最後の日常
天城・白夜とはどのような人物か? 性格はどのような人柄しているか、趣味・思考しているのか? と聞かれたら白夜を知っている人物は、こう答えるだろう。
平凡 もしくは普通、悪く言えば地味、苦労人だとよく言われ、ある意味では目立つ存在だった。
頭だって良くも悪くもない、成績だって平均ぐらいだ。
運動が出来るか? と言われば普通と答えるだろう。
自分を知る人達に聞けば、「普通ぐらいじゃねぇ?」と言われるくらいだ。
色に例えるなら白、名は体を表すよう存在、まさに凡人なのだ。
そう周り人達から評価され、周囲からもそう認識されていた。
普通、17歳ぐらいの年齢の少年は、最も活発的で目立とうする年だろう。
白夜にとってもそれは例外では無かった。だが、頑張ったとしても身内にとんでもなく目立つ存在がいた。
どうしてもその存在と比較されて、無駄な努力として周囲の人達から評価されてしまう。
その目立つ存在と言うのが自分の血をわけた姉妹――姉と妹は周囲から天才と呼ばれる存在だった。おまけに美人姉妹でもある。
そのせいで昔からよく姉妹に関して僕自身、比較され嫌な目に遭った。
さらに、その都度、姉妹が関わり余計に事態を悪化させ、苦労される事が多く、何時からか気にせず諦めるようになっていた。
まあ、そんな環境だから、見ていた世界が色褪せたように感じたんだろう。
別に二人とは仲が悪い訳でもない。しかし、現在も苦労することもあるが大切な家族だし、本人達の前で言えないけど秘かに僕の誇りと想っている。
これだけ、語れば解るように僕は凡人なのだ。
とてもじゃないが勇者ってガラじゃない。容姿だって黒髪で短髪、日本人らしい鳶色の瞳、身長も体重も日本人の平均ぐらい。
そんな脇役でしかない僕があの時、偶然あの場所に居て、巻き込まれてしまったと、今でも思っている。
――あの日、今から一ヶ月前、白夜はいつもと変わらない日常を過ごしていた。
◇ ◆ ◇
ピピピピと目覚まし時計の音ともに黒髪の少年――白夜がベットから起床する。
「ふあ~~」
起き上がった白夜は欠伸を漏らす。そして部屋からキッチンに向かい、三人分の朝食を作りながら姉妹を起きてくるのを待っていた。
それがいつもの天城家の日課だ。
両親は父が海外で単身赴任で家にいない、母はそんな父と共に海外にいる。
そんな両親だが、たまに海外から家に連絡を寄越してくれる。だから僕達、姉妹は寂しくは無かった。
しばらくすると、すこし赤茶色のストレートヘアーに、切れ目の生真面目そうな顔がクール印象を与え、女性が羨むプロポーションの持つ麗人――起きて来た姉が欠伸しながら、リビングに入ってきた。
天城・紫。年は一つ上で、成績優秀で頭の良さは大人顔負け天才児。その学習能力が凄まじく、英語以外の十ヶ国語を覚え、名探偵の如く推理力でとある事件を可決し、警察に賞状を貰うくらいの人物だ。おまけに自分が通う高校の生徒会長でもある。
「ふあぁ~……おはよう。白夜」
カップにコーヒーを二つ用意し、砂糖とミルクを入れ、姉に視線を向けた。
「おはよう。紫姉さん、今からコーヒーを入れたけど飲む?」
「ああ、もらうよ。ところで白夜、紅葉はまだ眠っているの?」
リビングを見渡し、リビングにいない妹の事を訊かれ。
「まだ、寝てるよ。悪いけどいつも道理、紅葉ことお願いして良い?」
「それくらい何時ものことですから、頼まなくなくってあげます」
クス、と微笑を浮かべ紫は、背を向けリビングから出て行く。
(……いくら妹だからって年頃の女の子の部屋に入るのは、僕的にどうかと思うし……)
五分後、二人分の足音ととも扉が開き、姉に起こされた――
すこし赤茶色のセミロングで猫の耳に見えるツインテール、姉とは逆でスレンダーでまだ幼さを感じさせる少女――妹の紅葉が紫と一緒にリビングに入って来た。
天城・紅葉。一つ下の妹。スポーツ万能で運動に関してオリンピックに出場できると云われる程の超人である。それでよく部活の助っ人に頼まれるくらいだ。
ただし運動以外、成績は悪く、ある意味で姉とは真逆の存在だった。
