真犯人の話
「なぁ、今から犯人に会えるんだよな?」
「ええ、そうですよ。この子の心に巣食う闇も、彼女が原因ですからね。何とかさせましょう。」
"この子"という部分を強調するあたり、やっぱり俺に対抗心か何か持ってるみたいだなこいつは。まぁセレンちゃんが死なずに済んだのは学園長のおかげだし、抱き抱えるくらいで喜べるのならその役目は譲ってやろう。
「さぁみなさん、心の準備はできましたか?いよいよご対面ですよ。」
「ここって… 科学室じゃないですか。」
「先日の事件のことを聞いた時、おかしいと思ったんですよ。この密室で彼が殺された時、部屋にいたのは君たち4人。なのに君たちは犯人ではないということは、どこかに抜け道があるってことです。それを探るためにも僕はわざわざここで罠を貼って待ってたわけですよ。」
「罠って何なんだ?」
「彼女たちの狙いが、僕たちの研究成果だってことは気づいていました。だからこそ、イリアス君があの資料を届けてくれた時は本当に安心したんですよ。奪われたと思ってましたから。」
「でもあれ、椅子の下に落ちてただけだぞ?いくらあんたがガサツだと言っても、そんなに大事なものを見落とすはずないよな。」
「ガサツは余計です。それにはちゃんとした訳があるんですよ。あれが入っていた試験管には"透明化"の魔法が掛けられていました。」
透明化?俺には見えてたんだからそんなわけねぇだろ。何か隠してるのか?
「まぁその話はいいや。とにかくあんたは罠を貼って、犯人がここに来るように仕向けたってことだな?そして襲いかかってきた犯人を返り討ちにして拘束していると。」
「そこまで冷静なら大丈夫そうですね。では、お話し合いと行きましょうか。」
科学室の中にはこれまで感じたことの無いような異質な気配に満ち溢れていた。でも不思議と安心感があるな。どうやらこれは俺だけみたいだな。依然気絶したままのセレンちゃん以外は顔をしかめて嫌悪感を露わにしてるし。
「やぁ、学園長先生。随分と早いご帰還じゃあないか。用事はもう済んだのかい?」
「おかげさまで。君に会いたいって子を連れてきたんですよ。少し話しませんか?」
「なるほど、そういうことか。いいだろう。さあみんな、こっちへ来たまえよ。」
実験台の上に横たわっていたのは、四肢にそれぞれ術式を幾重にも掛けられて自由を奪われた一人の女だった。こいつどっかで見たこと… あ、確かC組のやつだったか。
「初めましてだね、イリアス君。」
「あんたC組の生徒だよな?」
「僕のことを知ってくれていたなんて、すごく光栄だよ。一応自己紹介をしとこうか。僕はニーナ=ジュラだよ。」
「あんたが… ガウス博士を殺したってのは本当なのか?そして学園長のことも…」
「嘘だ、と言ったら信じてくれるのかい?」
さっきは俺の疑念のせいでセレンちゃんを追い詰めてしまった。だからなるべくなら信じたいところだ。だが、心の底から信じることができるのか、と問われれば何も言えないと思う。俺にはわからないんだ… 何が正しくて、何が嘘なのか…
「無言、か。肯定とも否定とも取れるそれは人を一番傷つける。君はそんなことにも気づけていないのかい?」
「俺はそんなつもりじゃ…」
「彼女の言うことに耳を傾けてはいけません!君もセレンくんのようになりたいのですか!?」
セレンちゃんのように…?何言ってんだ、もっと俺にもわかりやすく言ってくれよ…
「そうか、呪詛の言葉も彼には特別効き目があるわけか… カノンくん、ミロクくん!しばらくの間イリアス君を抑えてくれませんか?もし暴れだしたりしたら股間を蹴ってやってください。いくら魔法で強化されてると言っても、しばらくは時間が稼げると思います。」
「「わかりました!!」」
おい、どうして俺を捕まえようとするんだ。やめろよ、やめてくれ。もしかして… この状況、はめられた?一番まずいのは俺?逃げなきゃ… 早く、脱出しなきゃ…
