感情の話
「イリアス=ガルディック、君は自分の生まれについてどこまで知っているんだい?」
「俺はガルディック家四男だってことに確証を持ってる。親父たちも何も言わなかったしな。」
「言わなかった、じゃなくて"言えなかった"だとしたらどうする?」
「どんな理由があろうと、俺はあの家の人間だ。もっとも、魔族の可能性もだいぶ濃厚になってはきてるけどな。」
やつの言葉のせいで頭がうまく働かねぇ… でも、この性質が魔族特有のものだとしたら…
「随分と辛そうだね。でもそれこそが君が魔族であることのあか…」
「死ね。」
「そう物騒な言葉を使ってはいけないよ。それに、突然どうしたんだい?…ああ、なるほど。君が何を考えたのか、当ててみようか。君は、僕が君にしているのと同じことをしようとした、そうだろう?」
学園長が呪詛って言ってたし、相手に殺意でも向ければいいのかと思ったが、そう簡単にはいかないみたいだ。それに、そもそもあいつからは敵意さえ感じられないしな。
「当たり、みたいだね。でも君は勘違いしてるよ。君の身体を蝕んでいるもの、それは憎悪や殺意のような負の感情じゃあない。何だと思う?それは"親しみ"だよ。」
「イリアス君、それは嘘です。騙されては…」
「嘘なんかじゃないさ。事実、君は僕から敵対心なんて感じていないだろう?魔族は親しみを持って接することで相手の心を溶かすんだ。学園長の腕の中で眠ってる彼女なんていい例だと思わないか?僕と同じクラスだったばかりに、あんなに自分を追い込んでしまって。とても滑稽だったよ。」
「じゃあ、俺も誰かと仲良くしたら…」
「それはその子を殺すも同然だね。それゆえ、僕たち魔族はお互いに仲良くしたりはしない。表立って人間と戦闘してる者たちの間にもチームワークなんてものは存在しない。あれはただ同じ、人間を滅亡させるっていう目的意識だけで動いてるだけさ。」
抑えないと、と頭では理解していても、どうしようもない負の感情に心を支配される。俺が今まで友達のためだと思ってやってきたことは全部… 全部間違いだったってことかよ…
「そんなことはありません!!」
ふと顔を上げると、そこには顔を真っ赤にして怒っているカノンちゃんの姿があった。こころなしか、俺の中の黒い霧が少しばかり晴れた気がした。
「カノンちゃん…」
「イリアス君とはまだ2ヶ月くらいの付き合いですけど!あなたから感じるような嫌な雰囲気、そんなのイリアス君から感じたことなんてありませんよ!」
「あたしも!あたしもそう思う!だってイリアス君はあのジェーン会長が認めるくらいすごい人なんだよ!そんなのがあんたみたいな人殺しと同じなわけないじゃん!」
「君たちがどんなに否定しようと、この事実を歪めることはできないんだよ。どうしてそれがわからないんだい?」
「じゃあ私たちがイリアス君のせいで嫌な気分になってるように見えますか?人の気持ちがわからないあなたがどう思ってるかは知りませんが、誰かを嫌な気持ちにさせるより、嬉しい気持ちにさせる方が大変なんですよ?」
「むしろ事実を認めないのはあんたの方じゃない。あたしはイリアス君が魔族だろうとなんだろうと知ったこっちゃない。一緒にいて楽しい、それだけで十分だもん。」
「まったく目障りな人たちだね…」
ニーナがそう言うと、突如ブチブチブチ… と嫌な音が響き渡った。右手を無理やり封印から引き剥がしたのかよ… グロいなんてもんじゃない、骨まで見えてる…
「最期に人間の1人くらい殺さないとね!」
ニーナの右手周辺に黒い刃がいくつも出現して… 俺たちの方へその切っ先を向けて飛んでくる!
「まずい!」
「そうはさせませんよ!」
学園長が一歩前に出ると、その周りに球状の薄い膜のようなものが展開された。黒い刃はその膜に当たった途端、一瞬だけ光を散らしながら融けるように消えていった。以前俺の魔法が直撃したのに傷一つ無かったのもこれか。
「またそれか… それも僕たちの犠牲の上に成り立っている代物なのだろう?」
「犠牲って何だよ。学園長の魔法がどうしてお前らを犠牲にしなきゃいけないんだ。」
「ああ、そうか。君たちはこれが魔法だと教えられてたんですね。失念していましたよ。」
「これ以上余計なことを喋られるのは少しまずいんですよね。あ、そうだ。イリアス君たちに本物の銃を見せてあげますよ。」
そう言うと、学園長は懐から黒いものを取り出した。金属っぽい質感のわりに光沢が全く無いな。
「そうか。僕もまた、科学の前に倒れるんだね。君たちからすればさしずめ、殉教者ってところか。」
「君の死は何にもなりません。ただの犬死にですよ。」
次の瞬間何が起こるかを悟った俺はカノンちゃんとミロクちゃんに対して目をつぶれ!と叫ぶことしかできなかった。サイレンサー付きなのか、ほとんど音は聞こえずに事は済んだ。
「赤い華が… 咲いた。」




