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科学の話

五日目も今までと同じように終わり、寮の部屋へと帰った。するといつもなら聞こえてくるはずの、リナちゃんのおかえりー!という声が聞こえてこない。


「あれ?リナったらどこかへ出かけてるのかな?」


どうやらカノンちゃんも変に思ったみたいだ。中へ入るとリナちゃんはリビングで寝ていた。


「どうしたの!?気分でも悪い!?」


すると目を覚ましたリナちゃんがゴホゴホと咳き込みながら体を起こした。


「あーごめん。風邪ひいちゃったみたいで… しばらくは離れて寝るね。」


「それならリナちゃんが布団で寝たほうがいいよ。俺がリビングで寝るから。」


「ごめんね… そうさせてもらうよ…」


リナちゃんはバレないように隠していたが、俺には口元を押さえた手のひらに血がべっとりと付いているのが見えた。ゴホゴホと咳き込みながら辛そうに歩くリナちゃんの姿を見ている内に、俺の意識は暗転した。




気づくと部屋の前に立っていた。廊下の時計に映る日付はちょうど一週間後の午後5時半。嫌な予感がする。中に入るとカノンちゃんが泣き叫ぶのが聞こえてきた。


「リナ!リナ!目を… 覚まして…」


そこには口から大量の血を流して倒れているリナちゃんとそれを抱き抱えて泣いているカノンちゃんがいた。泣いているせいと言うには不自然なほどに咳き込みながら。




「イリアス君?大丈夫ですか?もしかしたらイリアス君にも風邪がうつったんじゃ…」


「ああ、いや大丈夫だ。ちょっと俺急用を思いだしちゃってさ!ちょっと出かけてくるよ!」


俺はカノンちゃんが後ろで何か言ってるのを無視してある場所へと急いだ。学長室だ。

着くとすぐに扉をノックする。頼む…居てくれ… 中から物音が聞こえてきて扉が開いた。


「おや、イリアス君。そんなに急いでどうしましたか?」


「学園長、授業初日に俺に未来予知があるかもしれないって言ったよな。あの後どうなった?バケツは落ちてきたか?」


「ああ!忘れてました!そうそう、本当にバケツが落ちてきたんです。水の入ったやつが。前もって忠告してくれて助かりましたよ。頭から被るのだけは避けられました。」


バケツは降ってきたが当たりはしなかった…?つまりは… 未来は変えられるってことか!


「学園長!一つだけ俺の頼みを聞いてくれ!もう時間が無いんだ!」


「そんなに切羽詰まって一体どうしたんですか?」


「あの科学室、俺にも使わせてくれないか!?」


「それは聞くことの出来ない頼みですね。科学の知識の無いものに使わせるには少々が危険が伴いますからね。」


「知識があればいいんだな!?今すぐにでも証明してやるよ!」


そう言うと俺は学長室に入り、手近にあった紙とペンでいくつも文字列を書いた。俺の、いや、前世の俺の記憶では『化学式』と呼ばれていたものだ。


「ほう… ここまでの知識、ちょっとやそっとで身につけられるものではありませんね。どこで知ったんですか?その返答次第では科学室の使用許可を与えないこともありませんよ?」


「前世の記憶だ!」


「ふふ… おもしろい。いいでしょう、好きに使ってください。扉のあるところにこの魔導書を押し付ければ扉が開きます。中に入ったら同じことをして鍵をかけておいてください。でないと僕みたいにおこられちゃいますからね。ところで、何をするつもりなのか聞いてもいいですか?」


