第六話 まだ・・・・
木札遊戯、トランプでの遊びを広めてから一年。
トランプは少しずつではあるが、順調に対馬中へ浸透していった。
それに加えて今は将棋も作り、鶫や、新しく付き人になった向山五巳と遊ん、、もとい仕事、検証している。
「王手。」
「・・え?ま、待っ「なしだ。」そ、そんな~。」
「さっきも使ったでしょ?一回だけだよ。何回も使ったら終わらないじゃないか。」
「いや、でもよ~・・。・・・とほほh・・。」
賭け将棋だ。
ちなみに賭け金には、今日の夕食一品を使っている。
久々に肉が出るため、みんながみんな必死である。
対馬では漁があるので、確かに飢え難いのは難いが、その分、穀物や肉は少ない。
現代のように家畜として飼育しているわけでもないので、猟師でもないと肉を食べる機会は本当に少ないのだ。
宗教的に、肉を食わないような僧侶などもいる。
うちの家は、一応、鎌倉からの奨励もあって【臨済宗】だ。
だがまぁ、僧侶というわけでもないので、肉食についてのこだわりなどはない。
むしろ、食う喰わないを選べるような状況でもないのに、いちいちそんなことを気にしてはいられない。
「よしっ!これで詰みですね。」
「あー・・肉・・・。おいらの・・おいらの肉がぁ~・・・・」
「残念でしたね。五巳」
トランプでの賭け事なども、最近の対馬では流行している。
対馬内の狭い中でのことなので、まだ身を持ち崩すような者たちは表れていない。
しかし、それも時間の問題ではないかと思う。
「鶫。」
「はい。どうしました、若?」
「じゃぁ、次を始めましょうか。」
「「次・・・?」」
そう、次だ。
トランプを流行らせたのは、あくまで私が作る道具の売り込みに必要だったからに過ぎない。
‟ドリルを売るなら、穴を・・”ではないが、便利さを求めていないのなら、求めるようにすればいい。
私が考えた策など、ただこれだけだ。
だからこそ、今度は大々的に売り出そうと思っている。
「唐箕、千歯扱き、鋤鍬ざる網かえし針化合弓・・・etc・・・。とまぁいろいろできてしまったんだが。これらを売り出そうと思う。」
「「・・・・・」」
「ん?どうしたんだ?」
「若様。」
「お、おう。」
鶫からなんかオーラが出ている・・。
「多すぎです。我々だけでは不可能です。若様は私たちを殺すおつもりですか。」
こわいって・・
「い、いや、そんなつもりはないですよ・・。鶫。」
「そーですよ!おいらにだって、限界があるんです!だって、ただ渡して来れば大丈夫っていうわけじゃないんでしょう?使い方覚えて、説明なんかもしないといけないんでしょう?木札の時みたいに!無理っす無理っす!!」
まぁ、そだろうね。
そだと思ったよ、うん。
作りすぎだよね~。
でも、でもさ?
言い訳させてもらえるのなら、言いたいんだけどさ。
対馬の人間。閉鎖的すぎ!!
どんだけ、新しいものが嫌いなのさ!
この一年、いろいろ売り込みに行ったけど、結局、使ってくれたのって、この木札!
トランプでのゲームだけだぞ?!
どんだけだよっ!
そりゃ、作り置きも溜まってくるよ・・。
このあいだは母上にも説教食らったしさ・・。
そろそろ置き場所にも困ってるんだよ。
察してくれ、鶫も!
「分かってる。分かってるとも。けれどな?別にすぐ覚えてどうにかしろとは思ってないよ?別に(本心ではすぐに捌いてもらいたいけどな!)」
「・・そう、なんですか?」
「あぁ。」
「てっきり、あのゴミみたいなものを、領民の方たちに引き取ってもらうつもりだとばかり・・。」
「・・・・・・・・・・・・・・・あぁ、違うぞ。」
「そうだったんすね!なら大丈夫っす!一個一個覚えていくだけなら、何とかできると思うっすよ!」
「まぁ、とりあえず納得はしてくれたようだし。これから、一個一個説明していこうと思う。まずは、千歯扱きについてだが・・」
こうして、俺の工作にかけた一年は終わった。
この一年に俺が作った漁具や農具は、さらなる一年をかけて対馬に浸透した。
農具では、千歯扱きや唐箕に代表される、江戸時代に主流だった道具が対馬にはそろったし、
漁具では、敷網や曳網、刺網など、いくつかの漁網を作ったし、蛸壺なども提案してみた。
化合弓、コンパウントボウなども作成したが、これは機密として、父や重臣のみに伝えることになった。
「鶫、あとはこれで終わりですね。」
「やっと・・・、やっとですか・・・・・。」
「・・・・・長かったです・・若様・・。」
私たち三人は、あれから一年、年齢など関係なしにこれらの道具の普及にいそしんだ。
最初は、もっとゆっくり進めていく予定だったのだが、
ひと月後には、ついに母上の逆鱗に触れてしまい、あれらの道具を処分しなければならなくなってしまった。
「処分だけは!処分するのだけは・・!!」と、壊されるのだけは避けた。
しかし、そのまま置いておくこともできなくなり、早急に、領内へ浸透させることを余儀なくさせられたのだった。
「しかし、これで終わり・・、これで終わります。」
「・・・えぇ、これでおしまいですね。」
「・・・・ぁあ、これが終わればやっと・・、やっとゆっくりね・・ら・・れ・・る・・・。」
ビシッ!
「はっ!・・ね、寝ちゃってました・・・?」
「えぇ、寝てました。寝てましたとも。まだ、まだですよ五巳。寝ちゃダメですからね!」
「わ、分かってます。分かっておりますとも・・・鶫さま・・。」
俺たちも限界が近い。
今までは先が見えなかったこともあって、気を張り詰めてきたが、最後の最後となると、やはり張りつめていた心も緩むのだろう。
仕方ないとは思うが、二人にも頑張ってほしい。
俺一人では、もう無理だと思う・・。
「じゃあ、最後。最後だが・・・。これは何だ??」
それは、紙に書かれた設計図と三角形の物干しざおのような物体だった。
「これは・・、海に、太陽・・?あとこれは・・、なんでしょうか?」
「え~・・、何だったっけ??あ~、う~ん・・。」
頭も疲れているせいか、設計図を見ても何も思い出せず、三人でしばらくぼけ~と紙を眺めていることとなった。
すると、
「・・もしかして、塩じゃないですか?」
「しお・・・?五巳。しおとは?どういうことです?」
鶫もそこまで言っておいて思いつかないほど、頭が回転するのをやめてしまっているのだろう。末期だ。
「鶫。製塩、製塩の道具、というか方法だね。思いついたのを書き留めておいたんだろう。」
「塩・・製塩・・・。あぁ・・。なるほど・・。」
あぁ、鶫の反応も薄い。
俺も疲れた・・。
「製塩は、さすがに領民に委託するわけにはいかないし、父上にでも話だけ通してみるよ。鶫も五巳も帰っていいよ。あとは俺がやっておくから。」
「あ・・、分かりまいたわあさま・・。」
「たのみましたっす。若。」
鶫が言葉をかむという珍しい光景を眺めつつ、
その日は、この、対馬にとって新規の、製塩方法を売り込むにはどうすればいいか、ずっと考えることになった。