「……おは〜よ〜うぅシロ兄。今日の朝ゴハンはな〜に?」
そんな活発的で好奇心旺盛などこか猫を思わせる美少女――紅葉が、寝ぼけながら挨拶した。
「おはよう紅葉。今日の朝食はジャムトーストにハムエッグとサラダだよ」
「紅葉、その前に顔を洗ってきなさい」
「は~い、ムラサキ姉ぇ」
微笑み浮かべた紫の言葉に、素直に元気よく返事する紅葉。
いつもと変わらない光景を眺めながら、白夜はテーブルに朝食を並べた。
半熟の目玉焼きが乗ったハムエッグ。千切りキャベツとトマトのサラダ。イチゴジャムを塗った人数のトーストを。
やがて、顔を洗い戻ってきた妹はイスに座り、その隣に紫が座った。
二人が席に着くのを見て白夜も、二人の向かいにある席に座り、朝食に頂く。
「「「いただきます」」」
と、次の瞬間。目の前にあるハムエッグに、いきなり箸が突き刺さろうとする。
――が、ギリギリでそれを防ぎ、白夜はオカズを奪おうとする箸の持ち主に目を向ける。
「……紅葉、自分のオカズがあるんだから僕のを取らないで!」
白夜がそう言う。すると、紅葉はニヤリと笑い獲物に猫パンチするネコの如く、再び強奪を謀り、
「ふぅふぅふぅ♪ シロ兄、知らないの? 妹のモノは可愛い妹の物、兄のモノは可愛い妹の物なんだよ!!」
ハムエッグを必要に狙い続けながらキメ顔でそう言った。
「何処のガキ大将だ! それになんで可愛いを二回も言った!?」
「…………シニャァァァァー!!」
白夜のツッコミに対し、紅葉は両手に箸とフォークを装備し、ダブル猫パンチ並の激しさで皿にあるオカズを全て奪い取ろうとする。
「朝から仲良しだね~」
そんな二人の光景に、クスクスと口に手を当てて笑う紫。
白夜はそんな姉に非難する視線を送りながら助けを求めた。
「うわぁぁぁ!? た、助けてぉぉ紫姉さんっ!!」
「フフフ♪ ぅん! ああ、ごめん白夜。そう睨まないで、代わりに私のコレをあげるから。――ほら、紅葉も止めなさい!」
咎める視線に気付いた紫は、テーブルに身を乗り出した紅葉を嗜めるが、
「フゥー! フゥー! ニャァー!!」
興奮しているネコのように威嚇してくる。
「……紅葉?」
「ッ!?」
そんな紅葉を、紫の冷たい笑顔の一言で首を捕まれた猫のように大人しくなった。
「ぶぅ~、……は~い」
そして頬を膨らませ渋々と紅葉は返事した。
「ほぅっ」
白夜は安堵し息を吐く。そして自分の皿――残りのオカズを紅葉から遠ざける。
「ほ~ら、そんな顔をしないで、せっかく可愛い顔が台無しになってしまうよ?」
頬を風船ように膨らます紅葉を、紫は微笑ましく眺めながら褒めた。
「え、ほんとう!? さすがムラサキ姉ぇ! どっかのシロ兄とか大違いだね♪」
「そうだね――ってそのシロ兄って僕だよね!? それに紫姉さん! トマトは食べなよ。いくら嫌いだからって聞いてる!?」
「ふぅ~ん♪ ふぅ~ん♪」
褒められてすぐ機嫌を直す妹、澄まし顔でコーヒーを飲む姉、いつも苦労する白夜。
そんな感じで朝食を食べ終えた自分達。
白夜は汚れた食器を食洗機に入れて、スイッチを押す。そして部屋に戻り、制服に着替えたら、洗濯を干し家の戸締まりを確認する。家の時計を見ると八時を過ぎていた。
慌てて白夜は玄関に向かい靴をはき、鍵を閉めて家を出た。
すでに姉と妹は学校に行っている。
美人姉妹である二人と一緒に行くとなにかと面倒ごとに巻き込まれるからだ。
だから、本人達には先に行って貰っている。
天気の良い青空の下、通学路を走り、白夜は学校へ向かう。
あと少しで遅刻しそうだったが何事もなく学校に辿り着いた。
上履きに履き替えた白夜は急いで階段を上り、教室に向かう。すると、自分のクラスの前、廊下を塞いで騒ぐ男子生徒と女子生徒――六人を発見。
その六人内、男子生徒――その一人が、大柄と小柄の男子生徒と言い争っていた。
(……正直に言えば関わりたくもないけど)
教室の前だし仕方ない、と思い白夜は近寄っていくと、
廊下で騒いでいる彼等の会話の内容が聞えてくる。
