第五話 木札遊戯
唐箕と千歯扱きが完成した数週間後。
俺は、この対馬にある、数少ない農家の家にお邪魔していた。
「では、これらがあれば、脱穀と選別の手間を減らせると?」
「えぇそうです。こちらの千歯扱きのほうは、束をこちらに通すだけ。唐箕のほうは、籾をここにおいてこれを回すだけです。」
「ふむ・・・。」
「まぁ、壊れたからどうこうというのはありませんので。いかようにでも使っていただいて結構。ですが、十二分に効果のあるものです。一度でも使えばその便利さが分かるでしょう。」
「壊れてもこちらに責任がないとまでおっしゃっていただけるのなら、使ってはみますが・・・」
「それで結構です。便利だと感じたのなら、こちらのつぐに、ご連絡いただければ。」
「はぁ・・・。分かりました。」
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「農家の人の反応、悪かったね。」
「そうでしょうねぇ。いきなり新しいものもってきて使ってみろって言われても、今までやってきたやり方がありますから。便利でも抵抗があるんでしょう。それにうちの現状だと、足元見られても仕方ありません。」
「それでも・・。それでも彼らは必要とするよ。必ずね。」
「自信満々ですね、若は。」
「効果は実証済みだしね。あとは、彼らが便利さを追い求めるように誘導してやればいいだけだよ。」
「誘導って・・??若様は、話に聞く仙術なんかでも使えるんですか?」
「まさか!そんなわけないよ。簡単だよ。じゃあ、鶫が楽したいときってどんな時?」
「楽したいとき・・、ですか??そうですね・・・。おいしいものが頂けるときとか・・、面白いものが見られる時ですかね。」
「そう。それだよ。」
「はい??それって・・。」
「あとは、お楽しみに、だよ。鶫。」
その日は、考え事をしつつ帰った。
結局、次の日にもその次の日にも、脱穀が始まる時期になっても、千歯扱きや唐箕をほしがる農家は訪れなかった。
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ザっ・・・ザっ・・・ザっ・・・
「・・・若?今度は何作ってるんです?」
ザっ・・・ザっ・・・ザっ・・・
「・・・ん?木札だよ。ひまなときに遊べるものを、と思ってね。」
ザっ・・・ザっ・・・ザっ・・・
「遊べるもの??木札でですか?」
ザっ・・・ザっ・・・ザっ・・・
「あぁ。」
ザっ・・・ザっ「よしっ!できた。」
「いち、にー、さん、しー、・・・・・全部で112枚もあるんですか?」
「うん。基本的には54枚で遊ぶ予定。余りは交換用だよ。」
「へえ~。どんなふうにして遊ぶんですか?若様、教えていただけませんか?」
「いいよ。まあでも、いろいろあるんだけどね。そうだな、まずは・・・・」
俺は現代でもあったトランプを木札で作り、ポーカー(合わせ札)、ブラックジャック(切り札)、ババ抜き、七並べ、大富豪(大豪族)・・・etc
などをつぐに教えていった。
「これが広まれば、農困期にもできる娯楽が増えると思うんだ。それに娯楽が増えれば、同時に新しい技術を受け入れる素地もできるはず。」
「流行りすぎると、農繁期にも働かないようなひとも増えるかもしれませんけどね~。」
「そうなれば、食えなくて死ぬだけ。そこは注意を呼びかければ大丈夫だと思うよ?」
「・・・まぁ、確かに。」
「まぁ、それもこれも流行ればの話で、流行らなければこの話も無価値なんだけどね。」
「そこで以前作られた、若の道具が生きてくるわけでしょう?」
「・・♪ そういうことだよ。。鶫も分かってきたね~。」
「ありがとうございます。」
「じゃぁ、この遊戯で重要なのは、≪木札そのものじゃない≫っていうのは分かる?」
「遊戯の内容が広まることが目的、ってことですよね。それじゃ、木札は真似されても構わないってことなんです?」
「そうだよ。むしろ積極的に真似されなきゃいけない。だからこそ、父やほかの家臣たちにはしばらく教えないつもりだ。いいね?」
「分かりました、若様。まずは漁師たちや狩人、あとは農家やってる人たちですよね?その人達にある程度広まってから伝える。ですよね、若様?」
「完璧。」
「♪」
「じゃあ、頼んだよ?」
「分っかりました、若様!行ってきまーす!」
「あぁ!いってらっしゃーい。・・・行ったね・・早い早い。」
日もまだ高いし、時間はある。
「さて、次はどうしようかな?」
宗龍臣、12歳。
彼はどこまでもどこまでも、手を緩めずに進みゆく。
本来の歴史が無くなるなくなるとも、彼の鑿は止まらない。