歩くと出口の目の前で皆が立ち止まる。
開いている門から一部、見えいた外の景色が全体を見ることが出来た。
とんでもない光景に白夜は歩みを止め、その景色を茫然と眺め続けたのだった。
お読みくださてありがとうございます。今回はミルトスの世界観をばかりになりました。次回は初の戦闘シーンを書く予定です。今後も楽しみにして貰えるとうれしいです。