第三話 ここはどこなの??
鍛錬を続けて、一年が過ぎ、二年が過ぎ、三年が過ぎた。
俺は順調に成長を続け、初めてここがどこかを知ることになった。
「はは、はは、あれ!あれ何?」
「多津匡?お舟のことかな?それとも向こうの陸地のことかな?」
「船違う!あの!あのおっきいの、何?」
「大きいの?あの陸地のことかしら?龍、あれはねぇ、陸っていうのよ?あそこには高麗の国があるの。」
「高麗???」
「そう、‟こうらい”」
―こうらい?こうらいって、朝鮮か?それが見えるってことは……日本海側…それにここまで近いとなると……、対馬か?それとも竹島??いや、対馬のほうがありそうだな。
およその推測で、ここを対馬だと仮定した私は、それを基準とした案を練り始めた。
―高麗があって、ここが対馬だとするなら、平安時代末期から、室町初期のうちのどこかだ。
鎌倉時代だとすれば、元寇がある。もし元寇がまだ起こってないのなら、俺は生き残れないかもしれん………。
高麗、対馬と聞いて、元寇を真っ先に思い出した俺は、元寇当時の対馬の状況を思い出し恐怖した。
あの時の対馬は、元に蹂躙され、島民も根こそぎ殺されるか連れ去られるかしていたと、読んだことがある。
わずかに残った人間だけで、再興はできたが、それにも百年単位で時間がかかっている。
死んでも生き残っても、無茶ぶりの無理ゲすぎる。
――とりあえず、元寇について確認しないとな……
「はは、ははー(母、母ー)。」
「ん?どうしたの?」
「ははー、あのねあのね、あっちのひとたちが、いっぱい来たことってあるの??」
「え?……多津匡?それって誰かから聞いたの?」
「うんん?ちがうよ。向こうもこっちとおんなじみたいだったから、泳いでくる人とかいるのかな~?って考えたの。」
「あ・・・、そうなの。ん~~、来たことはあるわよ?たくさん、た~くさんね。」
「そうなんだ。ねーどれくらい?どれくらいきたの??」
「いっぱいらしいわ。この對馬が埋まるくらいだったそうよ。」
「そうなんだー!すごいねー!」
「そうなのよ。でも、すごーく怖い人たちだったらしいわ。」
「え!怖いの?いっぱいの怖い人たち来たの?やだー!」
「やだねー。でも、その怖い人たちは、嵐で飛ばされてどっか行っちゃったんだって。神様が守ってくれた、ってみんなは言ってたのよ。」
「そなんだー。神様てすごいね!」
「そうねー、すごいねー。」
なんて、子どもっぽく会話していると、
いろいろ重要な情報がたくさん出てきてしまった。
―元寇は終わっていて、ここは対馬で、……で、今っていつなの??
出てきた情報から、今が、二度目の元寇のあとでなおかつ1350年以前ってのと、ここが対馬だってのは分かる。
前者は、嵐で元軍が壊滅してるってとこからで、後者は高麗の滅亡した年数からだ。
だいたいの覚えてた年数から、逆算すれば、今が1280~1300年だってことまでは分かるわけだ。
あとは、幕府がどうなっているかを調べればいい。
そうすれば、今後どうすればいいか見通しも立てられる。
しかし………
元寇のあとってことは、この対馬には人がいないってことになる・・・。
改革のためには、食料自給率の向上と教育の普及が鉄則だが、人の減り具合によっては不可能なことも出てくるだろう。
―せめて、食料の心配がないくらい漁がうまくいってればいいんだが・・・
漁獲量がそれなり以上に多いことだけを願う。
―ま、そんな心配、今からしたとこで仕様がないんだけどね。まだ、三歳だし。・・あ、数えで四歳なのか・・・?
そうだ。
所詮まだ四歳。
俺にできるのは、しっかりした身体づくりと・・・って、身体づくりには食料も必須か・・・ダメじゃん・・
身体づくりにも、対馬を改革していくためにも、結局は早くに動かなければいけないことに気づいた俺。
なんだかんだで、三歳という幼児の身ながら、動き出すことになったのだった。
・・・・・・周囲の生暖かい視線を背負って