水着の話
30話 水着の話
あの日何があったのか、俺たちは全く覚えていなかった。学園長がセレンちゃんを助けてくれたところまでは覚えてるんだが… 気がついた時には各々の部屋に帰って寝てたんだよな。他の3人に聞いても全く同じだった。いったい誰が犯人だったのかも覚えていない。C組に転校したやつがいるらしいから多分そいつなんだろう。
「……………という訳でー… ちょっとイリアス君?ちゃんと聞いてますか?」
ユキちゃんに呼びかけられてハッとした。まだSHRの時間だったな。
「ああ、ごめん。聞いてるよ。で、何の話だっけか。」
「聞いてないじゃないですか… いいですか?もう一度言いますけど、来週からは水泳の授業が始まります。各自水着のサイズチェックをしといてください。もし合わなかった場合は購買の方に申請してください。新しい物が支給されます。」
「水泳かぁ。俺もまぁまぁ泳げる方だし、楽勝だな。」
「あ、イリアス君は今年が初めてだから知らないんですね。うちの水泳の授業はちょっと特殊で、水兵でも音をあげる、と揶揄されてるんですよ。」
「え…」
「正直私もサボれるものならサボりたいんですけど、補修の方が地獄ですからね。多分みんな同じ気持ちだと思いますよ。」
「なんでまたそんな…」
「陸上よりも水中の方が魔獣の脅威が大きいですからね。まぁ詳しいことは授業で教えてもらってください。」
カノンちゃんは既にチェック済みで少し小さかったらしく、帰る時に一緒に購買へ寄ることになった。フリージアちゃんとセレンちゃんも付き添うことになり、4人で購買へと向かった。
「ところでさ、なんで俺たちが何も覚えてないのかわかったか?」
「ううん、ぜーんぜん。学園長に聞いても『真犯人に会った心理的ショックで記憶を失ってるだけですよ。多分その内戻るはずです。』ってしか言わないしさー。」
「4人とも記憶喪失ってのも変な話だけど…」
「まぁ終わったことですし、気にしないでもいいじゃないですか。みんな自分が犯人かもって気を病んでたのが晴れたわけですし。」
それもそうだなと1人で納得していると、横から肩を叩かれた。その手の主は笑顔ではあるが低いトーンでこう言った。
「私だけのけものにしないでほしいわぁ。」
しばらく寂しい思いをしてたんだろうな、と勝手に解釈しておいたが、多分正解だろう。
他愛もない話をしている内に購買部に着いた。
「いらっしゃいマセー!oh!久しぶりデスねー!」
「アリサさん、久しぶり。水着の発注しに来たんだけどいいかな?」
「残念デスけど、ここには女の子用の水着しかありマセーん。今からサイズを測って作りマスので、奥の方まで来てもらってもいいデスかー?」
「そりゃそうか、俺が最初の男生徒だもんな。みんなちょっとここで待っててくれるか?」
「いいですよー。私たちも試着したりしなきゃいけないですし。」
アリサさんと購買部の奥まで行くと、そこは倉庫になっていた。あれ?もしかしてわざわざ外国まで発注しなくても、黒色火薬の材料くらいここにあったんじゃ…
「なぁ、アリサさん。ここに硫黄とか硝石とか置いてたりしないか?」
「それって前に学園長名義で発注があった品デスよね?どうしてイリアス君が知ってるんデス?」
「俺もその計画に加担してるんでね。」
「なるほどー。でも残念ながら、そんな"まとも"な物、ここには置いてないデース。ここにあるのは魔法関連の素材と掘り出し物、それと食料くらいデスねー。掘り出し物の中には古代の遺物なんかもあるんデスよー。」
ふと近くに置いてある木箱に目が止まった。中にはガラクタみたいなものばかり入っている。その中にうっすらと光る、石の塊みたいなものがあった。
「これも掘り出し物だったりするのか?」
「その中の物は売り物にならないからまとめてるだけデスよ。何か気になる物でも見つけましたか?」
「これとか… ぐっ!?」
石の塊に触れた途端、激しい頭痛と目眩に襲われた。まるで未来予知が起こってるみたいだ。
それが収まった時、俺は忘れていた大事なことを思い出していた。短い間だったとは言え、俺のメイドをしていたやつのことを。
「イリアス君?大丈夫デスか?」
「アリサさん、これ貰ってもいいか?」
「別に構わないデスけど… それに掛けられてる魔法は学園長にも解けマセんでしたよ?」
「ああ、それでもいい。俺が解いてみせるさ。」
俺の手には何かわからない文字が刻まれている石版が握られていた。
サイズも測り終わり、再び表へと戻ってきた。部屋の隅にあるカーテンだけの簡単な試着室の前でフリージアちゃんとセレンちゃんが待っていた。
「あらぁ、終わったのぉ?カノンはまだどのサイズにするか決めてないみたいよぉ?」
「あれ?イリアス君何持ってるの?」
「ああ、これか。掘り出し物ってところだな。」
シュメリアのことを覚えてるのは俺を含めても誰もいないみたいだし、本当のことを言うわけにはいかないな。
「フリーちゃーん、セレンちゃーん… 助けてくださいぃぃぃ… また小さすぎて脱げなくなりましたぁ…」
「あ、バカ!まだ開けるな!」
セレンちゃんの制止もむなしく、カーテンがバッと開かれた。胸のところで水着が引っ掛かって脱げなくなっているカノンちゃんが、俺に気がついてカーテンを再び閉めるまでの時間は思ったよりも長かった。




