どうも魔王様、ターン制RPGから来ました。
おっす、おら魔王。
……冗談はさておき、俺の名は魔王サタン。
一応、転生者で、元々は普通の高校生だったんだけれど、今や魔王だなんて呼ばれて、100年ほど経っている。
流石に時間が経ちすぎて、もう元の名前も覚えていない。元の家族のこととかもあんまり思い出せない。今は四天王とかが周りにいるから寂しいわけではないが。
まぁ俺のことはさておき、今は目の前の事態に対処しなければならない。
俺の目の前には、勇者だという男。
魔法使いのような見た目の女。
いかにもなプリーストの女が横並びに立っている。
順番は、左から、魔法使い、勇者、プリーストだ。
100年も魔王をやってはいたけれど、勇者なんてのが目の前に来たのは初めてだ。
だからこそ、今まで言えなかった、魔王っぽいセリフを、今こそ言うべき!俺の厨二心が疼き回る。
「ふははははは!よく来たな勇者よ!この我を倒せるかな!?」
「世界の平和のために!お前を倒す!覚悟しろ!魔王サタン!」
そう啖呵を切った勇者の攻撃を俺は待った。
俺は戦いには慎重なのだ。相手の出方を伺って、それからどうするを決めるのが俺の戦闘スタイルだ。
だから俺は勇者のチームの攻撃を待った。
目の前の勇者パーティ3人の足元にそれぞれ魔法陣が展開される。
勇者は攻撃で、魔法使いが補助、プリーストはやっぱり回復用の魔法だろうか。
冷静に分析をして、勇者たちの出方を伺った。
ーーーーーー
30分ぐらいたったか。
何故か攻撃してこない。なんで?なにしてんの?
俺だって、ただ立ってるだけなんだけど。いや、攻撃すれば防御とかはするけどさ。
こいつらやる気あんの?……おい魔法使い、欠伸してんじゃねーぞ。俺今見てたからな。
勇者はすげーな。ずっとキリッっとした顔維持してる。疲れないのだろうかあれ。
プリーストは、なんか「ねぇ、まだ?」みたいな顔してる。俺の好みの顔なので、かわいい。
え、俺が悪いの?俺が攻撃しないのが悪いの?
だって別に、ゲームじゃないんだから、ターン制とかじゃないよね?剣と魔法の世界だが、俺にとってはもはや現実そのものなのだから。
素早さが高い順に攻撃して、順番に処理していく、とかじゃないよね。
……なんか嫌な予感がする。
「……なぁ、勇者よ」
「どうした魔王!かかってこい!」
「……どうして攻撃しない」
「だって、魔王が1番素早さが高いから、魔王が動かないと順番回ってこないし。魔王、魔法使い、俺、プリーストの順番な」
あ、あほか!
それでずっと待ってたのか!教えてくれるってのもアホなのかと!
それで30分待つってどうなんだよ!いや、全面的に悪いのは俺なんだけれど!いやいや、俺が悪いわけでもないだろうけど!
「そ、そうか。なんか、すまんな。じゃあ、今から攻撃するから」
「おう、頼むわ」
……コントか!
魔王対勇者って決戦なんだよな!?
ていうか勇者めっちゃ偉そうな物言いだったな!なんかはらたつわ!
俺は魔法で攻撃するべく、魔法陣を展開する。
「では喰らえ!闇爆炎!
そこそこ強い魔法を、プリーストに打ち込んだ。
回復職から潰すのは基本だろ?
だけれど、わざと大振りに魔法を放ち、回避できるようなスピードで魔法を放った。
これなら、しっかりと躱して、どういう行動をとるか見ることができるだろう。
「……あ」
「えっ?」
「……うそ」
ゴオッっと黒炎がプリーストを包み込み、悲鳴をあげる暇もなく、プリーストが、死んだ。燃え尽きて、身体も骨も、灰も残さずに死んだ。
いやいやいやいやいやいや。
ちょっとまってちょっとまって。
誰が悪いかと言われれば俺が悪いんだけど、人間を殺すことに良心の呵責を感じるとかはもうないんだけれど。
「躱せよ!」
思わずツッコミを入れてしまった。
だってそうじゃないか!あんな見え見えの攻撃、躱すと思うじゃん!?
おい勇者、なんで悔しそうな顔してるんだよ。「お前の仇は必ず……!」じゃねーから。
魔法使いは冷静にしてんな。なんでもう勇者に支援魔法使い終わって仕事終わりみたいな顔してるんですかね。
だがしかし、これで勇者の番だ。実力の程はいかものか、測ってやろう。
「くらえ!プリーストの仇!聖剣斬!!」
勇者がこれでもかと厨二くさいーー人のことは言えないーー必殺技の名前を叫び、一撃を俺に向かって放つ。
こ、これは、結構なダメージをもらうに違いない。
俺は咄嗟に腕をクロスさせてガードするも、
miss!
