出会い
今思えば最初のトリップはこんな感じ。
その日、なんとなくコンビニのフライドチキンが食べたかった。
学校帰りに新商品のお菓子いくつかと兄妹分のフライドチキン、それからミルクティーの500mlペットボトルをふたつ買った。
学校から自転車30分・徒歩1時間な我が家へと続く道は、多くの車は通るけれども人は通らない。
そういうことをあまり気にせず、フライドチキンひとつつまみ食い(もうすでにお腹が空いていた)、調子に乗ってふんふん鼻歌交じりで歩いていたら……はい、別世界。
普通に歩いてトリップしたものだから、状況がわからなかった。
当然、頭はクエスチョンマーク。
とりあえずフライドチキンを食べ終える。
?
はて。
いくら田舎とはいえ、住宅地。
コンクリートの道を歩いていたはずだったのが、いつのまに生い茂った森にいるんだろう。
前後左右、あたりを見渡して森。
何でこうなったのかわからず、とりあえず叫んでみる。
言葉の意味もない驚愕。
多くのカラスらしきものが、あたしのその叫びのせいで、カアカア鳴きながら逃げ飛んだことを、未だに覚えている。
初めはまだどこか瞬間移動したのかなあと、いとこの兄ちゃんが持っている漫画を思い出しながら、なんでかわかんないけど、すごい体験したなあと前向きな考え方だった。
というか余裕ぶっこいてた。
瞬間移動だったら言葉はわからずとも、どうにかしてお金貯めたり、親に連絡すればなんとかなるよね!と頭にちらりとよぎっていた部分があったからだ。
けれど、瞬間移動も何もそうじゃないと気付いたのは、植物を始め昆虫や動物が見たこともない色やカタチをしていたのを目にしてしまったせい。
ああ、どうやって帰ったらいいんだろうと落ち込んだのはいうまでもなく。ぐちぐち。
一週間で森を抜けだし、途中羊と犬を掛け合わせた、小さい動物になつかれ助けられて。
近くの村の人を発見すると、その人は狂喜乱舞。
後で聞くと、その動物は異世界の案内人(動物?)とのことで、動物を見るなやいなや異世界人だとわかったらしい。
その世界は、異世界と行き来は当たり前だという世界だった。
よくわからないまま連れて行かれ、後に幸いにも保護者がわりとなる領主のおじさんと出会う。
後々のことを思い出すと、1回目の異世界はそのおじさん夫婦と村の人たちが親切で、ひどく恵まれていたのではないかと思う。
最初言葉はわからず大分聞き取れるようになってはきたけれど、たぶん未だにあの言葉は片言かもしれない。
ときどき、笑われることもあったしなあ……。
しばらく領主のお手伝いをしながら、生活。
もうすぐ1年になるだろうな、というときに国の政治指南役とその団体が訪問。
それがあの男、リューオーとの出会い。
リューオーはどう思ったのかわからないけれど、あたしは、偶然芸能人を見たときのような感覚だった。
わーイケメンだーなんて、意外と面食いだったんだなあと自身に苦笑しながら、そのときは紳士的なひとだと印象を受け、お客様としてみていた。
次元というんだか、世界というんだか、そういったものを、まさか超えて何度とも逢うなどと思うはずもなく。
3泊リューオー率いる団体が滞在していたところで、あたしはどろん。
それは床が水になったような感覚だった。
勢いよく水中にとびこんだ感じで、あたしは水にどぷりと落ち沈む。
仄暗い底は、蛍のような淡い光からやがてまぶしい光を放ち、そうしてまたいつのまにかトリップしたのだった。