クラスマッチ-裏方の話
観客席は静まり返っている。闘いの場には剣を手にしている俺と会長の死体から溢れてきた血たまりだけが残っている。ジェーン会長の8年無敗伝説を打ち破った証として見物人の頭に印象つけるには些か刺激の強すぎる光景だ。
「なんと… あの生徒会長を倒して優勝したのは!あの『最強の盾』、イリアス=ガルディックです!」
最初に沈黙を破ったのは、このイベントの司会進行を担う報道部員、それに続いて観衆の間にもどよめき、ないしは歓声が巻き起こる。その中にひときわ盛り上がっている集団が。ああ、死んだら観客席に復活する仕様なのね、みんなこっち指さして何か言ってるけどまったくわからん。
「イリアス君、コロシアムの中央にどうぞ!今年の覇者、7-Aの大将には学園長より直々に賞品が送られます!」
また学園長か。もう俺けっこう貰ってるんだけどな。まーた望む物をあげますとか言うんだろうな。
「やっぱり君が勝ち残りましたか。入学当初から力はあったとは言え、まさかあの生徒会長に打ち勝つなんて思ってもみませんでしたよ。お世辞にも使いこなせてるとは言えない状態でしたしね。この三週間、いったい何をしたんですか?」
「いろいろあったんだよ。初参加で大将任されたり、謎の病気を治すためのワクチン作ったり、専属メイドができたり。」
「それはそれは、とても濃い体験ですね。それにしても君は本当に不思議な人ですよ。人間とは思えないほどの魔力を持ち、唯一の未来予知魔法を扱え、さらには関係者以上の科学の知識。しかもなかなかにカリスマ性があって女の子にもモテるだなんて。羨ま… けしからんです。」
「本音が漏れてるぞ。まぁあんたに拾われたおかげで全部わかったことなんだけどな。学園に来るまでは、剣を振るう以外には何も考えてなかったから。」
「別に僕が拾ったわけじゃありませんよ。魔道士として覚醒した人はみんなここに来るんです。
それはそうと、優勝記念です。望む物を何でもあげましょう。こんな機会滅多にないんですし、遠慮せずに、さあ!」
「滅多にない…? もう3か…」
「それ以上はいけません。」
「………わかったよ。じゃあ1つ、気になっていることを教えて欲しい。」
「はいはい、何でしょう。」
「あんたが臨時訓練場として用意してたあの空間、あれは一体何だ?」
学園長の目つきが一瞬鋭くなる。やっぱり何か隠してやがったか。
「それは… えーっと、学園長の素敵な魔法、ってところですかね。」
「嘘だ。そもそもあれは、魔法じゃない。」
今度は驚きすぎて目がまん丸になってる。わかりやすい奴だな。
周りの観衆もざわつきだす。俺らの会話が上手く飲み込めてないみたいだな。
「それは、どういうことです?魔法以外であんな巨大なもの作ることができますか?」
「『科学』だろう?」
さっきまで状況を掴めずおろおろしていた集団の中に、何人か事の重大さに気づいた奴が出てきたみたいだな。『科学』という単語に釣られて。
「学園長が科学を…?」
「私聞いたことあるわ。校舎のある場所には隠し部屋があって、中では秘密の実験が行われているって…」
「そうなの!?それってけっこうやばめ…」
あの科学室のことも完全には揉み消せなかったみたいだな。見たって言ってる奴けっこういるぞ。
「皆さん静かに!そのことについても全部、これからお話しましょう。それにしてもイリアス君、やってくれましたね。僕のこれまでの努力を…」
「確かに、科学を復興しようとするのは重罪だ。この国の人間なら誰でも知ってる事だ。だが、あんたはそもそも人間じゃない。なんで隠す必要があったんだ?」
「それは言えない。君が叶えてもらう願いはひとつ。君はそれを訓練場の謎に使ったんだ。」
「おいおい、話が違うぞ。あんたは今さっき"全部"話すって言ったばかりじゃないか。」
「うるさい。ひとつは教えてやると言ってるんだ、黙って聞けよ。」
はっきりと敵意をこちらに向けてるな。いつもの丁寧な口調もどっかいっちゃってさ。今ならこいつを倒すこともできるかもしれないが、復活の仕組みがよくわかっていないとはいえ、全部こいつが操れるのに変わりはない。もし負けたら本当に死ぬからな、ここは大人しくするべきか。
「教師が生徒に向かってそんな敵意を見せちゃまずいだろ。一旦落ち着いてさ、話してくれよ。」
「それも…そうですね。取り乱して申し訳ない。では、話しましょう。」
再び場が静まり返る。誰一人として喋っている者はいない。いつの間にか復活したジェーン会長が正面の席に座って神妙な面持ちをしているのが見える。
「君の言う通りです。あれは魔法ではなく科学技術を用いて作られています。」
「俺の知識が正しければあれは、"VR"とかいうやつだろう?」
「本当に何でも知ってますね。大正解です、あれはVR[バーチャルリアリティ]によって形成された仮想空間です。それにしてもいつから気づいていたんですか?」
「移動するための水晶体を初めて砕いた時かな。普通、転移魔法を使ったらその場に魔力の痕跡が残るんだ。前にエミ先生が出張に行くって言って使ったのを見たから間違いない。だが、あの水晶体には魔力は込められていなかった上、別なものを発してたんだ。電気をな。」
「なるほど、ご明察です。あれは移動魔法を使う際の媒体などではなく、単なるスイッチです。君たちが制服につけているバッジに個人を判別するためのデータを入力していますから、それで同じクラスの人間を識別して同じ空間に飛ばしていたんです。」
科学はすでに失われた技術。その仕組みについて知っているのはこの場で、いやこの世界で俺ら2人だけなのかもしれない。だから、生徒だけでなく教師陣さえも会話に置いていかれている。俺からしてみればなかなかおもしろい状況なのだが。
「このコロシアムも同じなのか?」
「いえ、ここにはちゃんと魔法が使ってあります。1回きりしか復活できない上、クールタイムが10ヵ月くらいある使い勝手の悪い魔法が。」
「なぁ、そもそもなんであんたは…」
「君の質問にはきちんと答えましたよ。これでおしまいです。さあみんな、閉会式です!まずは校歌を歌いましょう!」
「おい待てよ。まだ話は…」
学園長はニヤリと笑うと、一瞬にしてその場から姿を消した。俺一人が残されたコロシアムには少し遅れて始まった歌声だけが響き渡っていた。