という文字が頭の上に出てきて、勇者の攻撃は明後日の方向へ飛んで行った。
「……」
「……ぅわ」
ポカンとした顔の勇者。
うわこいつやったよという顔で勇者を見る魔法使い。
俺も、どうしていいかわからん。
「な、なぁ、これ、俺攻撃していいのか……?」
魔王のキャラも忘れて、素のトーンで勇者に聞く俺。
勇者は無言でコクリと頷いた。
お互い無言で立っているわけにもいかず、俺は魔法を勇者に放った。
勇者もまた、灰も残さずに散ってい
魔法使いは、冷静になにかの魔法を放った。俺に傷はなかった。
「あの……逃げてもいいんだよ……?」
忍びなさすぎて、俺は魔法使いに提案した。
「いや、いい。教会で、プリーストも含めてみんな生き返れるから。勇者の加護を受けていると、そうなる」
「あ、そうなんだ……」
俺は、魔法使いに魔法を放った。魔法使いは死んだ。
ーーーーーー
あの悲しい出来事から1週間ぐらいだろうか。
俺はあの日以来、胸の中にもやもやが募っていた。
いくら勇者と魔王は敵対しているとはいえ、あれはない。と思う。
部下たちに勇者の動向を探らせているものの、送った部下が帰ってこない。
勇者にやられて帰ってこないとかだと、それはそれで安心できるーーいや、安心していいのか?ーーのだけれど、せめて勇者がどこにいるのかだけでも……
「魔王ー!今度こそ覚悟しろー!」
聞き覚えのある声が、聞こえる。
あの勇敢だけど、どこか間の抜けた声は……
「うおおおおお!待ちわびたぞ勇者よ!」
俺はめちゃめちゃ喜んだ。魔法使いの話は嘘じゃなかった。
勇者の横に、魔法使いもプリーストもいた。
みんな生き返っていた。
あのまま死んでたら目覚めが悪すぎるよ。よかったよかった。
「お、おう。なんか元気だな、魔王」
勇者は俺の態度に引いていた。
魔法使いは呆れていた。
プリーストは……え、どういう表情なの。なにか期待している目でこっちを見ている。
「と、とりあえずかかってこい!残念だが、お前が一番最初だ!」
前回の反省を生かして、今度は俺からだということを教えてくれた。優しいなぁ、勇者は。
俺は色々嬉しさのあまり、前回と同じように、プリーストに向かって、
腕を振り下ろした。俺の巨大なその豪腕を振り下ろした。
プリーストはプチっと潰れて死んだ。
「うわ、グロ……」
「せっかく行ってないダンジョン行って闇魔法大軽減の首飾り手に入れてきたのに物理とか……」
魔法使いがドン引きしている。
勇者は落ち込んでいた。
「いや、俺もテンション上がっちゃって、ごめんな?」
つい謝ってしまった。
実に締まらない決戦だ。
謝っている間に、魔法使いは勇者に支援魔法をかけ終わる。相変わらずクールで仕事早いね。
「うおおお!くらえええええ!」
今度こそ勇者の攻撃が俺に当たる。
うおおお、結構いてぇ!タンスの角に小指ぶつけた時ぐらい痛い!
「えぇ、HPが3分の1ぐらいしか減ってない……」
勇者がそう呟いた。
どうやら勇者には俺のHPとかまで見えているらしい。
とりあえず俺のターンなので勇者をプチっと潰しておいた。ミンチだった。
魔法使いがおざなりに魔法を放ってきた。子どもに小石を投げられたみたいな痛みだ。
「ねぇ、なんでこんなターン制になってんの?」
俺は魔法使いに聞いた。
「勇者の加護の力。勇者と戦う者は、その加護の力で、順番にしか行動できなくなる」
「へぇ、ありがとう」
そう魔法使いにお礼を言ってから、他の2人と同じく潰した。
前回と違って、血が飛び散って掃除が大変だった。
ーーーーーー
それから大体1週間おきに勇者パーティは来るようになった。
多いときは3日連続とかで来るときもあったけれど、とにかく結構な頻度で来るようになっていた。
だんだんと勇者とも話すようになっていた。
「うーす、魔王きたぞー」
「おっす勇者。すまんが、今お茶を入れてしまってな。よかったらお前らもどうだ」
今では戦闘前に一緒にお茶をしあう仲だ。
……いいのかそれで。
ちなみに勇者たちの名前は知らない。だから勇者、とかで呼んでる。向こうは俺の名前を知っているけれど、俺に合わせて魔王と呼ぶようになった。
殺しあう仲なのだから、それぐらいがいいのかもしれない。
「そんなことより、はやく、はやく」
プリーストは戦闘をやる気満々だったが、せっかくお茶菓子作ったんだけどなぁ。……毎回あの期待するような恍惚な表情だけはやめてほしいものだ。
っておい魔法使いばくばく食うな俺の分がなくなる。
「じゃあやるか」
お茶を飲み、菓子を食べ、いつものように順番に並んだ。
俺を目の前にして、左から、勇者、魔法使い、プリーストの順番に並ぶ。
勇者がステータスを確認して順番を見る。
最初の時から見ても、勇者たちのレベルはかなり上昇した。タンスの角に指をぶつけたような威力の攻撃も、今ではそれに加えて脛もぶつけたような威力にまで上がっている。
が、素早さはまだ俺の方が上だ。
そんなわけで俺のターンから。
「ふははは!我が魔法を喰らえ!」
「……今更その取って付けたキャラ恥ずかしくないの……」
うるせぇよ魔法使い!
今のは魔王様カチンときました。全体攻撃魔法に切り替えます。
いつもよりも大量に魔力を練って、大きな魔法陣を展開する。
調節を間違えれば、魔王城すら破壊しかねない、特大の黒炎が勇者たち3人に襲いかかる。
「え、ちょ」
「いや、ごめ」
「うふ、かいか……」
勇者パーティは今日も全滅した。
また、来週遊びにこいよなー。