第四話 唐箕・千歯
ザー・・・・ザザー・・・・・・
・・ザー・・・ザザー・・・・・
・・・・・ザザー・・・ザー・・
海
それは、広大で広大な大地と真逆のもの。
空の青を海が映すのか
海の青を空が映すのか
単に青く見えるだけなのか
まぁ、どうでもいいことだが、そんなことを考えつつ
工作をしていた、秋の日。
「・・・わかー!わーかーさーまー!わーかーーー!!」
またもバカがやってきた。
「あ!若、またこんなところに・・・。家から離れるときは私にも声をかけてくださいってあれほど・・・。」
「あーあーあー、うるさいですよ。手元が狂うでしょう。じゃまですじゃま。」
「また、こんなとこでろで泥遊びですか?だめですよ?また母堂様に叱られてしまいます。」
この失礼極まりない奴の名前は、榊山鶫。
俺が10の時に付られた従者、付き人だ。
最初はまじめで忠実なのが取り柄のやつだったんだが・・・、いつの間にかここまで失礼な奴になってた。
理由は知らんがな。
とりあえずバカだ。
脳筋ともいうが。
かなりの女顔で、領内でも見惚れる男が何人も出るほどだ。
正直、俺自身、いつか足を踏み外しそうで怖い。
髪型も、月代を剃っておらず、ポニーテールのようにしているので、性別が余計に分かりづらい。
”男の娘”
という言葉がこれほど似合うやつも、そういないだろう。
俺以外のやつについていたのなら、間違いなく尻小姓となっていただろうなと思う。
この時代なら、BLも、寺や武士などにほぼ限定はされるが、ざらにあるし。
俺のようなノーマルにとっては、居づらい時代だ。
女みたいな顔をしているが、一応男だ。
初代男の娘といっても過言じゃないだろう。とぴうかそうするつもりだ。
俺も10歳を迎え、父から守役と付き人をつけるように言われ、この鶫が付き人として付くことになった。
本当は、こいつだけじゃなくほかにも何人かつけてくれると嬉しいのだが、今の対馬ではそれも不可能なので、こいつだけだ。
守役の厳原玄斎もいるが、彼も現状をなんとかしようと、父とともに動いているために忙しい。
そのせいで、俺が守役と三度しか会ったことがない。
父や他の家臣とあった回数もそのくらいである。
此の時代に、そこまですることがあるのか?とか疑問に思ったが、どうやら本土に援助を求めに行っていることが多いらしい。
この寒冷化時代にご苦労なことである。
「こんな時こそ内政チートだ!」とか思われる方もいるかもしれない。が、正直無理。
ひとの浅知恵など、地球環境の前には無力である。
まぁ、それでもないよりはマシなので、いろいろと考えを進めているのだけどね。今も。
「つぐ。私が作業をしているのが分からないのですか?邪魔しないでください」
「・・?また変なもの作ってるんですね・・・若。この間も叱られたばかりでしょうに・・・。」
確かに二、三日前にも、資材を無駄にするなと、怒られてはいる。
しかし、・・・
「あれも必要なことなんですよ。規格を統一して道具を作るためには、定規や秤は必須。一部は壊されてしまいましたが、ちゃんととっておいたものもあります。無問題というわけです。」
「・・・はぁ・・・。で、今回は何を作っているのですか・・若様は?」
「とりあえずは唐箕と千歯扱きと呼ばれるものですね。これで、脱穀と選別の手間が減ることでしょう。」
「・・・そうなんですか。でも若様。」
「なんだ・・。」
「うちって、米も麦もほとんど作ってませんし、脱穀作業なんてあんまりしないんですけど・・・?」
「まったくしないわけじゃないでしょう?それに、人は魚だけで生きてはいけないですし。」
「はぁ・・・それはそうなんですが・・・。」
「作りすぎて余ったなら、売ればいいんですよ。戦が起こるかもしれませんし、飢饉が起こるかもしれない。対馬は魚介類でしのげても、外、内陸の方々は違うでしょうしね。」
「・・そうなんですか??でも、本土の方々も海に接してないわけじゃないんですから、飢饉が起きても大丈夫そうな気はしますが・・?」
「そうでもありません。本土は人の数が多いですし、漁師の数も少ないんです。当然船もないので、いざ食べ物が必要となっても、取りに行ったりできないんですよ。」
「へぇ~・・、そうなんですか。」
「そうです。それに、山地になると海を見たことのない人もいるでしょうしね。海側が食料であふれているとは、誰も考えていないでしょう。」
「そんなもんですか・・?」
「そんなもんです。」
「ここも食料であふれているわけでもないですけどね・・・。」
「だから、畑作や稲作が必要なんですよ。」
「・・あ!そっか、そこでそれにつながるんですね!」
「その通りです。そして、これが完成すれば、脱穀・選別に使う人の数が大幅に減るでしょう。あれは大変な作業だと聞きますし、そこだけでも楽になれば、いざ不漁というときにも、食べ物に困ることはなくなるでしょう。」
「へ~~、若様すごいです・・。」
「分かりましたね?なら、邪魔しないでください。あと数日でできますので。完成したらお披露目に行きますから、どこかの農家に一言かけておいてくれると助かります。失敗しても稲や麦束が無駄になることは決してありませんので。そのことも併せて伝えてください。」
「分かりました。確か・・、大山の麓で米を作ってる家があったはずです。行って伝えておきますね。」
「えぇ、頼みます。」
「頼まれました!じゃ、行ってきますね!若様もほどほどにして休んでおいてくださいね!」
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・・・ザー・・ザー・・
ザザー・・・ザー・・
ザザザー・・・・・
ザー・・ザー・・
海の音を聞いていると、本当に落ち着く。
世界が俺一人になってしまったようにも感じる。
世界中が寝静まってしまったようにも聞こえる。
「よしっ!続きやるか。」
気持ちを入れ替え、俺は唐箕づくりを再開した。