貰い物の話
あの謎の病気の一件のせいで、俺の噂には新たにこんな情報が付け加えられた。『前世の記憶がある、それも失われた技術である【科学】の。』
「またこんなところでぼーっとして!せっかくの昼休みなんですしもっと有意義に使いましょうよ!」
カノンちゃんも感染して、息も絶え絶えになっていたが、どうにかワクチンが間に合ったようだな。あれからさらに一週間が経った今では、前みたいに元気な笑顔を見せてくれる。
「昼休みだからこそ休んでるんだよ。クラスマッチまであと一週間だから、朝練だけじゃなくて夕練も始まったしさ。魔力が有り余ってても体力はどうにもなんないしな。」
「魔力の枯渇で死ぬ危険性が少ない分いいじゃないですか。それに私がまだ大丈夫なのにイリアス君に疲れたなんて言わせませんよ?」
「どんな理論だよ… で、昼休みが終わるまであと15分あるわけだが、何かするのか?」
「そうですね… 売店に何か新商品でも入ってないか見に行きましょうか。」
そういえば売店に来るのは初めてだな。生活に必要な物は家から送られてくるし、特に別途で必要な物も無いしな。
「いらっしゃいマセー!メイアイヘルプユー?」
「あ、アリサさん、こんにちはー。何か新商品はありませんか?」
「うーん、そうデスねー。この媚薬なんてどうデスか?『どんな女でもイチコロ!』ってキャッチフレーズがついてマスよ?うん?横のボーイはもしかして…」
「噂で知られているってのは妙な気分だな。まぁいいや。俺はイリアス、よろしく頼む。」
「オー!あの有名な転校生君が売店に来てくれるなんて!凄く嬉しいデス!私はアリサ=マーガレットね!ナイストゥーミーチュー!」
「アリサさんは学生…じゃないんだよな?」
「もうそんなこと言える歳じゃないデスよー!今年で25になるおばちゃんデス!」
「まだ十分若いじゃないか。ところで、その喋り方… 一体どこから来たんだ?」
「私はメリカ共和国から来たのデス!向こうの魔法学園にいる時にここの学園長と知り合いったんデス。そして、卒業後にこっちに来るよう誘われマシて…」
「それでなんで売店の売り子なんかやってるんだ?魔道士なんだろ?」
「本業は8年生の試験官デス。昼休みだけここのお手伝いしてるんデスよ。」
「なぁカノンちゃん、試験官って何するんだ?」
「その名の通り定期テストや卒業試験の監督役です。魔道士としての訓練期間も浅い1年生ならまだしも、魔力も相当なものになる8年生の試験官なんてすごいことなんですよ。一度に何人も相手しますからね。」
「確かにそれはすごいな。」
「お世辞が上手デスねー。お礼に一ついい物をあげマース!」
そう言うとアリサさんは店の奥へと消えていった。いい物って一体なんだろうか?
しばらくカノンちゃんの買い物に付き合って色々見ていると、アリサさんが戻ってきた。
「これデス。はいどうぞ。」
渡されたのは掌サイズの石版だ。何か文字が刻まれている。
「なんだこれ?」
「それは中に何かが封じ込められた石版なのデス。大量の魔力を注ぎ込めば封印を解くとこができるらしいのデスが、学園長でさえ無理デシた。もしかしてイリアス君なら… と思ったんデスが、どうデスかね?」
「そんな得体の知れないものの封印を解いていいのかよ?それに学園長でも無理なのに俺にできるのか?」
「封印を解く魔力があるということは再び封印する魔力があるということデス。もしやばかったらもう一回封印しなおしてください。」
「無茶なこと言うなよ…」
そうは言ってみたものの興味が無いわけでもない。放課後挑戦してみるか…
夕練が始まる前に、と思って1人で先にコロシアムに来た。もちろんカノンちゃんには内緒で。何かが本当にヤバいものだったら大変だからな。
「アル=ニハトロク カムハテシノア」
アリサさんが言うにはこの呪文を唱えながら全身の魔力を手に集中させる感じでいいらしいが、はたして…
何度目かの挑戦で石版が光り始めた。ヒビも入ってきている。あれ?これ本当にヤバいやつじゃ…
まさか爆散するとは思ってなかった…ケガが無かったからいいけど、もし他に人がいたら…
「ご主人、タラレバの話はよすのです。」
爆発のせいでえぐれたコロシアムの床の上には白黒の使用人服を着た、10歳くらいの少女が立っていた。
「お前は…誰だ?いや、あの石版の中にいたやつとしか考えられないか。」
「それを解き放ったあなただからご主人と呼んでいるのです。その程度も理解出来ないのですか?」
「どう見ても子どもなのに言う事はキツイな…」
その時、他の生徒の声が聞こえてきた。どこのクラスかはわからないが、夕練のために来たのだろう。
「まずい!とりあえず隠れろ!」
「何がまずいのですか?まぁ命令とあらば従うしかないのです。」
すると少女の体が浮き始めた。そしてコロシアムの天井へと到達すると、梁の部分に身を隠す。
「あらぁ?イリアス君、いないと思ったらこんなところにいたのねぇ。それにしてもこの穴、何をしたらこうなるのぉ?」
A組で最初に姿を現したのはフリージアちゃんだ。ヤバい、穴を隠すの忘れてた。
「あ、これ!?いやー、魔法の練習してたら失敗しちゃってさ!アハハ…」
「何を隠してるのかしらぁ。まぁいいけどぉ。」
自分でも嘘をつくのが上手いと思ったことは無かったが、ここまで下手だと若干ショックだ。
「と、ところで他のみんなは?もうすぐ夕練の時間だろう?」
「もうすぐ来るからしばらく待って…あらぁ!」
喋ってる途中でいきなりどうしたんだろうか?何を見てそんなに目をキラキラさせて…
「ご主人、あたしをいつまであんなところに置いておくつもりだったのです。」
なんでこいつ勝手に降りてきてるんだよ… 人に見られたらまずいから隠れろって言ったのに…
「見られても問題ないのです。あたしはいつも身なりには気をつけてるのです。」
「イリアス君?こんな小さな子に『ご主人』なんて呼ばせる趣味があったんですねぇ。」
「誤解だ!!なんでこんな面倒なことに…」




