閑話 ミルトス○○事件簿
これは、まだカムラン渓谷に向かう前。
王都サンクロイツで、訓練をしながら過ごしていたある日の事だ。
その日、午後の訓練が終えて、兵舎の四人部屋の自室に戻った白夜、直樹、秋吉、和馬の四人は、向かい会うようにイスに座っていた。
すると、今から戦場に赴く戦士ような顔つきの直樹が椅子から立ち上がる。
「……良し、テメェら! ちっとばかし風呂を覗きに行こうぜ!!」
と嬉々として、そんな命知らずな言葉を言った。
ポッカンと唖然とする白夜と和馬。
そこに彼の言葉を引き継ぐように、
「大丈夫。連中にバレないポイントをしっかり目星をつけているよ」
秋吉が右手で親指を立てて、席から立ち上がった。
(……いや、そうじゃなくって!?)
そんな心配をしていない、と白夜が椅子から跳ね起きった。
――今、大浴場に入っているのは……。
「覗きなんて犯罪だよ!? いくら異世界だってダメに決まっているよ!」
「そうだ! そこの変態の言うとおりだ! お前達に蓮花や雪妃の生まれたままの姿をぉ………」
一緒に止めようしていた筈の和馬が途中から声を潜め、何かを妄想し始めた。
ええ~と白夜は振り向き当惑する。
そんな自分達の反応は想定内だと、直樹と秋吉は互いにしたり顔で頷く。
「そうだ。白夜の言う通りこれは犯罪だ。だが! よく考えてみろ、此処にはその〝法〟を覆す存在がお嬢を狙っていることを忘れたのか!」
「「はっ!?」」
これから犯す罪を素直に認め、直樹が豪語する。確かに、この城にはトンデモない暴挙を平気で行う危険人物が居ることを白夜と和馬は気が付いた。
「そう、ボク達は覗きにいくんじゃない。そいつが犯す犯罪を防ぐ為に監視しに行くんだ! そしてその時に偶然見えてしまったらそれは事故でしかない!」
なんとも都合いい言葉を熱弁する秋吉。すると、和馬が感銘したかのように腕で目元を隠しながら、ガバッと椅子から起立する。
「そうかお前達、そこまで雪妃達のことを思ってくれたのか! ……それなのに俺は!」
(……どこに感動する要素が? あと和馬君、口がニヤてけるよ)
そんな彼のワザとらしいリアクションに、白夜はジト目で眺めた。
「良し、ならばこれは正義の行いだ。俺もお前達に付いていくぞ! あのデブに蓮花と雪妃のあわれもない姿は絶対に見せん!!」
顔から腕を退かし、その拳を握りしめらがら和馬は熱を帯びた声で宣言する。
(回りくどいこと言葉を使わないで、素直に付いて行くって言えば良いのに……)
そう思いながら白夜は「どの口が正義を語るだよ!」と本音を漏らそうとする。
――だが、それよりも早く直樹の大声でかき消された。
「よっしゃぁぁぁ! なら行くぞ、テメェら! 覗きを阻止にッ!」
「早く現場をおさえないと、アイツらが逃げて手遅れになっちゃからね」
「ああ、男の浪漫を阻止しにいくぞ!」
言っていることはマトモだが三人の言葉は、自分にはまったく逆の意味に聞こえた。
そう考えていた白夜に、ふと和馬が顔を向け、
「で、お前はどうする変態? ………蓮花を守りに行かないのか?」
眉間にシワを寄せるくらい複雑な表情する和馬がそう言った。
その答えで、自分を見定めようとする感じだった。
「……行くよ、守りに。僕の【察知】と【潜伏】スキルなら彼等に気付かれる前に見つけることができるからね。それ以外はしないよ」
【察知】は、ある程度の距離にいる生物の気配を知らせるスキルで、【潜伏】は【察知】とは逆に、自分の気配を消し発見されにくくするスキルだ。
あくまで覗きを阻止し、彼女達を守るだけと主張し、見つめ返す。
数秒後、和馬は背を向け、
「……そうか。なら足を引っ張るなよ天城」
そう言い、部屋から出て行った。
直樹と秋吉は「面倒くさい奴だな」と苦笑を浮かべ、和馬の後を追うように出て行く。
初めて変態から名字だが、彼から名前で呼ばれた。そのことが嬉しくあり、せめて別の件で名前を呼ばれたかと白夜は飽きれ気味の笑みを浮かべ、三人の後を追った。
◇ ◆ ◇
