廊 下
リューオーの笑顔を見て、頭が痛んだ。
3度目の世界のときのように、偽の記憶がまた一気に頭を巡る。
変わっているところはリューオーがいるってことだけで、あとは今までどおりだった。
お盆や正月にときどき会う従兄弟やはとこに、“竜央”としてリューオーがいりまじっている。
あのお姉ちゃんが優しくしてくれた、同い年のはとこと喧嘩した、遊んだなんていう思い出が、ところどころリューオーになっていた。
これが本当なのか嘘なのか、よくわからなくなっていて正直混乱している。
……つまり今のリューオーは、あたしより2歳上の親戚で、この春大学進学のために居候している……ということになっているわけか。
「今度は、あっさり逢えましたね」
はて、どういうことだろう。
少年のときのリューオーに、さっき会ったばかりだけれど……今度は?あっさり??
頭は疑問でいっぱいなあたしに、すかさずリューオーは答えた。
「……前回2年程いまして、地方に行った先に、あなたに出逢いましたから……そう思っただけです」
そして思いだしたかのように、リューオーは一旦部屋に戻り、持ってきた鞄を、あたしに渡す。
……最初のときまで持っていた鞄だ。
鞄とリューオーを交互に見る。
最初の世界のときにいたリューオーが、今ここにいるってこと?
んん??
「前の世界で、あなたが置いてきたという鞄を持ってきたのですが……余計なお世話でしたか?」
あたしは首を横に振って、お礼の言葉を何度も言った。
2度と戻ってこないと思っていたから、余計に嬉しく感じる。
ふと、姉の声が聞こえた。
そういえば夕食の用意ができたからって、リューオーを呼んだんだっけ。
「さて、それじゃあ夕食を食べに行きましょうか?」
「……ごめん、あたし食べてきたばかりだから、いらないの……部屋にいるって、お姉ちゃんに言ってもらってもいい?」
「はい、わかりました」
リューオーに敬語じゃないのは、あたしに近い歳というのと、よくわからない記憶が、そうさせているためだ。
リューオーじゃない誰かとの思い出だとわかっているはずなのに、彼との思い出だと何故か、納得している自分もいる。
思わず彼を引きとめ、慣れ親しんだ家族や友達と同じように話をしてしまい、それに気づいて、タメ口だったことを謝る。
リューオーはきょとんした顔をした。
「ちゃんと会話をしたのは1度きりですが……そのときあなたは、素のままに話してましたよ?」
小首を傾げ、微笑んだ。
……ああ、そうか。
「そうだね、夕食、引きとめてごめんね」
「いえ、お気になさらず……では失礼します」
リューオーの言葉に気付いた。
ちゃんと会話したのは、2度目の世界以来だ。
今より随分と大人のリューオーと。
時代錯誤。ならぬ、人物?または世界錯誤。
今より前の、過去の彼と、逢ってはいても会話した記憶はない。
リューオーが言う、その“1度きり”は……あたしにとって、未来の話?
近いうちにまたトリップするかもしれない。
そんな、まだわからないことに、あたしは恐怖を覚えた。
拙い文章に、見ていただきありがとうございます。
無駄にシリアスにしようとしたり、長くしようとしたりで、今回5度目の世界は更新が滞り気味……。
元々住んでいた世界の主人公には申し訳ないですが、早く抜け出したいと思っているのですが……主人公、嫌々で行きたくないようです。
泣き顔が、見たいのに……←
ではでは、次回も宜しくお願いします。