第九話 対馬、改造へ……
「叔父上!叔父上ー!……。」
私は早朝から、自分構想を聞かせるために叔父を叩き起こした。
叔父は、眠そうな顔をしながらも起き出してくれ、その穏やかそうなぽやっとした顔を軽く顰めながらも、私の話を聞くために支度してくれた。
「……で?どうしたんだい?こんな朝早くから。」
・・・早過ぎたせいか、少しばかり機嫌が悪かったが。
「すみません、つい気が急いてしまって……。」
「いや、構わないよ。普段おとなしい龍臣が急くようなことだ。聞かないわけにはいかないよ。」
「はい。・・・えぇっとですね、私が叔父上にご相談しようと思ったのは、この対馬の将来についてなのです。ーーーー
ここからが勝負所となる。
「(これが対馬改革の第一歩!)」
叔父へのプレゼンが始まる。
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私は、紙と自作した鉛筆とを用意し、船やたたら製鉄についての絵を描き込んでいく。
「まず、私が認識している対馬の現状から話させていただきます。」
ーー対馬ーー
元寇によって領民がかなり減っている。
大陸と戦争状態なので、朝鮮などとの交易も行われていない。
交易がない=大きな収入源が消失している。
領民の一部は連れ去られた家族を取り返す為に海賊となっている。
「取り敢えず、大雑把ですが…。」
「うむ…、確かに私貿易さえも行われていない今、私たちの収入源は領民たちの税収入のみだ。このままではどうにもならないだろうな……。海賊行為を行っている者らの気持ちも分からないではない。捕らえるための資金も無いしな。」
「えぇ。ただ、だからと言って、"収入源の確保に、総力を挙げて海賊を"ということもできません。それをしてしまえば、私貿易の可能性さえ潰えてしまいます。」
「だろうな……。だが、早朝から来たということは、何か案があるのだろう?今までも色々やってきたようだしな。」
「はい。先ずは、国内の安定に主眼をおきましょう。その為にも商業路の確保です。売り場を、我々が交渉で得なければなりません。」
「蒙古とは無理だぞ。越権として鎌倉に叩かれよう。とすれば朝鮮とだが……、これも蒙古の属国だ。私貿易でなければ無理だな。結局のところうちが海賊をするのと変わらん。」
※高麗国➡︎朝鮮
「いえ、違いますよ。蒙古でも朝鮮でもありません。」
「ん?だとすればどこだ?他につては無いぞ?」
「つては無くとも仕方ありません。どちらにせよこれから開拓していくのですから。私たちが相手とするのは、本州(日本)ですよ。本州(日本)の沿岸国を対象としようと思います。」
※本州➡︎日本 (以後、日本と呼称)
「日本だと?それでは、儲からんのでは無いか?金が出て行くのでは意味が無いぞ?(ー ー;)」
「いえ、問題ありません。」
「どうするのだ?」
「売る品は、これから作るのですよ。」
「作ると言ってもなぁ……。」
「えぇ、本来であれば難しいでしょうね。ですが、いくつか考えはあります。
一つめは、鉄を作ること。
ニつめは、磁器を作ること。
三つめは、石鹸を作ること。
四つめは、砂糖を作ること。
五つめは、塩を作ること。
一先ずは、この五つが目標としたいと思います。」
「いや、待て待て待て!………我々には、鉄の作り方も磁器の作り方も分からんぞ?!ましてや、せっけん??さとう??そんなものは、聞いたことさえないのだが、、、どうするというのだ。」
「大丈夫ですよ、叔父上。作り方も実物も私が知っております。石鹸とは、領民の病を減らすことができるもので、砂糖とは、甘いものですよ。菓子などに使えばとても美味しいでしょうね。」
「病を減らす?石鹸とは薬なのか?あと甘いというのは、米や芋のような甘さか?というか、そんなもの何処で知ったのだ……」
「石鹸は、確かに薬と言えるかもしれませんね。砂糖の甘さは、米や芋よりもはるかに甘いですよ?蜜のような甘さです。何処で知ったのかは、私にも分かりません。しかし私は、私が知っていることを知っていますから」