この異世界では、過去に滅んだ高度な文明の名残りで衛生面においては近代日本と同じくらい衛生基準が高く、水の豊富な土地では湯船に浸かる風呂文化が存在するのだ。
暗くなり始めた空。月明かりを頼りに白夜達は城のとある庭園の茂みを越えて、その先にある建物。大浴場にあたる場所の壁に辿り着く。
そこは人気のなく、白い石壁は六メートルくらい高さに湯けむりが漏れる窓。その下に塔のように不自然に積まれた木箱があった。
それともう一つ、この場所に自分達よりも先に先客がいた。
そう、今にも登ろうとするシャルバと取り巻きの小柄な少年と大柄な少年。その三人を見つけたのだ。
「「「「あっ」」」」
この場にいた全員の声が重なった瞬間だった。
まさか、【察知】を使う前に、ソッコーで犯行現場を発見するとは。
直樹と秋吉、和馬が、「なんですぐ見つかるだよ!」と言いたげに顔をしかめる。
対するシャルバ、オルガ、ライクが「なんで此処にお前達が!」と木箱から降りて、睨んできた。
「「「…………………………」」」
そこから両者は暗黙の了解を結んでいたかのように音を立てず静かに移動した。
そして積まれた木箱を挟んで両者は睨み合いながら対峙する。
「なんでテメェ――」
「待て!」
直樹が大声を問いただそうとすると、シャルバが右の手の平を自分達に見せ、
「………まず貴様ら、此処では大声を出さず小声で話さないか? そうでないと彼女達にバレてしまう」
そう提案してきた。それに直樹と秋吉、和馬の三人が頷き肯定する。
(……君達、一応覗きを阻止に来たんだから断ろうよ)
そんな三人を呆れた目で眺めつつ白夜は溜息をついた。
「……なんでテメェらが此処にいるんだ!」
そして再び、直樹が問いただす。今度は小声で。
「何故だと? ふん! 俺様はこの時間、いつも此処を散歩するのが日課なんだ。そうだろうお前達?」
その豚のような鼻を鳴らし、シャルバは堂々と答えた。小声で……。
取り巻きのライクとオルガがうんうんと頷く。
じゃあ、ついさっき登ろうとしてたのは? と聞きたくなる白夜は周りを見回す。
正面に例の建物、左側に城壁、後ろに庭園の茂みに隠れ、右側に通路があるが遠く、向こうからでは建物の影に隠れて見えずらそうだった。
明らかに散歩でくるような場所ではなかった。それに、
「……さっき〝いつも此処を散歩するのが〟って言ったけど、それって常習は――」
「それよりもだ! お前らが此処にいると言うことは、俺様達と同じ目的なんだろっ!?」
白夜の言葉を遮るように、シャルバは積まれた木箱を指差した。
そこには、大きな木箱を台に、上へ上へと積み上げられていた。また、その頂上には換気口のような窓があり。そこの足場からして、中を覗けるのは精々一人かギリギリ二人くらいだ。
白夜が視線を戻すと、シャルバが悪どい笑みを浮かべていた。
「見ての通りアレに覗けるのは一人だけだ。この意味分かるよな?」
その悪魔のような囁きに、「はっ!」と和馬、直樹、秋吉は互い飛び退き、この場にいる全員の挙動を監視し始める。
たった一言。それが自分達を――仲間から蹴落とすべき敵へと変えた。
「そうだ。我々の願望を叶えられるのは七人の中で、たった一人しか叶えることができない。ならば俺様達はどうすか………分かるな?」
七人の英雄達が聖遺物を奪い合うアレのように語るシャルバ。
「「「「ごっくん」」」」
白夜とシャルバ以外の全員が生唾を飲んだ。
(此処で空気読まずに大声を出そうかな。でもそうすると今後、みんなとの関係が……)
うんざりとしたような顔で白夜はそんな事を考え始める一方で、この状況は進んでいく。
「ハァハァハァ……」
和馬、直樹、秋吉、シャルバ、ライク、オルガが息を荒くさせる。一歩でも動けば殺られるような雰囲気を醸し出しながら、どう出し抜こうかと牽制し合う。
刻一刻と時間が過ぎていく。
そして、ついに耐えれなくなった六人が一斉に動こうした――その時だった。
「うわぁ、デカッ! いつも思うけどレンカっちのそれ、肩凝らないの?」
