現代伝1 輪廻転生
ミーンミーン ミーンミーン
ミーンミーン ミーンミーン
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「今日も暑いな……」
――2037年夏
猛暑日が続く今日。
その男、斎藤隆明は"ワープホール発生装置の稼働実験"が行われる対馬へと向かっていた。
「しかし、大掛かりな実験とはいえ、こんなとこでしなくてもいいのになぁ……。」
「仕方ないですよ、斎藤主任。ワープホールなんてSFのものを現実にしてしまおうってんですから。」
「確かにSFだな。あんなもんが発掘されなけりゃ、作るのは不可能だったろうからな。」
そう、5年前、沖縄県近くの沖合に沈んでいた遺跡で、特殊な金属と思われる物質でできた、部屋がサルベージされた。
部屋、と分かったのは、発掘物の検証の際に突然、その金属塊の一部が開いたからだった。
そのとき、検証は中断し、研究者たちは一時隔離され、滅菌消毒に掛けられた。
エジプト王、ファラオのピラミッド発掘の二の舞を避けるためだった。
その後の検証で、明らかに、発掘物の時代から乖離したものであることがわかり、金属塊は、宇宙船か、タイムマシンかとの議論が行われた。
中の検証が行われるにつれ、宇宙船であろうとの推定が濃厚とはなったが。
それに関わる発掘技術の再現検証実験のひとつが、今回行われるワープホール装置稼働実験なのだ。
「で?なんで、最終調整もまだなのに、お偉さん呼んで稼働実験だって?第一、調整どころか発掘技術の理解すらまともに進んでないってのに……。
これだから、バカ理論屋は…、机上の空論だけでリスクに対する備えすらまともに出来てないのに何でもかんでもやってみりゃいいってもんじゃねぇってのに……。」
「まぁ、仕方ないですよ。
聞いた話、今回の実験も研究者の方から出た話じゃないみたいですよ?
どっちかっていうと、お国の方かららしいです。」
「……、それで実験に失敗すりゃ、お国にとっても損害だろうに……。」
「……ですよねぇ……。ほんと、やってられませんね……。」
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実験責任者
「では、これより、ワープホール装置の稼働実験を開始いたします。」
所員
「稼働します。」
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「…………で、俺たち技術屋は、蚊帳の外かよ……。」
「…………らしいですね。」
「舞台の裏側は見せられないってか?けったくそ悪ぃ……!」
「まぁ、いいじゃないですか、責任も予算も全部あちらさん持ちですし。ここのフードもドリンクも全部タダですよ?
今の内に高い物の食い溜めしときましょうよ。」
「……お前は若いからそれもいいがよ、俺は医者から色々止められてるんだよ。そんなに食い溜めできるほど食えねぇよ。
まぁ、いいからお前は食っとけ。
俺は、ここの本でも読んでるからよ。」
「まぁ、それなら仕方ないですか、それじゃ食べてきますんで、なんかあったら内線で呼んで下さいね。」
「分かった分かった。いいからさっさと行ってこい。いつ呼び出されるかも分からんしな。」
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「ほぉー、結構いい本がたくさんあるな。農業・漁業・林業・エネルギー資源、旅行雑誌に政経関連の本まである。
どこの図書館だ?ここは。
どれもこれも完全に実地で使える専門書ばっかりじゃないか……。
これも予算で買ったのか……、税金の無駄遣い甚だしいな……。
まぁ、読めりゃいいか。」
……ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、ぺら、……………(……速読中…)
………………ぅゎぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…………
「ん?なんか、騒がしいな。
お、あれからもう2時間か……。
実験はどうなったんだ?連絡もないとは……。
もしかすると、完全に忘れられてないか?俺ら。」
――にしても、どうなってるんだ?あの頭でっかちのバカどもが忘れてるとしても、あの坊主まで忘れてるってことはないだろ。
流石に、2時間も食いっぱなしってことはないだろうし。なんかあって、誰かに捕まってんのか??
「ま、装置のとこまで行ってみりゃ分かるか。警報も鳴ってないし、そこまでのことでもないだろう。」
あとから振り返ってみると、ここが分岐点だったのだろう。
もし、このとき食堂まで部下を迎えに行っていれば。
あるいは、窓から外でも見ていれば。
この些細な判断の違いが、俺の先短いと思っていた将来を、分けることになった。
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……こっ、こっ、こっ、こっ……
――……誰もいない。
……機械音以外の音もない。
おかしいとは思いつつも、とりあえず、見るだけは見ていこうと思い、実験室の扉を開けた……。
…その瞬間、
「え?」
視界が光に包まれ、身体の感覚が喪失していく。
これが、この俺、斎藤隆明が、その人生で最後に感じた感覚だった。
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……ごぽっ、ごろごろ、ごぽっ…………
「……!……!……!」
身体中に激痛が走る。
息苦しい……、息ができない……。
苦しい……だ、れ、か、…………
次の瞬間、水のようなものの中にいる感覚と、身体をむりやりに切り貼りされるような激痛が同時に襲いかかってきた。
助けてくれ、助けてくれ、と願い続けたが、苦痛はなかなか終わらなかった。
そんな永遠にも等しい時間が続いたが、いくらか時間が経った頃、水の中にはいても、息苦しくはないことに気づいた。
某人型戦闘機のLCLだったかの如く。
それでも、激痛は続いていたので、さほど変わりはしなかったが。
……どれくらいの時が経ったのだろう?
いつ頃からか、痛みがほとんど無くなっていた。
あれほどの苦痛を味わい続けたなら、普通は、発狂していてもおかしくない、いや、発狂していなければおかしいだろうに、自分はまともなように感じる。
狂人のまとも、など、何の保証にもなりはしないのだから考えるだけ無駄だろうが。
しかし、俺はどうしてこんなところにいるのだろう。
装置の爆発でもあったのか?
全身焼かれて、治療装置の中にでも入れられたのか?
まだ、目が見えないし、身体の感覚もうまくつかめないので、何も分からない。
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あとどれだけの間、ここにいればいいのだろうか?
時間の感覚もないからさっぱりだが、すくなくとも、一週間二週間くらいは経っているだろう。もしかしたら、もっとかもしれない。
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……ごぽっ、ごぽっ、ぐる、ぐる……!
突然、水とともに、外へと押し出されていく感覚が来た。
「……ぐぽっ!」
――頭!頭が引っかかってる!
出てこないことに業を煮やした誰かが、足を思い切り引っ張ってくる。
――痛いわっ!出てやるから止めろ!足が抜けるわっ!!
……すぽんっ。
…………俺は外に出たようだ。
――疲れた……。
だが、文句の一つも言ってやらないと気がすま……。
文句でも言ってやろうと、息を吸った瞬間、得体の知れない感覚とともに痛みが走った。
「ぎゃぁぁぁぁああああ!!!」
この日、この時が、俺、斎藤隆明の人生終焉の日であり、
永遠の対馬の領主、宗龍臣の人生の始まりだった。