「ワクチン精製だ!一週間後にある生徒が死ぬ。他にも感染しているみたいだ。」


「なるほど。その光景が未来予知で見えたんですね。その魔力といい、自称前世の記憶といい、本当に君は興味深い人ですね。」


聞き終わる前に俺は学園長の手から魔導書を取り、科学室の方へと走った。




一昨日見つけた、科学室へと続く扉があったところについた。この魔導書を押し付けると… おお!本当に扉が現れた。中へ入り階段を駆け上がる。


「おお、今日は随分と急いでおるな。何か急ぎの用事でも… おや?君は一昨日ここに来た生徒さんじゃないか。どうやって入ったんだ?」


「学園長にここの使用許可は取ってある。ワクチンを精製する必要があるんだ。ここにある器具を貸してほしい。」


「そういうことなら好きに使ってくれて構わんよ。ただし、壊したりするなよ?怒られるのはわしなんだからな。」


俺は前世の記憶を頼りに必要な器具を集めた。なぜ学園長はこんなにも実験道具や薬品を所持しているのだろうか?これは確か… 遠心分離機か?まぁそれについて考えるのは後回しだ。タイムリミットは一週間しかないんだ。どうにかなるだろうか… いやどうにかしなきゃいけないんだ。




未来予知で見たリナちゃんの容態。それにあの時点で既にカノンちゃんにも感染していたことからわかる感染力の強さ。俺には一つ、病気の心当たりがあった。あれはおそらく肺ペストだろう。ペスト菌の感染ルートはわからないが、ワクチンさえ作ってしまえば対処はだいぶ楽になるだろう。それからは授業が終わるとすぐに科学室へと向かい、ワクチン精製に没頭した。もちろんみんなには秘密にして。

作り始めて三日目にしてようやく試作品が完成した。あらゆる箇所の土からやっとの思いで見つけた放線菌から単離したストレプトマイシンだ。すでにリナちゃんは授業を受ける体力もないほどに憔悴している。看病しているカノンちゃんも疲れの色が濃くなったきた。早く持って行かないと… と思った時、未来予知が発動した。




今回は寮の部屋にいる。リナちゃんが寝ているところへ行くと、俺とカノンちゃんがリナちゃんの手を取り叫んでいる。


「リナ!死なないで!戻ってきてよ…」


「なんで… 薬は完全じゃなかったのか…」


どうやら未来予知は未来を見るだけらしい。事実、俺の目の前には冷たくなったリナちゃんの手を取り後悔の言葉を呟いている俺がいる。それにしても… 試作品は失敗みたいだな。時計は今日の日付を指しているし、ワクチンが原因でリナちゃんは死んだらしい。




戻ってくると俺はワクチンの研究を再開した。ストレプトマイシンは腎臓に毒性を持つ。試作品は強すぎる効果故に腎障害を引き起こしたのだろう。効果を抑えつつも即効性を無くすわけにはいかず、俺は奮闘した。

二日後、ワクチンは完成した。もう期限は残されていない。そんな不安に駆られながら寮へと向かった。今度は未来予知は発動しなかったし、もう信じるしかない。


「リナちゃん!ワクチンができたぞ!」


「本当ですか!?それにしてもどうやって… いや、今はそんなことを気にしてる場合じゃありませんね。早くリナを、助けてください!」


俺は完成したばかりのワクチンをリナちゃんに注射した。一瞬呼吸が止まったかのように見えたが、すぐに落ち着きを取り戻した。その安らかな寝顔を見て俺も安堵した。


「リナは助かるんですよね…?」


「多分もう大丈夫だと思う。あと、カノンちゃんにも感染しているかもしれない、念のためこれを打っておこう。」


「本当に…ありがとうございます!どんなに感謝しても足りないくらいですよ!」




二日後、リナちゃんの容態は急速に快方へと向かっていた。感染が疑われる人全員にもワクチンを打っておいたので、死者は1人も出なかった。新たな感染者が出る前にノミ駆除を依頼しておかないとな。


「ごめんね、クラスマッチ前の大事な時に。ワクチン作ってくれたんでしょ?」


「気にするなって。それにクラスマッチよりもリナちゃんの方が大事に決まってるだろ?」


リナちゃんの顔が赤くなっている。まだ少し熱があるのかもしれないな。


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