「きゃぁ!? と、桃子ちゃんくすぐたっいよ!」
「はいはい、貴女達。そんなに、はしゃいだら怪我はするわよ」
「ははは、ユキ。今の言葉、まるで母親みたいだったぞ」
桃子、蓮花、雪妃、ダリアの四人の和気藹々とした声が大浴場の空いた窓から聞こえてきた。それにより白夜達は、ビタッと動きを止めた。
「いや、ユッキー! このレンカっちのメロン並みのモノを見たら、同性のあたしですら触りたくなるよ! それにユッキーだってそのなめらか美脚とか、どうすればそういう風になるのよ! 二人に比べたらあたしの身体なんて……」
桃子がそう言うと、シャルバと和馬がサッと建物の壁に耳をつけて、中の音を詳しく聞こうとする。
「何を言っている。トウコだってレンカには負けるが、それなりに大きいではないか? それにそのハリのあるもちもちの肌とか、随分と色気があるぞ」
ピタッと同時に秋吉とライクは壁に耳をつけ、ダリアの話をもっと詳しく聞こうと神経を研ぎ澄ませる。
「ちょっと!? それじゃあたしが軽い女みたいじゃないっ! ダリアだってそのキュッと引き締まったくびれや胸とか、あたしよりもお色気ムンムンじゃない!」
「はっはっはっ、私は君達よりも大人だからな」
桃子の反論にダリアが笑う。そこに直樹とオルガが、そうっと壁に近づき、一言も漏らさないように耳を研ぎ澄ませる。
見事に自身の好みに別れた行動だな、と白夜は思わず感心してしまう。
「二人共も身体の自慢は良いけど、その身体が冷える前に湯船に入ったらどうかしら?」
「そうねユッキー。――あ、ダリア。今日は、もう外に、動きたくないし、たくさん、汗をかいたから、そこに、入るわ」
雪妃の呆れたような口調に、桃子は回りくどい言い方で返事する。
「ふむ、そうか。なら私もう出るとしよう、今日は……まだ仕事が残っていたようだ」
ダリアはそう言って大浴場から遠退いていく足音が聞こえた。
そして、ぴちゃんと水がはねる複数の音が聞こえてきた。同時に大浴場の壁に耳をつける和馬、直樹、秋吉、シャルバ、オルガ、ライクが、はあはあと鼻息を荒くさせる。
「ねえ、みんな……もう覗きとかやめて、部屋に帰らない?」
そんな六人を離れた場所で、冷めた目をしながら白夜は心底そう思った。
しかし、その六人が白夜に顔を向け。
「「「「一人で帰れ!」」」」
(……なんでこんな時だけ息ピッタリなの君達?)
再び大浴場の壁に張りつき聞き耳を立てる彼等を見て、白夜は思った。
(もう大声を出して見つかろう……)
このままでは彼等は完全に道を踏み外すだろう。
白夜がそう思いながら息を深く吸った時だった。
「う~ん、やっぱり身体を動かした後の最高ね! ……ところでレンカっちはハクヤっちのどこに惚れたの?」
「え!? どうして急にそんなこと聞くかな?」
桃子の質問に、蓮花は戸惑った声を上げる。その一言が白夜の耳に入り、大声を出すタイミングを逃した。
「いやぁ、だってハクヤっちって……言っちゃ悪いけど地味じゃん? クラスでもあんまり目立たなかったし。まあ、そのぶん姉妹の方は有名だけど、そんな彼のどこに惚れたのかな~? と思ったのよ」
そっと白夜は、窓から漏れる彼女達の会話を聞き耳をたてる。
そもそも元の世界でも蓮花とはクラスメート以外で接点がない。
そんな彼女が自分の何処に惚れたのかな気になったからだ。
「そうね。私も気になっていたわ。あの時、助けて貰ったとしてもその後、白夜君に対してのあの積極的な態度。蓮花、貴女。元の世界で私の知らない所で彼に関わったことあるのかしら?」
先日、蓮花がとった大胆な行動に気になっていたのか、雪妃は疑問を口する。
「ううん、別にあっちでもユキちゃんが思ってるほど関わっていないよ。………ただ家の都合で出掛けている時に時折、困ってる人を助けてる白夜君を見て。あの人は優しい人だなって思ってから、ふと目で追うようになっちゃったの」
まるで大切な想い出ように蓮花は柔らかい声を語る。しかし、壁の向こうで盗み聞きした白夜は顔を歪めっていた。
