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Blue Blue Blue  作者: 榎戸曜子
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 ドアの向こうには数人の男たちがたむろしていた。

 それが一斉に振り返る。

「おい、どうしたんだ?」

「誰だ、そいつは?」

 どすの利いた声……なのだろうな……付き合いたくない奴らだ。

「例の物件を管理しているそうだ」

 スーツ男が得意げに答える。

「へえ?」

「小菅さんが探していたな」

「よく見つけたじゃないか」

 たむろしていた男の一人が俺に近づき、ボディーチェックをした。

 虫唾が走るが仕方がない。

「武器は持っていない。中に入れろ」

 様子を見ていた男が言った。


 男たちが道を開け、俺は小菅の事務所の前に立った。ガラス越しに何の変哲もないカウンターと並んだ椅子が見える。その奥にはパソコンが乗ったデスクが十ほど。店員らしき人影はない。

「こっちだ」

 入り口にいた男がカウンターの横を通って隣の部屋に続くドアを開ける。ちょっとした応接セットが置いてある部屋だった。まさかもてなしてくれるはずもない。男はさらに隣に続くドアをノックして一言二言言い、ドアが開いた。

 顔を出したのは大村だ。

「間違いありません。菊と一緒にいた男です」

 大村が奥に向かって言う。

「入れ」

 大村が俺に言い、俺は一人で部屋に入った。

 奥の部屋は社長室と言ったところだろうか。窓際に大きなデスクが一つ、手前には応接セット。とはいえ、先ほどとは段違いの高価な黒い革張りのソファーが置かれている。

「どうぞ、かけてください」

 この部屋の主と思われる男が言った。そのそばにはあの大村がいる。小柄で小太りの大村と違い、この男はがっしりとした長身だ。

「あなたがあの家の管理をしていらっしゃると?」

「ああ。お前が小菅か?」

「そうです」

「何故菊にあんな真似をした?」

「さて、千住さんのマンションに贈り物をしたお話ですか? それとも今日のお怪我のことかな?」

 男はにやりと笑った。

 大村も笑う。

「口のきき方に気を付けた方がいい。治外法権というのはどこにでもあるものだ。私たちはお前も探していたんだ。そっちからやって来るなんて都合のいい話だ」

「治外法権だと?」

「今更慌てても遅いぞ?」

 俺は別に慌てていない。だが、大村は得意そうに続けた。

「菊にいろいろ送りつけたのは私さ。精神的に追い詰めて早いところあの家を手放させようと思ったが、菊はなかなか言うことを聞かなかった。だからとうとうあのざまだ」

「許されることではないな」

「さて、それはどうかな? あの娘に親兄弟はいない。大都会で娘一人がいなくなったって誰も心配しないさ。そう言ってやったんだがねえ……」

「あの娘は組の方で面倒を見てもらおう。この辺には息のかかった店もたくさんあるのでね」

 小菅がにやりとした。

「菊もその母親も……頑固というのも考えものだな。でも、まあ、働くようになったら私も顔を見に来てやってもいい。その時には菊も心を入れ替えているだろうさ」

 大村がにやけた笑いを浮かべる。そんなものはどこもかしこも実現不可能で見当はずれな計画だ。普通なら鼻で笑ってやるところだが、この時、俺はもう我慢できなかった。我慢する必要もない。まずは大村の鼻っ柱にストレートを叩き込み、倒れた奴を蹴り飛ばした。次は小菅だ。だが、奴はすでに俺に銃を向けていた。

「一人で乗り込んできたところからすると多少は腕に覚えがあるとは思ったが」

 そう言いながらデスクの警報を押す。

「どうかされましたか?」

 わらわらと外にいた男たちが部屋に入ってきた。

「こいつ」

 顔から血を流し、よたよたと身を起こす大村を見て男たちが顔色を変えた。

「やってしまえ、こいつを叩きのめせ」

 大村がくぐもった声で言う。

 俺はまったく構わなかった。乱闘騒ぎも望むところだ。いくら小菅が銃を構えても所詮そう当たるものではない。狙っている隙に間合いを詰めればいい。その訓練は十分に積んでいる。他に銃を持つ者がいても乱闘騒ぎなら簡単に発砲できまい。何より……あの家を俺が管理しているとなれば……奴らは俺を殺せない。

「待て。こいつには聞きたいことがある」

 案の定、銃を下ろした小菅が狡猾な顔をして俺を見た。慣れた様子で俺の脇を二人の男が固めた。(つもりなのだろう)

「さあ、お前はあの家の管理をしていると言ったが、管理会社が掴めなくてね。さては素人の運営する会社かと思えば、なかなか大したセキュリティーで立ち入ることができない。いったいどこの会社かね?」

「俺の、と言えばいいかな」

「こんな若造が? 嘘に決まっている」

 大村が唸る。

 それを制して小菅は目を細めた。

「あんたはただの若造じゃなさそうだ。少し私の話をしよう」

 小菅は部下に合図して俺を再びソファーに座らせた。

「私の父親の仕事はちょっと変わっていてね、ある人の警護だった。もちろん一人じゃない。それこそ数えきれない数の人間がかかわっていたらしい。父も正確にどれほどの人数がいるのかわからなかったと言っていた。その人物というのがあの菊という娘の祖父、千住楓だ。おかげで私は幼い頃は父と顔を合わせることがあまりなくてねえ。千住楓が死んでからさ、一家で暮らせるようになったのは。といっても今度は私が進学のために上京してそのまま仕事を始めたものだから相変わらず父親の存在は薄かったが。その父が最近死んでね、死ぬ間際の言葉が『俺が守っていたのはこの世で一番の財産家だ』だった。俺は『そんな金持ちがあんなところにいるはずがない』と言ったさ。もっと気の利いたことは言えないのかと呆れもしたが、父は頑固に繰り返し、挙句の果てにはこんなことも言い出した。『この家に誰にも想像ができないほどの富を手に入れるための鍵があると楓様が奥様に仰っていたのをこっそり聞いたことがある』と。半信半疑で調べてみれば確かにあの千住楓という人物は面白い。その行先は多岐にわたっている……それに婿が遭難した時に動かした金。表沙汰にはならなかったが普通では信じられない額だ。あの菊と言う娘は何も知らないの一点張りだったが……さあ、そろそろ教えてくれないか? 千住楓とはどういう人物なんだ? 鍵はどこにある?」

 なるほど、そういうことか……

「千住楓はお前たちの想像を超える財産を持っていた。それは確かだな。だが、鍵はもうあの家にはない」

「では、本当なのか……お前、鍵のありかを知っているのか?」

「ああ、よく知っている」

 それは当然だ。遥々故郷の星ル・ウェイからやって来て、この地上に新たな生を受けた仲間たち、たった一人でこの地球で暮らすことになった俺たちだけがマザーにアクセスし、その富や情報を自由にできるのだ。

 つまり今鍵は俺だ。

「教えろ」

 小菅は言って俺の両隣の男に合図した。腕をねじ上げられる前にすり抜ける。

「お前はもう逃げられないんだよ」

 別の男が素早く俺の腕をつかんだ。力が強い。何より、慣れている。

「後藤さん」

 男たちから声が上がった。

 案内した男が言っていた……こいつが後藤か。俺は後藤の手を払った。後藤は油断なく俺を窺う。目の細い、がっしりした男だった。

「後藤さんは上に顔が利いてね。知り合いが多いんだよ。知り合いって、もちろんこのあたりを仕切る大物の、まあ、やくざの親分さんたちだが」

 ハンカチで鼻を押さえた大村が聞きたくもない鼻声で勝ち誇ったように言った。


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