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初登校の話

ーーーーーごめんな… 俺、またダメだったみたいだ… もう見たくない。眠りたい。深く…深く…

そうつぶやくと俺は、蝋人形のようになった彼女の手を離して目を閉ざした。




今春から通う『ムセイオン魔道学園』の門を前にして、俺は生まれた時から握ってきた愛剣の柄に手をかけた。まぁ今となっては無用の長物に過ぎないけど。門をくぐったところで少年が急げというサインを送っている。


「早く入ってください!ただでさえ君は注目されてるってのに、そんなにもたついてたら今に群衆に取り囲まれ… ってもう向こうからマスコミ集団が走ってきてるじゃないですか!捕まる前に校内に逃げ込みますよ!ほら走って!」


少年にグイッと手を引っ張られ、半ば引きずられる形で俺は校内へと連れ込まれた。

玄関の大きな扉が閉まりカギのかかる音がすると、すんでのところで入れなかったマスコミの嘆きが聞こえてくる。


「ここで立ち話もなんですし、とりあえず学長室にでも行きましょうか。あ、その剣は預からせてください。まぁ別に持ってても大した使い道は無いんですけどね。」


俺は少年に合わせて歩き始めた。廊下は突き当たりが見えないほど長く、左右にはいくつも扉が連なっている。多分教室か何かだろう。


「ひとつ… 質問してもいいか?」


「他人に聞かれても問題ないような質問なら歩きながら答えますよ。ちょっと厳しそうなら学長室に着いて2人きりになってから答えます。」


「ここにゾフっていう男が入学してないか?俺と一緒に覚醒したらしいんだが…」


「ああ、君のお友達ですね。ちゃんと手続きは済ませてありますよ。ただ… 君と違って怪我の程度が重くてね。まだ入院中だからここに来るのはしばらく先になりそうですね。」


「そうか… あいつは相当に剣の腕が立つからな。ちゃんと元通り治るといいが…」




学長室にたどり着くまでにいったいいくつの扉と廊下を経由してきたことか… 休日だからだろうかその間にすれ違った生徒は4人だけだった。


「さーて、君にも聞きたいことはいっぱいあると思いますが!まずは世間話でもしましょうか。さっきすれ違った4人の女の子の内の2人目の子、覚えてますか?」


「…?あ、あぁ… 確かかわいらしい感じの子だったな。多分だけど…」


「そうそう。その子が僕の推しメン。」


「自分の生徒をアイドルみたいに扱ってんじゃねぇよ。このエロガキ。」


「まぁまぁ、そんなこと言わないで。君も知ってのとおり男性が魔道士に覚醒した事例は人類史上初めてのことです。ということはこの学園には君以外男子生徒はいない… いわゆるハーレムってやつなんですよ」


ハーレムというのはさておき、男が他にいないというのは本当だ。魔道士に覚醒するのは女だけ、それがこの世界の常識だった。理由としては筋力では男に劣るためそれ以外の自衛手段が必要だからというのが有力視されているが、実際のところよくわかっていない。


「でもあんただって男なのに魔法使ってるだろ?じゃなきゃそんな歳で学園長なんてやれないよな?」


「いえ、僕は人間じゃなくて精霊なんでそもそも性別とか無いんですよ。この見た目が好きなだけです。」


「あっそう… じゃあ俺は唯一の男魔道士としてこれからマスコミに追われ続けなきゃいけないわけだ。」


「まぁ学園には一般人は基本的に入れませんから、全国放送されたりはないと思いますよ。」


「えっ、でもさっきたくさんいたじゃねぇか。」


「あれは新聞部と放送部です。君がここに始めてくる日は極秘にしてたつもりだったんですけどね… あの子らには何故か筒抜けなんですよ。」


それでいいのかとツッコミを入れようとした時、隣の部屋に続く扉が開き若い女の先生がトレイにティーカップを乗せて入ってきた。


「お、エミ先生じゃないですか。ちょうどいいところに。」


「えへへ、この子が来るって聞いてお茶を出すついでにどんな子か見に来ようと。」


「君の担任になるエミ先生だよ。何か困ったことがあったら彼女に相談するんだよ。」


「よろしくお願いします。魔法のことは全然知らないのでお世話になります。」


「あ!そんなにかしこまらなくてもいいのよ?ここじゃ生徒も先生もかなりフレンドリーだから敬語もいらないし。学園長なんて合法ショタって呼ばれてるからねぇ。」


「え!?なんですかその呼び方!!初耳ですよ!?」


「じゃあエミ先生、よろしく。」


「もうちょっとしたら君の案内役をやってもらう子が来るからしばらく待っててね。」


そう言うとエミ先生は空のトレイを脇に部屋を出て行った。


「どう?エミ先生かなり胸大きいでしょ?」


「セクハラで訴えんぞ合法ショタ。」


「君までその呼び方をしなくてもいいじゃないか!それに僕に対しては初めからタメ口だったのにエミ先生にはしっかり敬語だなんて…」


わあわあ言い合っている俺たちに、部屋に入ってきた来訪者の 失礼します という声は届いていなかった。


「あのー… 学園長…?」


突然聞こえてきた第三者の声には少し驚いた。学園長もそうみたいで言い合いも止まり、俺は顔だけで後ろを振り返った。茶髪に金色のカチューシャがよく似合う女の子が立っていた。


「君がこの子の案内役だね。確か…」


「2年E組のカノン=ロザリアです。」


「そうそう、カノンくんだ。ほら、次は君の番だよ。自己紹介して。」


「君さっきすれ違ったよね?ここに来る途中で。」


「あ、はい。さっき一度ここに来て誰もいなかったので一旦自分の教室に戻ってたんですよ。」


俺は自分の名前を言おうとそちらへ体ごと向き直った。目と目が合い彼女のダークブラウンの瞳が見えた途端、俺は激しい頭痛に襲われた。思わず目頭を押さえると、頭には別の景色が浮かんでいた。燃え盛る炎の中瓦礫に囲まれて… ここは学長室か?俺は誰かの手を握っている。手のひらから肘へ、肘から肩へとゆっくり目を移していくと、顔が見えた。さっき自己紹介してくれたカノンちゃんだ。目は虚ろで顔からは生気を感じられない。気がつくと周りには打ち捨てられた人形のようなものがたくさん… 死屍累々だ。




「だ、大丈夫ですか…?」


その声でハッとすると、カノンちゃんが心配そうに俺の顔をのぞき込んでいる。


「あ、あぁ… 大丈夫だ。ちょっと頭痛がしただけ…」


「魔力が覚醒したばかりだからね。君の身体にもだいぶ負担がかかってるんだと思うよ。」


「体調が悪くなったらいつでも言ってくださいね?改めて、案内役のカノン=ロザリアです。よろしくお願いします!えっと…」


「あー、俺はイリアス=ガルディックだ。これからよろしくな。」


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