(……蓮花は僕のことをまるで善人のように語るけど、僕は彼女が思うような人間じゃない)
なぜなら天城・白夜にとって困っている人を助けるのは、天才な姉妹に比較する周囲の人に自分を認めてもらおうとする自己満足の手段であって、彼女が思うような優しさからではなかった。
(……僕自身、それを自覚している。だからこそ、人助けしても誇れる気になれないんだ)
白夜がそう自虐的に考えていると、ふと射るような視線を感じそちらを見る。
「「……………………」」
和馬とシャルバが歯を噛みしめながら忌々しそうに睨んでいた。
二人は蓮花の心に白夜がいることが余程、気に入らないようだ。
「へぇー、乙女だね。あ~あ、レンカっちのノロケ話で湯あたりしそうね」
「ええ、これはお湯を冷ました方が良いわね」
「もう二人してからかうなんて酷いよ! だったら桃子ちゃん! 直樹くんや秋吉くんのこと、どう思ってるの?」
壁の向こうで、二人に弄られた蓮花が声を尖らせ、桃子にお返しとばかりに尋ねた。
「どうって直樹は頼れる兄貴分だし、オタ吉は………子分?」
桃子がそう漏らすと、秋吉が「あのギャル子! いつか赤面させながら〝別にアンタのために作ったんじゃないんだからね!〟って言わしてやる!」と拳を握り締める。
「ええっとユキちゃんは……」
「言わなくても分かるでしょう? はた迷惑で手間の掛かる弟分よ」
雪妃の素っ気ない一言に、和馬は「グハッ」と心が抉られたかのように手で自分の胸に押さえた。
「相変わらず、ユッキーはシビアだね。よくそんな態度でカズまっちを虜にできたのよ?」
「ああ、それはね。子供の頃にカズくんが、ユキちゃんをお嫁さんにするって約束したんだよ」
「蓮花。弱虫で泣き虫が付け忘れているわよ」
「ユキちゃんッ!」
彼女の会話に口を挟む雪妃。普段の彼女達の二人の立場が珍しく逆転していた。
そんな雪妃は、蓮花の話を引き継ぐよう始める。
「まあ、そうね。あの頃の和馬に、蓮花と私を守れるくらい強くなれたら結婚してあげると約束したわ……ただあのバカ。顔だけは良いでしょ」
自分の過去を人に知られるのが恥ずかしいのか、和馬が耳を真っ赤にされながら顔を両手で覆う。そこに直樹、秋吉、シャルバ、オルガ、ライクが「プウッー」と一斉に吹き出した。
「成長しても、今と同じ調子でやったらと私にアピールするもんだから、周囲の女子から嫉妬と妬みの嵐よ! いくら小島家に手が出すのが怖いからって、あいつら!」
何処の誰かに向けて雪妃が恨み言を吐き出した。
どうやら、雪妃は過去に嫉妬によるイジメを受けていたようだ。しかも、集中的に。
「ホントに蓮花がいなかったら私、今ごろ人間不振になっていたわ」
壁の向こう側で、恐らくご立腹の雪妃がため息混じりにそう呟く。
成程、と白夜は理解する。
雪妃にとって蓮花は親友であり恩人でもあるらしい。
だから、二人がまるで姉妹ように仲が良かったのか。
そして、和馬に対する態度が容赦なく素っ気ないのはそれが原因らしい。
和馬が「だから、俺が雪妃と蓮花を穢す奴らから守らなきゃいけないんだ」と呟きながら顔を上げた。
「うわぁ。お疲れ様、ユッキー。……もうこれはレンカっちの二つのメロンを揉んで気分転換するしかないね!」
「ええ、この気分を癒す為に蓮花には協力して貰おうかしら?」
「そ、そんな!? まっ、ひゃん! ぅんだめ、二人と、やめぅん」
蓮花の艶かしい悲鳴と、水が激しく跳ねる音が建物の向こうから聞こえてくる。
「うわぁ、スゴッ! そんなにも手が埋もれちゃうの!? (……ユッキー、そろそろ)」
「ホントにどうしたら、こんなにも立派に育つのかしら? (……ええ、分かったわ)」
「やめっ、うんっユキちゃ、ひゃっ桃子ち――」
まるで外に聞こえるように、状況を実況をする雪妃と桃子。
大浴場の窓から聞こえる色気のある声。その官能的な場面に、白夜達の想像力を駆り立てられた。
そして、それに我慢できなくなった者が現れる。
「うおぉぉぉぉぉぉ、もう我慢できん! 直接拝んでやるぞレンカッ!!」
