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ジグソーパズル

作者: クレスぽ

 彼女が家に来たのは夕飯も済んだ頃だから20時過ぎだっただろうか。「夜 家に行く。やり残したことがある。」と急なメールをよこされて「相変わらずこっちの都合はお構いなしか」と一人苦笑した。

 

 

 

 彼女が来てからも僕らは他愛もない会話をし、2人でババ抜きもした。「2人でババ抜きなんて…」と思ったが、別段ババ抜きが嫌いというわけでもなかったので付き合うことにした。

 そうして自分でも驚くぐらいゆったりとした時間を過ごしていると、彼女が「あ、そうだ」と言い、クローゼットをごそごそとやりだした。日付が変わる少し前のことだった。慣れた手つきで僕のクローゼットを物色する彼女を見ながら、その肢体のしなやかさに気付く僕に彼女は「あった」と言いながら振り返った。その手にはジグソーパズルが握られていて、僕もそれを見てはっとした。

 そのジグソーパズルは東京タワーを含めた夜景のものだった。2人でやろうと言いながら買いつつも、とうとう組まずじまいになっていて、僕は存在すら忘れていた。

「よし、完成させちゃおうよ」 

「別にいいけどさ、こんだけほったらかしにしてたんだから1ピースくらい無くなっててもおかしくないよな」

「その時はその時。はい、テーブルどけて」

 それから僕らはどこどこの夜景は綺麗だったとか、あそこに行ったのは冬だった、いや夏だったとかいう話をしながら着々とパズルを組み上げていった。そうして2時をまわる頃、「ちょっと休憩」と一言吐いて彼女は眠っていまい、すやすやと眠る彼女を横目に微かな睡魔を抑えながら僕はパズルを組み上げていった。「ここは難しいから」と後回しにした夜の空の部分以外は大体組み上げた、というところでいつの間にか強くなっていた睡魔に僕も負け、眠ってしまった。

 

 




 翌朝起きると、ほぼ完成した東京の夜景が朝の日差しに照らされていた。“ほぼ”といったのは、1ピース分だけ足りないからだった。「やっぱり言ったとおりだ」と思いながらまた「“夜景を照らす朝の光”だなんておかしなことだ」とも思う。煙草に火を点けコーヒーをすすり一息置いていると、テーブルの上の綺麗にたたまれた紙切れに気付いた。僕の目にはそれがとても不自然に映った。たたみ方が丁寧すぎたからか、あるいは朝日にその白さが際立ったからかはわからないが、とにかくその紙切れに“生活感”はなかった。紙切れを開くと紺色のピースが落ちた。そしてその紙切れには「最後のピースはとっておいたよ」とだけ書かれていた。僕はピースを拾いながら、ただただ「ずるい」と思った。彼女はいつも僕の都合はお構いなしだ、と。

 僕は結局そのピースをはめることができなかった。そのピース、最後のピースをはめてしまえば、本当に全てが「過去」になる気がしたからだった。僕らが過ごした時間がまるで1枚の写真のように、もう永遠に動かないものになると、ピースを眺めながら感じた。

 


 なぜ僕は、昨夜彼女に「どうして」の一言が言えなかったのかと後悔した。その一言はまるで、作りかけのパズルを蹴散らすことのように思えた。ピースを蹴散らしてしまえば、そのパズルが完成することはないだろう。しかし彼女はそれを望んでいないということも同時にわかっていた。だから僕は蹴散らすことなく、彼女の思いの通りにひとつひとつ“完成”に近付けたのだと思う。彼女は平穏な終わりを望んだ、僕もそれに同調した、それだけのことだった。

 


 だからといって本物のパズルまで僕に押しつけていくというのはあんまりだよなと思いながらさいごのピースを手のひらで転がしていた。「ああ、パズルを入れる額、どこに売ってるんだろ」などと考えていると、突然涙が溢れてきた。

 最後の最後、そのピースの裏には「ありがとう」書いてあった。

 僕は小さく、「おめでとう」と呟いた。

読んでいただきありがとうございます!

今回この作品を通して伝えたかたった、考えてほしかったのは、「別れって、なぜああも独特な切なさがあるんだろう」ということです。

まだまだ拙い部分だらけだと思いますが、アドバイス、感想等々いただければと思います。

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