名 前
ようやく主人公の名前をだせました笑
1度目のトリップは中世ヨーロッパ、R.P.G風といえば、2度目は現代ファンタジーといったところ。
魔法が使える世界だ。
都会みたいだったけれど、言葉は懐かしの方言だった。
通貨は、紙幣の人物がなぜかサムライだったということを除けば硬貨はあまり変わらない。
それと変わっているといえば、子供とお年寄り以外は、力の気と書いてリキギなる魔力(許可制)によって空を飛んでいるということか。
目のあたりにして、少年と宇宙人が自転車使って空を飛んでいる映画の名シーンと、魔法使いの生徒たちが車を運転してたシーンを思い浮かんだのは、仕方がないかもしれない。
「それ」以外は、元々住んでいた世界と変わりがないから抵抗なく受け入れられたけれど、「それ」があまりにもぶっ飛んでいるから、やっぱり慣れるのに苦労した。
あたしがトリップして、まず目に飛び込んできたのは、高校生ぐらいの男子だった。
実際は中学生で年下だったけれど、やたらと背が大きいし、ものすごく偉そうで態度もでかかったために、そう思っていただけだ。
開口一番、奴は言った。
「アクマ、俺と契約しろ」
はい?
悪魔??
トリップしたということはすでに理解できている。
けれど、やはり状況はわからないので、あたしは混乱しているままだった。
というか、人に向かって悪魔はないだろう悪魔は。
「おい、返事くらいせえ」
「え……いや何、何故、どういうことですか??」
奴はため息をついて、あたしを指さして横を見る。
「先生、これどうすればいんの?」
よくよく周りを見渡せば、体育館のようなところで、あたしを中心に、奴と先生らしき人物を先頭に、それを囲うように多くの男女と様々な動物がちらほらと集まっていた。
後に聞いたが、そこは実習室で本当の体育館はその倍ある。学校の土地、半端ない。
「そうですね……人型を召喚できたことは大変素晴らしいですが」
先生は、あたしを見やると、にっこり笑って、あたしを呼ぶ。
人型も何も、あたし人間なんだけれどなあ。
「君、召喚紋(魔法陣のことらしい)の外、出ることができますか?」
何のことだかわからず、多少動きづらいものの円陣の外へ出てみる。
すると奴は、「うあああああああ!!」と雄たけびを上げた。
怖。
いや、なんだか悔しそう??
「とても惜しいですよ、皆川くん。本来ならば拘束、意思操作も兼ねる召喚紋が、逆にこれではアクマに反撃をくらうことになるでしょう」
ちなみに皆川くんという奴は、円陣と内容はちゃんと書けたが、その中身の紋を雑に書いてしまったために効果が得られなかったとのこと。
あたしを呼びだし牢屋に入れさせたことはできたけど、鍵をかけなかったために結果あたしは逃げることができた、というわけだ。
「先生、万が一そうなった場合どうすればいいですか」
真面目そうな女子が手をあげて、質問をする。
「そうならないように召喚紋は丁寧に書くことと教えたはずですが……いい機会ですのでお見せしましょう」
そう先生は苦笑して、あたしを見ながら、手をいくつかの形に組み替える。
「いずれ習うことになりますが、これは上級編ですので補足程度にとらえていただければ幸いです」
忍者が何かの術をやるみたいだなあとぼんやり思うと、小さな円陣が急に現れ光りだし、あたしを囲んだ。
「名前を伺っても?」
ばかに丁寧なのに、それは命令のようだった。
何か言葉を発しようとしたけれど、それは結局名前にしかならなず、抵抗もむなしく全て言ってしまう。
「まき、む……ら……はな……き」
「契約者・竜央、アクマ・牧村花姫、これより契りを結ぶ」
先生が言うなや否や、囲まれた光は周囲に風と共に放たれる。
リューオーなんて政治指南役のお客様の名前が聞けるって、すごい偶然だな。
そんなことを思いながら、あたしは気絶した。