デートをしましょう
夢の世界に微睡んでるところに、インターホンの呼び出しが鳴った。重い瞼を開けて携帯の時間を見る。朝7時過ぎだ。で、今日は土曜日。休みなはずなのにこんな朝っぱらから誰か来てると言うのか…
(眠い…父さんは…あっそういや)
きっといつもなら両親が出てくれるが今日は確か…
『明日お父さんと鎌倉まで行ってくるからね。諒ちゃん留守頼むわね』
昨日の夕飯のときに頬を赤らめて言う母。もうラブラブなんだからと呆れながら話を聞いていたことを思い出した。
(ってことは…)
つまり家に僕しかいない。こんな朝早くから来るぐらいだし、何か急ぎのことでも起きたのかなっと思って、急いで着替えて玄関を開けたのに、その先に南澤くんが立っているとは思わなかった。
「おはよう」
爽やかに挨拶してくるけど、
「なっなんでいるの」
確かに告白された日に家まで送られたけど、まさか休日に押しかけてくるとは思わなかった。冷や汗が伝う。
「諒に会いたかったから」
「なっ」
恥ずかしげもなくこんなこと言えるのがすごいと思う。気恥ずかしくてこっちが赤くなる。
「可愛いな。ねぇデートしよ?」
「はぁ!??」
驚きすぎて声が出た。南澤くんは吹くように笑って、
「だってこの一週間まともに話せてないじゃん」
「いやいやだって関わりなかったし」
大げさ言われそうなくらい大きく手を振って否定したら、拗ねたようで、
「諒くんから話しかけられたかったんだもん」
「だもんって言われても…」
「でも挨拶はしてくれるようになったのは嬉しかったかな」
綻んだ笑顔で言われたら、誰だって胸を打つだろう。なんだってさっきから可愛いことしか言わないんだ。…僕が女の子だったら確実に僕落ちてるんだけど。残念ながら男だからね!
でもこんなに喜んでくれるなら、
「じゃ、来週から…」
「本当!」
目を輝かせて聞いてくる南澤くん。余程嬉しかったのだろう。釣られて頷いてしまう。
「えへへ。じゃデートに…あっその前に、寝癖直そうか?」
「へっ」
「すごく跳ねてるよ。こことか」
『どこ』って聞く前にもう手が伸びていて手櫛をしてくれることにびくっとしてしまう。自然に行動できるとかすごいなっと見上げてたから、微笑まれて思わず俯く。
「ちょっとマシになったかな」
「っ…ぁりがとう」
「どう致しまして。…でもうーん。俺んち寄ろうか」
「へっなんで。しかもなんで南澤くん家!?」
「えっと…。格好がねぇ…」
まさか、格好まで指摘されるとは思わなかった。そりゃ急いで着替えてきてチグハグな格好をしてると思う。見返してみるけど、長袖のTシャツに、普通にパンツだし、シンプルだと思うけど。
「だって諒くんに合ってないもん。結構大きくない?」
「そっそれは」
言葉が詰まった。
(それは『自分の成長を見誤ったせいです』なんて言えない)
僕だって高校に入ったら大きくなると思っていたさ。父さんだって、母さんだって背が高いのに、なぜ止まってしまった僕の身長。頭を抱えたくなることを言いたくはない。
「俺のお古だけど数回で着れなくなったやつがあったから、それあげるよ」
「えっ」
「1回も着れなかったのもあるしさ」
理由は聞かないでおいてくれたけど…。
これは付いてっていいものなのか…?
「いいの?」
「諒くんが良ければ」
南澤くんの顔を見つめる。微笑を絶やさないのはすごいなっと感心してしまう。この笑顔信じてもいいよね?お友達からって言ってたし…、
「じゃ行こうかな」
なんとなく危ない気もするけど、親切かもしれないし、とりあえず乗ってみることにしてみた。