少 年
ニコはコーヒーゼリーについて、熱心に、まくしたててしゃべる。
「あれは我が、シュシンに頼みこんでようやく手に入れた代物だというのに……たっぷりのくりいむとやらと共に、ぐちゃぐちゃにつぶし、苺と一緒に食べるのが、我の楽しみだったというのに……それを貴様!!」
「あれは何もせずそのまま味わうのがいいんだろう、子供が粋がるな」
「シュシンもそうやって召し上がっているのだ、我は子供ではない! 苺を持ってくるまでに何も、全て食べることないだろう!? 落ち転がった苺が、あれほどまでに虚しいとは感じなかったか!!」
「もったいないことをしたもんだとは思ったが」
「ええい黙れだまれえ!!」
……不意打ちの、それも食べ物に関しての出来事は、腹が立つもんなあ。
買いだめしていたお菓子を知らない間に、兄に食べられたことが何度かあるため、気持ちはわからなくはない。
それから、ここでも思うことがひとつある。
……だからその4足で、どうやってコーヒーゼリーをぐちゃぐちゃに潰したと。
くち……くちなの?
口で道具を使って、手紙を書いたりゼリーをつぶしていたりしていたの??
ニコについて、あたしの頭はクエスチョンマークでいっぱいだった。
そんなあたしのことはさておき。
ニコはなおもコーヒーゼリーという食べ物が、いかに素晴らしいかを語る。
男はうんざりした表情で、深く、それも長く、溜め息をついた。
「はあ……気が滅入る」
「ならば帰るがよい、わざわざここまで来てご足労かけたな」
「そう言うんなら戻れ、上の命令だ」
「フン、少なくともシュシンは我の家出に賛成したぞ? 誰も文句は言うまい」
どこか得意げのニコを見て、男は何かを察して、シュシンさんに八つ当たりするような言葉をぼやいた。
ニコは渋い表情を浮かべる。
「おい。シュシンを侮辱するなよ、シュシンは我を思ってだな」
「いや、これ幸いと大方仕事を怠けたいがためだろうよ。はあ……相解かった、そのコーヒーゼリーとやらを手にすれば戻るのか」
「それでは気が済まん、我がたくさんの好きな菓子を存分に堪能するまでは」
「……調子に乗るなよ?×××」
ニコに妥協しようと諦めたような表情の男は、ニコを睨み凄みを利かせた。
……怖い顔。
最後は何を言ったのか、わからなかったけれど。
男の言葉を聞いたニコは、そして即座に謝った。
……終わりを告げるゴングが、鳴った気がした。
「花姫!」
ちょうどそのとき、誰かが呼ぶ声がした。
中性的な、その声が聞こえた方向のあたりを見渡し、その主を探す。
「花姫!!」
顔がやけに整った少年だった。
暑いし走ったからというのあってか汗ばんでいる。
その少年が、あたしを呼び、そして服を掴む。
「え、リューオー?」
誰かは、なんとなくわかっていた。
けれどリューオーだなんて信じられなかった。
今までのリューオーより、ずっと幼い。
少年のリューオーに驚いたというのもあり、思わず問いかける。
同時に、光が見えた。
2度目の世界でなった、アクマのときとは違う光。
丸く淡い緑色の小さな光が、あたしを包む。
ああ、またトリップか。
「……なんとまあ、酷なことをする」
ぽつりと呟く男の言葉は、今のあたしには聞こえない。
ただあたしは、リューオーを見ているだけ。
「花姫、身内が迷惑をかけた……また会おう」
男……結局名前はわからなかった……の声がそう聞こえた瞬間。
あたしの世界は、黒くぬりつぶされる。
また会おうって、どういうことだろう?
今回長めですみません。
本来であれば『対 面』と、この話を一つの話にするつもりだったのですが……うまくいきませんでした(^ω^;)