「君達! いい加減に盗んだ事を白状したらどうだ!」
「ちげぇって言ってるだろうボケ!」
「直樹の言う通りだよ!」
どうやら彼等の誰かが物を盗んだか、盗んでないか、で言い争っているらしい。
「だから、オレらがやったんじゃねぇって言ってるだろうが!」
「そうだ、ボク達は関係ない! 偶々、見つけて持ってきただけだろう!」
と、大柄の男子生徒と小柄の男子生徒が怒鳴りながら反論した。すると、向かい合っている男子生徒が、
「だから! それを壊したかどうかを聞いているんだ! 君達ではないなら誰がやったのか知ってるのか?」
二人の言葉を聞いていないのか、眉間を寄せて怒鳴る。そして顔を振り向き、彼の後ろでうつむく黒髪の女子生徒を心配していた。
その女子生徒は手に何かを持っているようだった。
そんな黒髪の女子生徒の隣で、彼女の背中をさすり慰める女子生徒と、その向かいで彼女達を不機嫌な顔で睨む制服を着崩したギャル系の女子生徒がいた。
やがて、そんな彼等の顔をハッキリと分かる距離まで近づくと白夜は目を丸くする。
全員知ってる人達だった。自分のクラスメイトであり、ある意味で有名人達だ。
「知らねぇよ! 桃子が見つけた時にはもう壊れていたんだ!」
逆ギレした大柄の男子生徒が声を荒げながら事実を伝えた。それで白夜は大体ことを察しがついた。
昨日、黒髪の女子生徒――彼女の持ち物がなくなった騒ぎがあった。おそらく彼等が言い争っている原因はその事だろう。
(――確かにあの時、彼女の幼馴染みである彼の荒れようは凄かった)
でもあの様子じゃ、お互いに火に油を注ぐ様なものだし、仕方ない。
と、自分のお人好しな性格に嫌気を差してしまう。
白夜はますますとヒートアップして言い争う三人の男子に足を進め、
この手の揉め事には慣れてる。……うちの姉妹が仕出かした事よりはまだ楽だしね。
と、気楽に考える白夜。のちに自分がこう考えるとは思いもしなかっただろう。
――この時ほど、姉妹によって鍛えられた苦労性を呪った事は無かった、と。
もう間近に迫っていた。まずは意表つくために強気で話し掛けようと――
「ねえ! きみた―――え?」
――そんな時だ。
突如、床から金色の光が上がった。
面食らう白夜は床に視線を向ける。目の前――六人を中心に光り耀くの円環が現れ、渦を巻き始めていた。
その異常事態に気づいた六人も言い争いをやめ、自分達の足元――光の渦を注視する。
金色に光る渦巻きは徐々に輝き増していく。
咄嗟の事で、膠着した六人だが、すぐに膠着が解け悲鳴をあげて逃げようした直後だった。
『◇◎●※ヱΠΖΗγκ訳語認識―――完了』
頭に重石を載せられたような重い感覚に襲われる。
そして同時に、知らない女性の声が頭の中に鳴り響く。
『空間座標―――確認』
次々と頭の中に流れ混んで来る言葉。
『座標固定―――完了』
光の輝きが強くなる廊下で一歩も動けずに。
『次元転送―――開始』
呆然と白夜達――七人は事が終わるまで立っていることしか出来なかった。
『星天門―――開門』
そう聞こえた時、金色の光の渦は臨界を迎えたように爆発し、輝く閃光が廊下を金色に照らす。
そして数秒か、数分か、光が収まった頃、廊下には誰一人いなくなっていた。
そのすぐ後、この異変を目撃した生徒と教師が警察に連絡。駆けつけた警察が現場を調査、並びに目撃者の証言で、同時期に敷地内で複数の場所で同じ現象を確認された。
――そして調査結果で解ったことは、同じ現象を三ヶ所に発生したこと、十数名の生徒と教員一人が行方不明と言う結果だった。
その後、行方不明となった彼等がどのような方法で誘拐もしくは失踪したのか、原因不明のまま事件はお蔵入りした。しかし、それは別の話である。
お読み下さいありがとうございます。今回はやはり小説を書くのが難しいと理解させられました。また、経験と勉強不足を実感し先輩方の色々な作品を読み、その凄さを改めて理解しました。次の投稿にも時間が掛かる思いますが、読んで下さる読者の皆様の為にがんばって書いていきます。