お着替えタイム
家に着くなり服を色々渡された。チェック柄の可愛いシャツやシンプルな黒いシャツ。パンツだってデニムとかカーゴパンツまで。普段無頓着だからどれを着ればいいか混乱してくる。
試しに一着黒いシャツを着てみたが、サイズもピッタリ。とても複雑である。南澤くんが着れないサイズって言ったのも実感できるけど。あと下も適当に…目についたカーキ色のカーゴパンツと合わせて見よう。なんとなく良さそうだし。
パパッと着替え、着合わせを南澤くんに見せる。が、笑顔で次に行ってみよって言われた。納得がいかないらしい。渋々また着替える。
*数分経過*
かれこれどのぐらい着替えただろう。10着くらいは試着した気がする。出掛ける前にすでに疲れかけだ。
「まだ決まらないの?」
「だって色んな諒くん見れて楽しいだもん」
本当に楽しそうに言ってくれるが、付き合わされてるこっちの身にもなってくれ。非常に帰りたい。が、せっかく僕のためにしてくれているんだ。本音を隠して、
「…決めないと出掛けられないじゃん」
目的を果たすことだけ考える。さっと行ってさっと帰ればいいんだから。
大体着替えるときに何回も眼鏡を外さなきゃいけないのがめんどくさいし、僕的にはどの格好でもいいからさっさと決めてくれ。
また着替えるだろうと、待機のためにとりあえず眼鏡を外す。極度の近眼だから眉間にしわを寄せて、目を凝らしてもぼやけて何も見えない。だが、急にぼやけた視界でも暗転する。そして窮屈で息苦しい。
「えっ何!??」
何が起こったのか解らず固まる。が、手に持っていたはずの眼鏡がない。びっくりし過ぎて眼鏡を落としてしまったようだ。でも耳元から、
「わぁ諒くんそんなに行きたかったの!!嬉しい」
「えっちょっ」
何だかすごく喜んでいるようだ。なんでこんなに喜んでるかわからない。が、今きっと抱きつかれているんだと思う。身動きとれないし、ただすごく押されて踏ん張っているが、南澤くんの押しが強い。出来るだけ動きたくないのだが、南澤くんはとてもはしゃいでる。
「待っててすぐに決めっ――」
言いかけたとき、床からパリンっと嫌な音がした。南澤くんのあっと声が聞こえて、その後固まったから、きっと…。
この時に視界が良かったらきっと青ざめた南澤くんが居たんだろうなぁ。