自己紹介の話
「あ、イリアス君やっぱりここにいたのね。学園長!勝手に生徒を連れていかれては困ります!」
学長室に現れたのはエミ先生だ。昨日の私服姿とは違ってきっちりとスーツに身を包んでいる。
「エミ先生おはよう。ごめんねー、連絡するの忘れてただけなんだよ。」
「で、イリアス君の魔力測定は終わったんですか?」
「ああ、もちろんだよ。でもちょっと問題があってね。ほら、これ。」
そう言って学園長は俺の手から水晶玉を取り、エミ先生に渡した。
「こんなに真っ黒なんて… どういう系統なのかもわかりませんね…」
「そうなん…あ、ちょっと待って。イリアス君、君さっき頭痛がしてる時何を見たんだい?」
「え?んー… 何て言えばいいかな。強いていうなら未来予知、的な?」
「もう少し具体的に教えてくれませんか?」
「あんたの頭の上に水が入ったバケツが降ってきたんだよ。時計は12時頃を指してたな。」
「なるほど… もしかするとそれは本当に未来予知の魔法かもしれませんね。歴史上、別の時間軸を知覚する魔法を使えた魔道士はいません。ならば水晶玉が真っ黒に染まったのにも納得がいきます。未知の魔法はどの属性にも当てはまりませんからね。」
「じゃあそのことも考慮して訓練に付き添います。イリアス君、とりあえず教室に行きましょうか。クラスのみんなに自己紹介しないとね。」
子ども扱いされてんな… と感じないこともなかったが、まぁ学校とはこんなもんだろうと1人で納得していた。
「はいみなさーん。席についてくださいねー。さっそく授業に入りたいところなんですけど、今日はみなさんに紹介したい人がいるんです。」
「えっ!?なに!?彼氏ーーー!?」
「エミ先生彼氏いるの!?」
やばい、なんであいつら転校生がいること知らないんだよ!俺の編入ってそこそこ有名だと思ってたんだけど… このまま出て行ったら間違いなく彼氏扱いされるな…
「あ、はい。彼氏の紹介です。」
なんでこの人もそうノリ良く返しちゃうかな!?まぁなんにせよ早く出ないとみんなを待たせてしまうな…
「あ、みなさんおはようございます… えーっと… エミ先生の彼氏です…」
教室には20人くらいいるが、その突き刺すような視線が痛い… 誰か返事してくれよ… お、カノンちゃんが立ったぞ?何か助け舟をくれるのかも…
「え、イリアス君… エミ先生とそんな関係だったんですか…」
あぁ、終わった。
「もちろん冗談ですよ?みなさんに紹介します、転校生のイリアス=ガルディック君です。」
「よ、よろしくお願いします。」
パラパラと拍手が起こるが俺の気持ちは沈んだままだ。まぁ自業自得とも言えるが。
「席は… そうですね、とりあえず一番後ろの窓際にでもしましょうか。」
エミ先生が呪文を唱えるとどこからともなく机と椅子がセットになって飛んできた。
指定された場所はカノンちゃんのすぐ後ろだ。
「イリアス君、席すぐ近くですね。よろしくお願いします。あ、私の隣の子も紹介しますね。彼女はフリージア=サラミスちゃんですよ。」
「ああ、知ってる。朝会ったからな。」
「クラスも一緒だなんて驚きだわぁ。よろしくねぇ。」
なんにせよ知り合いが近くの席で助かった。これからは最初の失敗を挽回していかないとな。
「じゃあ授業に… と思いましたけど、せっかくイリアス君が編入したんです。訓練所に行って実技訓練でもしましょうか。」
実技訓練って… 俺まだ何もできないんだけどな…
「イリアス君、訓練所に移動しますよ。一緒に行きましょう?」
「あ、ああ。それはいいんだけど、なんでみんなこんなに喜んでるんだ?授業じゃなくとも訓練なんだろう?」
「普段の生活じゃ思いっきり魔法を放つ機会なんてそうそうないですしね。魔物討伐に出かける権利があるのも序列が10番以内の人だけですし。」
「なるほどな。俺はまだ何もできないとは思うが、とりあえず行こうか。」
訓練所には初めて入るが、だいぶ広いな。国営の闘技場くらいはあるんじゃないか?
「はいみなさん、こちらに集まってください。点呼を取りますよー。」
生徒達は次々に番号を言っていく。
「全員いますねー。じゃあペアを組んで各自訓練を開始してください。あ、イリアス君は私と一緒にペアを組みましょうか。」
エミ先生はそう言うと俺のところへやってきた。他のみんなはお互いに魔法を撃ち合っている。炎や雷や氷の塊… いろんなものが飛び交っている。
「じゃあまず基本的な魔法から。フレイムと呼ばれる小さな火球を放つ魔法です。いいですか?魔法はイメージが大切です。私が撃つのを見てそれをしっかりイメージできれば必ず撃てます。」
エミ先生は両手を前に突き出した。その中心で徐々に熱が上がっていってるのがわかる。すぐに拳大の火球が作られた。
「はい、じゃあ撃ちますよ。」
火球は勢いよく手を飛び出し、訓練所の壁に当たって消えた。少し煙が上がっている。
「1回でできるとは思いませんが、とりあえず挑戦してみましょうか。」
俺も見様見真似で両手を突き出す。なんとなく目を閉じてさっき放たれた魔法をイメージする。両手の中心で熱が上がっていき、火球ができ、それを大きくする、そんなイメージだ。
「ーーース君! イリアス君!ストーップ!止めてください!」
突如エミ先生の叫び声が聞こえてきた。なぜか他にも何人か悲鳴を上げている生徒もいるみたいだ。
目を開けると、両手を広げたよりも大きく成長した火の玉がすぐ目の前にあった。