寮の話
カノンちゃんの悲鳴に俺と学園長は危うく気絶するところだった。
「な、なんでよりにもよってガルディック家の人が魔道士なんかに…」
「なんでと言われてもなっちまったんだからしょうがないだろう。そもそもうちはそんなに有名なのか?」
「有名なんてもんじゃないですよ!第一次大戦の頃から最前線で魔獣と戦ってる英雄の家じゃないですか!どんなに小さな子でも知ってることですよ!」
「まぁ俺はまだ実戦経験のないただの貴族のボンボンなんだけどな。」
俺の家ガルディック家は優れた剣士、それも対魔獣戦を得意とする者を多数輩出してきたらしい。確かに俺も剣は得意だった、が1人だけ、剣術所にはどうやっても勝てないやつがいた。
「まぁ話したいこともたくさんあるでしょうけど、とりあえず学園を一回りしてきたらどうですか?明日から授業が始まるので今日中に案内を済ませなければならないんですよ。」
「わかりました。じゃあ、イリアス君、行こう?」
俺はカノンちゃんと共に学長室を出た。閉まりかけた扉からチラッと見えた学園長の微笑みには思うところがあったが。
その後カノンちゃんに付いていろんなところを回った。訓練所の設備にも驚いたが、なぜか同じくらい充実していた音楽室にも驚いた。
「なんでこんなに楽器やら音響機器やらが整ってるんだ… こんなデカいピアノうちにもなかったぞ…」
「さあー?女の子しかいないからかもしれませんね。やっぱり男の子と違って運動部よりは文化部の方が活発ですしねー。」
「俺からしてみればこれだけの設備は嬉しいけどな。」
「イリアス君何か楽器弾くんですか?」
「ギターが少し、主にベースを弾いてるな。」
「おお!それはちょうどよかった!私がキーボードをしているバンドなんですけど、この前ベースの子が抜けちゃいましてね。もしよかったら一緒に…」
「別にいいよ。訓練に支障がでない程度なら。」
「やったぁ!他のメンバーはいつか時間がある時に紹介しますね。では、音楽室で全部回ったので一旦学長室に帰りましょうか。」
ということで場所は再び学長室。さっきと変わらず学園長は奥の椅子に座っている。
「おや、わりと早く終わりましたね。楽しかったですか?カノンちゃんと仲良くなれました?」
「あぁ、楽しかったよ。それに仲も… 良くなった気はする。」
「それはよかった。では入学記念に一つお願いを聞いてあげましょう。なんでもいいですよ。あ、永遠の命 とかはやめてくださいね。」
「そうだな… やっぱりその剣が無いと落ち着かないからな。返してもらおうか。」
「せっかくの機会なのにそんなことでいいんですか。まぁいいでしょう。緊急時以外は斬れないように術式はかけさせてもらいますよ。」
学園長はそう言うと机の下から俺の剣を引っ張りだし、何やら呪文を唱えはじめた。ちょっとの間剣は青いオーラに包まれていたが、すぐにそれは消えてしまった。
「はいどうぞ。質問等なければこれで今日の予定は終了です。では明日また会いましょう、今日は帰ってゆっくりしていてください。」
「帰れ… って俺はどこに行けばいいんだ?」
「あれ?カノンくんから聞いてないんですか?この学園は全寮制ですが、男子用はありません。君一人のために造るのもしゃくなのでカノンくんともう一人、計3人での相部屋です。」
女の子と相部屋… だと… 俺は顔をひきつらせながら後ろを振り向くと、顔を赤らめながら必死に目をそらそうとしているカノンちゃんの姿があった。
寮は校舎のすぐ裏手にあった。四階建ての校舎よりさらに大きい建物だ。学長室を出てからカノンちゃんとの間には気まずい空気が流れている。早くなんとかしないと…
「あ、えっと… 相部屋、なんだってね。改めてよろしく頼むよ。」
「え、あ、はい… 黙っててすみませんでした…私生まれつき魔力に覚醒していて、男の子と接する機会がほとんど無かったのに、急に一緒に暮らさないといけないことになって… なんというか、少しテンパってて…」
耳まで真っ赤にしているカノンちゃんは俯きながら少し歩を速めた。
「基本的に寮は3人一部屋なんですけど、人数の関係で私達だけ2人で一部屋だったんです。だから案内役も私に任されることになっちゃって。」
なるほど、と思っている間に寮の入口に着いた。近くで見るとよりいっそう大きく感じられるな。
一階には食堂や浴場など共同のものがあって、俺がこれから住む部屋は二階だった。
「多分もう一人は中にいるので紹介しますね。」
カノンちゃんはそう言うと部屋の扉を開いた。
「おっかえりー!転校生今度紹介してよ…って一緒に住むんだったな!」
声の主は部屋の中央であぐらをかいていた。褐色の肌で見るからに元気の良さそうな子だ。
「もう、リナったら!初対面の人の前でそんな女らしくない格好してちゃダメでしょ!」
「ごめんってばー。あ、転校生君!これからよろしくね!あたしはリナ=ハイラスだよ!」
「俺はイリアスだ。よろしくな。」
「ねぇ聞いて!イリアス君、ガルディック家の人なんだよ!すごくない!?」
目の前で楽しそうに話す彼女らを見て、俺はこのノリについて行かなきゃならんのか、と不安を感じた。