「………なんだそれは(-。-;) 結局、あれか、お主の妄想ではないのか??」
「そうでしょうか?叔父上も私の為してきたことは、その一端であれ知っているはずですよ?それさえも否定なさるので?」
「・・・・はぁ………。そうだな。何らかの神霊の加護でもお主にはあるのであろう。そうとでも考えねば、やっておれんか………(ーー;)」
「・・・・(そこまで落ち込まなくても……)」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・」
「・・・・・・」
「・・・・」
「・・・・・まぁ、とりあえずだ。何から始めるか、だな。」
「はい。しかし、今の対馬でできるものといえば、塩・石鹸くらいですね。石鹸には脂と灰が、塩には藁束や海水を汲んでくる桶のようなものが必要です。いずれどちらも規模を大きくする必要もあるでしょうが。先ずは、小さいものからから始めていきましょう。」
このあとも含め、叔父との話はゆう三刻にもなった。
最終的に承認され、対馬の一部地域で実験的に実施されることとなった。
・・・・・文官たちの説得には、かなりの困難を伴ったが………。
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"対馬島改造計画"と銘打った、私の対馬復興計画が始まった。
計画の骨子を、領民の生産力・生活力に置き、「島民無くして対馬無し」の標語まで作った。
標語というものに馴染みなどない文官たちには冷たい目で見られたが…、どうにかこうにか、改革は始まった。
対馬改造計画はまず、大掛かりな準備のいらない石鹸の作成から始まる。
石鹸は、領地から集められた灰と牛脂や植物油を基に作られる。
この時代の対馬は山林が豊富で、十分な量の灰を供給する事も可能だった。試算では、。
ただ、問題もあった。というか、問題だらけだった。
元寇のせいもあって、林業に従事している人間がほとんどいなかった事、
そして、脂の供給不足だ。
鎌倉時代は、まだ仏教の教えが厳格に残っている時代でもある。
つまりは、仏教的な穢れは倦厭され、肉食の文化はほぼ皆無だ。
肉を食わないのに動物性の脂が出る事はない。
牛は、荷の運搬や農業にも使われるために少数いるが、屠殺して脂を使うなど不可能だ。
植物油にしても、それほど大規模に供給できるほどの量は取れない。
というか、取れるならそのまま使っているだろう。
なので、考えを変えた。
石鹸は、基本的に植物や動物の脂が使用されて作られる。
足りないのは脂だけ。
なら、対馬でとれる脂はないのか?
いや、ある。
魚油だ。
一般的に言われる動物とは、別に陸上をいくものだけではない。海洋をいく生き物もまた動物と呼ばれるのだ。
・・・・・・・・・・・・まぁ、魚油でも石鹸が作れるだろうということだ。
魚油ならば、今でも漁師の家族が中心となって取られている。
それをいくらか融通して貰えば、なんとか石鹸も作れるだろう。
あとの問題は、灰だ。
絶対量が足りない。
対馬でも木材は使用されうし、その灰もある。
しかし、量産の際には、どう考えても量が足りなくなる事だろう。
「・・・まぁ、今考えても仕方ないか・・。」
領民全てに行き渡らせる事は、現状では困難。
なら、領主とそれに近いものを中心に差別化するしかないだろう。
いわば、我々が、広告塔になるのだ。
「とりあえず、石鹸についてはその方向で進めるか………(´・_・`)」
衛生面を考えると都合が悪いが……。
差別化は、宗家の力を島内に知らしめるという点では悪くない。
あとは………
「塩と石鹸の販売だな。」
これは利益が出なければ、領内に不平不満が溜まることだろう。
力とは、ただ知らしめればいいものではない。
自分たちにもその恩恵があるかもしれない、もしくは恩恵があるのだ、と思わせる事が大事なのだ。
誰かの部下としてしか働いた事のない人間には、分からないかもしれない。
しかし、よく考えてみてほしい。
あなたは、給料一つ貰えない仕事場で働いていたいと思うだろうか?
