瀕死。
死にそうな空腹感と激痛で目が覚めた。
どうやらまだ死んでないらしい。つーか、正直こんなに苦しくて辛くて気持ち悪いのに、死ねないって拷問なのかもしれない。
微かに赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
赤ちゃん殺さないで
好きで女の子に生まれて来たわけでも、あの両親のもとに生まれて来たわけでもないんだから
殺さないで
今のリュウが受け入れてくれるかは、分からない。
けれど主人公に過去話をしたリュウは、咎められたがっていた。
他の奴らはともかく、人として赤ん坊だけはっ
気を紛らわすために祈っていると、口の中に無理やり飴玉っぽい物を突っ込まれた。
僅かに空腹感が薄れる。
喉が勝手に鳴って、嚥下してしまう。
暫くして、再び飴玉っぽい物を突っ込まれた。
それもごくりと飲んでしまう。
それが何度か繰り返され…そして声が聞こえた。
「……治らないな…」
「ちょっと待て、なんだこの坊主の許容量…っ」
リュウとリラックの声がしたような気がするが…再び飴玉を突っ込まれ飲み込む。
なんか喉をするっと通っちゃうんだよな…
「うぉおいっ、嘘だろっ、せめて意識取り戻してくれっ」
「……リュース」
「いいから、あげなさい。リュウが私にと渡してくれた魔宝石だ、いつかお前のために使おうと思って溜めていた物をここで使わないでどうする」
静かだが威厳に満ちた声が響いた。
「…お前、どんだけ義父に貢いでんだよ…」
「お前が言えるセリフか」
空腹感が薄れてきていた。
飴玉を突っ込まれては飲み干し…を、繰り返し…ふと痛みが薄らぐのを感じる。
「おしっ、リュウ」
何となく意識が働きだした時、口の中に飴玉では無い物が入ってきた。
ん?
飴玉じゃない?
ぬるりと生温かい生き物が、口内を弄る。
んー?
なんだこれ、なんか覚えがあるような?
と、何となくそれに応えるように、確かめるように舌を絡めた。
あ、なんか気持ちイイかも…
痛みから気を反らすかのように、その感覚に夢中になり…
暫くすると、それは慌てた様子で逃げてった。
「リュウ?」
「おい、お前…弟だろ?」
「…っ、リラック、貴様もすれば分かる」
「おいおい、俺は男は範疇外…いや、睨むなよ。うー、相手は子供、子供、人工呼吸っ」
また、生温かい生き物が口内に入ってきた。
喜んでそれに吸いつく。
「っ」
「リュース、ちょっと手洗いに行ってくる。戻ってくるまで、リラック押さえこんでて」
「っ!?」
「すまないね、リラック。私はあの子のお願いに弱いのだ」
逃げ出そうとする生き物を、舌で追いかける。
何だか騒がしい気配がしたが、気持ちよさと空腹が薄まる感覚、痛みの消えてゆく感覚に夢中になって気にならなかった。
いつの間にか朦朧としていた意識は再び落ち、そして今度こそちゃんと目覚めた時、シャルの泣き声と、繰り返し与えられるキスの感覚に気がついた。
「ん?」
「リュクヤっ、リュクヤ、気がついたのっ?」
「シャ、ル?」
目を開けても、なにも見えなかった。明るいのだろうか…目の前は白い靄に埋まっていた。辛うじてシャルらしき影は見える。
「よかった、リュクヤが死んだら、ぼく…っ、ぼくっ」
ちゅくっと唇を塞がれる。
泣きながらなので、息継ぎで何度も口づけられることとなるが、抵抗は出来なかった。
だってシャル、めちゃくちゃ心配してくれてるし、泣く子には敵いません。
「よう、坊主…気がついたか」
リラックの声がして影が増えた。
「ここは、どこ、んぅ」
「あー、ココはお前の兄ちゃん家だ。一旦は塔に帰ったんだが、お前の家が強盗に襲われたのを知ってな。お前は知らなかったようだが、魔術師の兄がいたんだよ。その人を引き取って育ててくれた人の家だ…ちなみにシャルはまだ塔の所属手続きが終わってないから、お前の治療のためにも特別に連れて来た」
同時に頭の中で声が響いた。
『詳しいことは後で、今は話を合わせてくれ』
うわーもしかして、心話って魔術だろうか?
とりあえず、分かったーという意識を向けてみた。
優しく頭を撫でられた。
まぁ、話を合わせるもなにも、まともに話す暇がないくらい唇塞がれてますけどね。
そういえば赤ちゃんは大丈夫だろうか?
状態・瀕死
魔術師体質であれば、よほどの怪我でなければ体内保有の魔素量ですぐに完治したり、助かる。しかし、瀕死状態で完治に魔素量が足りないと、快感で魔素吸収も不可能となり死ぬ危険は高い。
濃厚な魔素を含む魔宝石などを飲ませれば助かる確率は高い…が、魔宝石は高価なので一流魔術師以外が装備できる可能性は低い。
魔宝石・濃厚な魔素を含んだ宝石。
凶悪な魔物から稀に取れる。美しく高価であり力を含んでいる。