「アアアァァァ…」
「イリアス君!落ち着いてください!私たちはここにいますよ!そんなに離れようとしないでください!」
「イリアス君!あたしたちの声聞こえる!?何が起こってるのかわからないけど、とにかく大人しくしてて!」
何を言ってるのかもはやわからなかったが、とにかくミロクちゃんは叫び終わると、その足を振り上げた。それと同時に、俺の体を電流が突き抜けた。痛みで一瞬意識が飛びかけたぞちくしょう… でもそのおかげで少し落ち着いた… 声すら発せないから伝える手段はないわけだが…
「本当に滑稽なものだね。イリアス=ガルディックが僕らの同族だってのも真実みたいだし。それがわかっただけでも大きな収穫かな。」
「それ以上無駄なことを話すようなら、口を開けないようにした後頭から直接情報を抜き出しますよ?」
「おお、そりゃあ怖い。じゃあ、イリアス=ガルディックが会話に参加できるようになるまでは僕も口をつぐんでいようかな。」
10分ほどしてようやく喋れるくらいには回復した。予想以上にダメージを与えてしまったのか、ミロクちゃんはずっと平謝りしていた。
「すまない、もう大丈夫だ。」
「気にすることはありませんよ。君は僕たちと違って少し彼女の影響を受けやすいたちですからね。」
「その事なんだが、そいつも俺のことを同族とか言ってたよな。もしかしてそいつ…」
「ええ、君には少し酷な話かもしれませんが、彼女は魔族です。同じ先祖を持つ者同士、君は魔族から発せられるものに対しての感受性が僕たちよりもはるかに高いみたいです。さっきのは彼女がずっと放っている呪詛にあてられてしまったのでしょう。対象の懐疑心を増大させる… 恐ろしい呪術ですよ。」
やっぱりな。それにしても、以前ジェーン会長から聞かされていたとはいえ、学園長から改めて自分が魔族だと聞かされるとどうしても動揺してしまうな。自分の中では割り切ったつもりだったのに。
「さあ、尋問を開始しましょうか。さっきの問いかけを繰り返すようですが、ガウス博士を殺したのはあなたで間違いありませんね?」
「間違いないよ。僕がこの手で殺した。あの老害、さっさと資料を渡せば命まではとらなかったのに… いや、多分殺してたかな。」
「やはり残忍な性格ですね。では、彼を殺した後、あなたはどうしましたか?」
「さっさと退散しようと思ってた矢先に、そこにいる女の子がやってきてね。思わず透明化の魔法で隠れてしまったんだ。」
「きっと私が顔を洗いに行った時ですね。あの時私が気づいていれば… 博士は助かったかも…」
「カノンくん、自分を攻めてはいけませんよ。彼女みたいな輩はそこにつけ込んでくるんです。そして、あなたは透明化してどうしたんですか?」
「人がいなくなってからこっそり抜けるつもりだったのさ。でもいつまで経っても人が途切れることなく来てね。困った挙句、資料を透明化したまま置いておいて、後で誰かに取りに行かせることにしたんだ。まさかその後結界が貼られて中に入れなくなったばかりか、魔族には見えるようにしてたのが裏目に出るなんて思ってもみなかったよ。今となっちゃ、イリアス君にあの資料が見えた理由もはっきりしたわけだけど。」
「つまりあんたは透明だっただけで、ずっと俺たちと一緒にあの部屋にいた訳か。それにしても結界なんて貼ってあったのか?全然気づかなかったぞ。」
「あの鍵、魔導書を持つ者だけが科学室に入れるようにしておいたんですよ。案の定、今日それを解いた数分後にどこかの抜け道から彼女が侵入してきましたよ。」
「あの日のことはもう全部話したし、別なことでも話そうか。魔族の卵に教えたいことがたくさんあるんだよ。」
俺には知る義務がある。こいつが処罰を受ける前に洗いざらい吐いてもらわなければ。




