1 始まり
―パシャッ―。
屋外プールの方から水音が聞こえた。
その潔らかな音に思わず僕は校門へと伸ばしかけいた手を止める。
水泳部は冬場は屋内プールで活動しているはずだ。
当然誰も使わない屋外は水が抜かれている。
なら、どうして…?
不思議に思った僕は重たいリュックをその場に置き、プールの入り口へと足を進めた。
するとプールの縁に少女が腰掛けているのが見えた。
歳は僕と同じ、いや少し上だろうか。
女性と呼ぶには少しあどけない、少女特有の触れてはいけないような神聖さを持つ彼女は真新しいセーラー服に身を包み、黒髪を風になびかせていた。
僕は歩み寄ろうとした足を制し、柱の後ろに身を隠す。
―近づいちゃダメだ…―。
僕の直感がそう告げていた。
彼女は綺麗で、ちょっと触れただけで消えてしまいそうなくらい儚いから僕みたいな穢れたモノが近づいちゃダメなんだ。
いつもはもやもやしている頭の中は何故だか靄が晴れたかのようにクリアで。
普段、優柔不断と言われるのが嘘のように心には強い意志が宿っていた。
「ねえ、」
彼女の薄い唇から想像していたのより落ち着いた音が零れる。
「そこにいるのはわかってるから出てきなさいよ」
キツい口調でそう言い、彼女が睨んだのは僕が隠れている柱。
げっ…バレてた…!
声がかかるとは思っていなかった僕はビクッと肩を震わせ、顔だけ恐る恐る柱から覗かせる。
射抜くように鋭い彼女の視線と僕のオドオドとした情けない視線が交差した。
僕はどうすることもできないまま、立ち尽くす。
彼女は僕をしばらく瞳の中に閉じ込めてから細く長い指を僕に向けた。
「あんた、名前は?」
かくんと少し首を傾げるその様は人形のようで。
その洗練された美しさに僕は思わず見惚れる。
「鷹城 櫂。鳥の鷹にお城の城、それと」
「ああ、そういうのはいいから」
話に花を咲かせるために必死に話題を広げようとしていた僕を遮り、彼女は華奢な手で僕の手を掴む。
「私は四条 瑞月。よろしくね、鷹城くん。」
そう言って悪戯っぽく笑う四条さん。
その姿はやっぱりどこか幻想的で、人間らしい一面を見たばかりだというのに、手は繋がっているというのに、今目を離せば消えてしまいそうなそんな感覚に襲われる。
話してみれば普通の女の子、存在感だって薄い訳じゃなくて濃いぐらい。
それなのに儚さを感じるのはなぜだろう。
僕は目の前で笑うセーラー服の少女を見つめる。
四条瑞月。しじょうみずき。シジョウミズキ。
心の中で何度も何度も復唱する。
忘れないように。次会った時にもう迷いなく苗字を呼べるように。
―そして…
―――いつか名前を呼ぶ時に困らないように…。―――
セーラー服にポニテの女の子がプールに生足突っ込んでるのとかすごくそそr…素敵ですよね!