「なあ!? やらせるか! 蓮花や雪妃のけしかん姿は俺が見るんだッ!!」
あの太った見た目に反して木箱の足場を素早く登るシャルバ。そこを和馬が追従するように彼の後を追いかけて登っていく。
「「うおぉぉぉぉぉぉぉおおお!!!」」
その二人は争うように身体がぶつけながら、ついに窓に辿り着く。
そして、和馬とシャルバが同時に覗きこんだ瞬間。
「「着いたぁぁ(カーン!)――ガハッ!?」」
綺麗な音を鳴らし、木の桶がシャルバと和馬の額に勢い良く命中。且つ、二人仲良く高さ六メートルの足場から真っ逆さまに落ちてきた。
「ストライクッ! ユッキー! 馬鹿共が釣れたわッ!!」
「氷雪の精よ・仮染めの肉体を得て・顕現せよ――『クリエイト・アイスゴーレム』」
雪妃が建物の中から魔法を発動させ、氷で出来た雪ダルマにマスターハ○ドに似た浮遊する氷の手。そんなアイスゴーレムが右側の通路の空から現れ、白夜達の逃げ道を塞ぐように降りてきた。
それと同時に落下していた和馬とシャルバが、ドシャッと地面に激突した。
「やべぇ、バレた!?」「あああ!? シャルバ様!?」「いかん、逃げ道がっ!?」「だから部屋に帰ろうって言ったのに!」
彼女達に気付かれたことに白夜達はパニックを起こす。
「うわあああ!? なんでバレたんだ!?」
「バァァァァァカッッ!! アンタ達の行動なんて、最初からあたしの【索敵】スキルで全部筒抜けよ!」
素っ頓狂な声であげる秋吉に、桃子が罵倒しながらタネを明かした。
【索敵】――探知系上級スキル。
その効果は効果範囲にいる敵の簡易的なステータス看破。また、敵味方の位置や距離、数などを詳細に識別する高性能レーダーみたいな能力である。
つまり、白夜以外の六人が覗きの為にこの場に来た時点で、【索敵】を持つ桃子には既にバレていたのだ。そして、今までの大浴場の出来事は、全て自分達を捕まえる為の罠だったらしい。
「だから、逃げて無駄よアンタ達! 今から捕まえてやるんだから、そこから一歩も動くんじゃないわよッ!! ユッキー、行こう!」
「ええ、蓮花! 貴女は此処に居なさい」
建物の窓から、蓮花の「え!? ユキちゃん! 桃子ちゃん!」と戸惑う声。さらに激しく水を掻き分ける音が伝わる。
「アホッ! 逃げる決まってるだろう、テメェら! 連中が来る前にその茂みから逃げるぞ!」
直樹がそう言うと後ろにある庭園の茂みに向かって一歩踏み出した瞬間。
「切り裂けッ――『竜を貫き殺す輝く聖剣』!」
ザンッとその茂み一帯がバッサリと切り払われ、その先に鬼が立っていた。
全長四メートルの青い光の大剣を肩に担ぐ、湿ったハチミツ色の髪に、スタイル良さが見て分かる程のラフな格好をしたダリア。
そんな彼女が切り払った茂みの向こう側に待ち構えていたのだ。
「……何処へ行こうとするんだ。お前達?」
ダリアは優しそうに声を掛ける。だが、その顔は鬼のような形相をしていた。
ヒィィィ、と悲鳴を漏らし白夜、直樹、秋吉、ライク、オルガは釈明する暇なく脅えた。
「ここ数ヶ月、大浴場を使う侍女達から妙な視線を感じると報告があって、見張りの兵士を置いたんだが……この犯人が中々に狡猾で、並びにある理由から捕まえることが出来なかった」
今までの経緯を説明するように語るダリア。
「だから、現行犯で捕まえる為にユキ達に手伝って貰っていたが……」
青い光の大剣状態の《ゲオルギウス》を八相のように構え、ギラッと鋭い目で睨まれる。
「よもや、その愚弟達とハクヤ殿達まで協力していたとは――『魔導剣』」
【魔導剣】を発動させたダリアの身体に烈風が纏い始める。
ヤバイ、と【予感】が告げる。白夜は周りを見回す。
後ろと右側は建物と城壁の高い壁に遮られ、正面に烈風を纏う戦鬼。左側には雪ダルマのようなアイスゴーレム。どこも逃げられる場所が無かった。
まさに、袋の鼠状態だった。そこに、
「慌てるな! 俺様達には〈正義〉の七徳大聖が付いている。我らが一丸となり、あの鬼に挑めば必ず逃げ切れる! だから、貴様! 今だけ俺様と共闘しようじゃないか?」
