専属メイドの話
「ご主人、あたしはあんまり人に見られるのは好きじゃないのです。」
俺らはフリージアちゃんを筆頭とした野次馬集団に囲まれていた。
「イリアス君には申し訳ないんだけどぉ、この子にはちょーっと向こうに来てもらおうかしらぁ。少しお話がしたいのぉ。」
「お、俺は別に何も関係ないからな。ほら、さっさと行ってこいよ。」
「はぁ、めんどくさいけどご主人の命令ならしょうがないのです。」
静かに怒っているフリージアちゃんに手を引かれ、謎の少女は人混みから離れたところへ行ってしまった。
間違いなくあの石版が関係してるよな。そうだ!アリサさんに聞いてみれば何か… いや、あの人も何なのかよくわかってなかったしな…
「なんなんですかこの人混み… あれ?イリアス君じゃないですか。今日はカノンさんと一緒じゃないんですか?」
二人目のA組生徒はユキちゃんだ。
「ちょっと色々あってな… 話すと長くなりそうなんだが、実のところ俺もよくわかってない。」
「ふーん…?まぁよくわかりませんけどいいです。ほら、他のクラスメイトもやって来たみたいですし、君も準備運動でもしてたらどうです?」
ようやくA組の生徒が全員揃った、たったひとりを除いて。お話とやらをしているであろう2人は未だ戻ってきてない。
「ユキちゃん、フリーちゃんがまだ来てないんですよ。あの子がいないと大きな戦力ダウンですし、待った方がいいと思いますけど…」
「確かに彼女は大きな戦力ではあるわ。でも、本番の日に何らかの原因で抜けることがあるかもしれない。その時に誰か1人がいないと回らないなんて状況は避けなきゃいけないの。だから今いるメンバーで最善を尽くすっていうのも立派な訓練だと思うわ。」
「なら始めていいんだな?」
俺はポケットから例の水晶体を取り出し、いつでも始められるように構えた。
「それじゃあ今から訓練を開始するわ!気を引き締めていくわよ!みんな準備はい…」
「ちょっと待つのです!」
ユキちゃんの声をかき消した、聞き覚えがない声にみんな動揺している。まぁ俺はさっき聞いたばかりなんだけど。
「私たちも入らせてもらうわぁ。」
「フリージアさん…と、そっちの君は?見た感じ3年生くらいかしら?」
「君らの区分なんて知らないのです。あ、ご主人、あたしも一緒に連れて行ってもらわないと困るのです。」
「ご主人?イリアス君、この子と何か関わりがあるんですか?」
「いやー… 別に何も… ってかお前とフリージアちゃんと 、さっきまで険悪なムードだったのにいつ仲良くなったんだよ。」
「イリアス君はちょっとダメなくらいが一番いい、っていう意見で合意したあたりからかしらぁ。」
「訳わかんねぇよ… それに少なくともお前と俺には何の関係もないはずだぞ。」
「ご主人はあたしに開放感と快感を与えてくれたのです。すごーく感謝してるのです。」
「イリアス君こんな小さな子に何してるんですか!?私だってまだ手も繋いでないのに!!そ、そんな…ハレンチな!!」
「誤解だカノンちゃん!!俺はただこいつを石版から解き放っただけで…」
「石版から?どういうことか説明してもらえるかしら。クラス委員として危険なことはさせられないので。」
もう隠すのは諦めよう… 覚悟を決めた俺は洗いざらい全部話した。アリサさんから石版を貰ったこと、学園長でも無理だったのに俺が解放してしまったこと、俺のことを主人だと思ってること。
「なるほど、ことの次第は把握しました。ですがまだ謎が残っています。あなたは何者で、どういう経緯で石版に封印されたんですか?」
「ご主人以外の命令なんて聞くつもりはないのです。」
「それは俺も気になるな。話してくれないか?」
「ほんとは話したくないのです… でもご主人の命令なら… 聞くしかないのです。本当に聞きたいのですか…?」
やめろ、潤んだ瞳でこっちを見るな。俺がいじめてるみたいじゃないか。
「う… じゃあ、名前なんかを教えてくれればそれでいいや…」
「ありがとうなのです、ご主人!あたしの名前はシュメリアというのです。強いて言えばご主人の専属メイドなのです。」
「ちょっとイリアス君!?なんでそれだけしか聞かないんですか!私はもっと聞きたいことがあるんですよ、教えてください!」
「ご主人以外の命令なんて知らないのです。それと、カノン…とか言ったのです?君はご主人のことが好きなのです?」
「な、何をいきなり!そ、そんなわけないじゃないですか!だいたい私は…」
「あ、やっぱりあたしの勘違いだったみたいなのです。そんなに焦らなくても大丈夫なのです。」
耳まで真っ赤にしたカノンちゃんが怒りのあまり呪文を詠唱し始めた。
「おいバカやめ…」
精度こそ低いものの威力は申し分のない雷撃がいくつもシュメリアに向かって放たれた。奥の方には流れ弾が直撃して黒い煙をあげながら倒れている生徒が数人いる。
「はーっ…はーっ…」
「カノンちゃん…?お、落ち着いたか?」
カノンちゃんは魔力を使いすぎたのか気を失ったように倒れた。
「まったく、周りの被害も考えて… ってあの子は!?あんな小さな子に直撃してたらまずいわよ!?」
「いや、その心配は無さそうだぞ… ほら…」
俺が指さす先には傷一つなくピンピンしているシュメリアが立っていた。
「一途なのはいいことだけれど、直情型なのもどうかと思うのです。」
シュメリアは倒れているカノンちゃんに手をかざすと、そこから緑色の光が漏れだした。
「おい、何やってるんだ?」
「魔力をちょこっと分けてあげてるのです。」
こいつは別に悪いやつじゃないんだろうな。ただ、俺以外の言う事をまったく聞かないのと、他人をいじるところは大問題だが。
「ん… 」
「目が覚めたのです?これに懲りたらもう魔力を一気に使ったりしないでなのです。完全に枯渇してたら死んでたかもしれないのです。」
「なぁ、その魔力の受け渡しって誰でも出来るのか?それが出来れば俺の無駄になってる魔力も使い道が…」
「人間には無理なのです。まぁご主人の余った魔力はこれから毎日あたしが食べるので問題ないのです。」
「魔力を食べる?」
「あ、今のは聞かなかったことにしてほしいのです。そこに言及したらいくらご主人といえども少しお仕置きを受けてもらわなきゃなのです。」
怪しげな笑みを浮かべたシュメリアを見て、これ以上彼女のことを聞くのはやめよう、と誰もが思った。