否、思うまい。
我が宗家に支えてくれている文官や武官たちも同じなのだ。
自分たちが優遇されていると感じるからこそ、我が家についてきてくれるのであり、そうでなければ裏切るなり、野に下るなり、サボタージュするなりと、いろいろな行動に出ることだろう。
また、これは、目に見えないような優遇だったとしても同じである。
目に見える、分かりやすい優遇がなければ、彼らはついては来ないのだ。特にこの時代の人間は。
だからこそ石鹸や塩の利権は、我々で独占し、宗家を筆頭とした上位順に、利権を振り分けなければならないのだ。
この振り分けに大きな不満があれば、情報やモノを持ち逃げされるかもしれないし、次期当主の選定に干渉してくるようなこともあり得るだろう。
それだけ、利権とは難しいものなのだ。
(………とはいえ、今の彼らにとっては、塩はともかく。石鹸の利権など、海のものとも山のものともしれないようなモノの利権には興味など湧かないようであったのだが、ね。)
・・・・・・・
・・・・
・・・
・・
・・・
「塩ですか……、塩なら今でも作ってはおりますが、他の地域に売るほどとなると難しいですな。」
守役として、相応の歳を重ねている厳原からすると、対馬が大々的な製塩を行うというのは想像し難いらしい。
「流下式並塩と呼ばれる製塩の方法がある。藁束と木材、石、竹、あとは製塩のための施設を作る人手だな。二十人もいれば可能だろう。」
「若。作るのはよろしい。しかし、大規模な塩田など作ったとしても、維持することはできませんぞ。塩を作るにはそれ相応のーー
「いい。分かってるよ爺。そのことも考えた上での施設だ。私の考えている方法なら、維持に必要な人員も少なく済む。」
「…………考えておられるのであれば、よろしいが……。しかし、本当にそのような方法が………」
爺は、さらに言葉を重ね私を諌めようとしたが、私に折れる気がないことを知ると、言葉を収め、資材集めなど、塩田作りに協力してくれることとなった。
「(これが失敗に終われば、私の影響力は底辺に落ちるな。小さく積み上げてきた実績もパァか。……くくくく……、楽しいな。この追い詰められた感覚も久しぶりだ。)」
厳原や文官たちの心配そうな顔を見ると、今回のような政策は今の対馬にとって、本当に影響が大きいのだなと思い知らされる。
「(失敗はできない。例えそれが、天候によるものといった変えようのないものであっても、地震のような災害であっても、だ。)」
ここでの失敗は、容易に自らの政治的な死に直結する。
私自身、大きなプロジェクトはいくつも経験した。
自分で立ち上げたこともあったし、友人に頼まれたようなものや、国家規模のものなども経験している。
この時代に来ることになった時の、発掘品再建計画などと呼ばれていたアレもその一つだ。
「(アレの前には会社のプロジェクトに失敗し、退職させられているしな。)」
思い返せばいくらでも出てくるが、今ほどの緊張感を抱いた経験はあまりない。
「(この時代には迷信が蔓延っている。この時代には天気予報なんてものはない。この時代には工具も技術も資材でさえもーーー)」
そうだ。
現代と違い、この時代にはないものが多すぎる。
私が計画を成し遂げるには、それらの問題を全てクリアしなければならないのだ。
「("備えよ、常に"だが、備えるだけでは足りない。)」
一番大切なことは、最後まで領民の心を折らないこと。
それさえできれば、あとどうなろうと覆すことは可能なのだ。
「とりあえず、神にでも祈るか………」
いろいろ考えた挙句、神頼みを大々的に行うことに決めた。
「……………若…………。」
今回の投稿はこれでし終いです。
物足りないかもしれませんが、申し訳なく思います。
ですが、定期的に書いては行きますので、、、長い目で見ていただければ幸いです。。
では!また次話でお会いしましょう!
Good bye!