額を赤く染めたシャルバが、一緒に立ち上がった額が赤い和馬に手を差し伸べる。
ところが、ペシッと和馬はその手をはたき落とし、スタスタと通路側にいるアイスゴーレムの前まで歩き、振り返る。
「フッ、ついに本性を現したな犯人共! 俺はお前達の犯行現場を押さえる為の囮捜査していただけだ。だから雪妃! 今こそ共にあの覗き魔どもを捕まえようっ!!」
アイスゴーレムを背に和馬は白夜達に指を突き刺す。
「「「「最低な奴だなお前ッ!!」」」」
仲間? を売った和馬に、この場にいる男子はツッコんだ。
この期に及んで自分だけ助かろうする和馬。しかし、背後にいるアイスゴーレムが突然、飛び上がり――
「ふん、犯罪者の戯れ言に耳を貸すつもりない! さあ、いくぞお前達、セクぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」
ドッスン! と天罰を下すように和馬を踏み潰すアイスゴーレム。
そこに直樹、秋吉、シャルバ、オルガ、ライクが「ざまあみろ」と潰れた裏切り者に小馬鹿にするような笑みを浮かべた。
(……和馬君、死んでない……よね?)
潰れた和馬の身を案じ白夜はアイスゴーレムの下を覗いてみる。
霜が被って潰れているが和馬はピクピク動くので、どうやら生きているようだ。
《騎士王》――クラスによる高い[耐久]のお陰で助かったんだろう。
良かった、と白夜が安堵する。そこに、
「さあ、次はお前達を裁く番だ。安心しろ、なるべく手加減してやる」
ダリアが宣言する。《ゲオルギウス》の巨大な光の刃に烈風が纏いつく。
それを目にした白夜は咄嗟に腕を交差し、防御体勢をとる。
「以前、ハクヤ殿には戦技はいずれ教えると言ったが……今、実践して見せよう。戦技には様々種類がある……その中でも現在、代表的と謳われる三大流派の一つ、私が会得した戦技」
《ゲオルギウス》から嵐を巻き起こしながら――
「グレンフォード流魔剣術――『爆迅風牙』!」
一閃。
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!?」」」」
竜巻の纏った薙ぎ払いは、直樹、秋吉、シャルバ、オルガ、ライクをまとめて吹き飛ばし、後ろの建物――壁に叩きつけた。
そして白夜も吹き飛ぶが、[幸運]が高いお陰か、建物に空いた窓から中に入り落下した。
バシャァァァアアッ…………!!
一秒後、白夜は温かいお湯に着水する。
「うわわわっ! わぷっ! アツッ!?」
顔にかかるお湯の熱さに驚き白夜は跳ね起きた。
濡れて張り付く感触に視界一面を覆う、白い湯気。
その向こうに、ランプで淡く照らされた白い大理石の柱と、壁が見えた。
……た、助かったのかな? と白夜が思っていると。
濃い湯気が薄れ、目の前に――
濡れた羽色の長い髪、そびえ立つ双丘、その豊満な体つき。一糸まとわぬ蓮花の姿があった。
「えっ?」
その極めが細かくふっくらした肌は、入浴のせいで上気し、頬まで赤く染まっていた。
そんな蓮花と白夜が見つめあって――数秒後。
「きゃぁぁぁぁあ!? 白夜君、まだ早いよ!?」
「なにが(バーンッ!)――ぐばぁっーー!?」
蓮花の悲鳴と空気を弾けた音を立て、クラスによって強化された彼女の強烈なビンタが、白夜の頬の骨を砕き、水切りように浴場の端まで意識と一緒に吹き飛んでいた。
そして、プカッとどざえもんのようにお湯に浮かぶ白夜。
◇ ◆ ◇
その後、白夜は再び、悲鳴を上げた蓮花に助けられ、つぶれた顔を回復魔法で治療し部屋に寝かされた。
ちなみに和馬、直樹、秋吉、シャルバ、オルガ、ライクの六人は――
怒り心頭の雪妃、桃子、ダリア達三人によってミノムシのように朝が来るまで、城壁の上に吊るされたらしい。
こうして、この事件は未遂として終わった。
翌朝、この六人を目撃した王都の住人が一騒ぎを起きたが、これは別の話だ。
あと一話、更新して二章を始めます。




