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兄と妹。

リラックにシャルを任せて、俺は慌てて家へと帰った。

だいぶ遅くなってしまったので、家の前までリラックとシャルは送ってくれた。

「両親に遅くなったわけを俺から言おうか?」

「いえ、平気です。誰も気にしませんから」

「リュクヤ…」

「元気でね、シャル」

「うん、ぼく待ってるから」

二人の影が見えなくなるまで見送って、俺はため息をついた。

確かに家族は俺が遅くなっても気にしない…が、夕飯は無いか残り物になってるだろう。

シャルとの人工呼吸で、普段よりは空腹感が薄いのだけが救いだ。

門のドアを開けて…家へ入る。

一応防犯の魔法が掛かっていて、この家の主の血縁者は自由に出入りできるのだ。

そうでなかったら、俺の出入りは睨まれていただろう。

家は…何だかやけに静かだった。

そういえば、今日は生まれ変わってから一番喋った…と、いうか人と交流をもったなと思う。

これからまた、疎ましく…いない者として扱われる日々が続くのだと思うと、胸が苦しくなった。

とりあえず、ご飯余ってるといいな…と、食堂へと向い…まだ明りがあるのに驚いた。

人の気配もする。ドアを開けて…溢れて来た血の匂いに身が竦んだ。

父親が俺を見て、笑顔になった。

初めて見るその表情は、醜悪で不気味だった。

「よく、帰ってきたな。さぁ、こっちに来い、お前で最後だから」

その父親を見下ろしていた男の視線がこちらを見る。

「これで全員か」

その顔立ちには見覚えがあった。ゲームキャラの中で、アクラスの次に気難しい…自分を売った家族を惨殺した過去をもつ、不治の病に冒された光の精霊に愛されし子…いやいや、まさか

混乱していると、父親は自分の腹を刺したままだった長男の首から、ナイフを引き抜いて立ちあがった。

「さぁ、くるんだ、妹の命がかかっているんだぞ?」

「い、もうと?」

ただ一人無傷で立っている青年の腕には、赤ん坊が抱かれていた。

テーブルには見たことも無いご馳走……

えっと…いつのまに?

母親が妊娠してたことも出産したことも、知りませんでしたよ?

父親はごふりと血を吐きだすが、こちらへ向ってくるのを止めない。

過去話で聞いたことがある。

裕福な商家の三男に生まれた彼は、しかし魔術師体質で両親が望んでいたのは女の子だったため、七歳で娼館へ売られた。

訳が分からず凌辱される日々を送っていたが、ある日そうゆう趣味の貴族に殺されかけ精霊の力を振るい、娼館を潰してしまう…そして混乱している子供を、騎士リュースが保護し後ろ盾となってくれ、塔へと所属することになる。

騎士リュースの養子となった彼は、義父に相応しい息子になれるよう力をつけ、しかし自分を捨てた家族への恨みを捨て切れず…待望の娘が生まれたと喜ぶ家族を一人残らず殺したのだ。

もしかして…もしかすると……

俺は、何とか硬直していた体を動かして、ドアを閉めようとした。

「待てっ!リュクヤっ」

あ、父親に名前呼ばれたの、名付けの時以来…と、ちょっと現実逃避なことが浮かんだのと、赤ん坊を抱いていた無表情だった男の表情が変化したのは同時だった。

目を見開き…それからそれは怒りに染まった。

「おい…リュクヤという名なのか、その子供は」

父親の体が、彼に蹴られて転がった。

「ヒッ」

「貴様…呪って捨てた子供の名前を、なぜまたつけた?」

「ヒィィ、来るな、来るなっ、リュクヤっ」

バチリと彼の周りで光が弾けた。

「同じ、なんだな?俺と。また、呪って捨てるつもりで名付けたのか?」

「やめ、助け、約束が…っ、息子達を始末したら私達と娘は助けてくれるんじゃ…っ」

「馬鹿だな、そんな約束…守るわけ、ないだろう?それにお前の妻は四男と相討ちして、もう死んでる」

「助けっ、リュクヤっ」

「俺の名前はリュウだ」

ドオォォォンッと、雷鳴が響き目の前が真っ白に染まった。





気づくと…赤ん坊の泣き声がした。

リュウ…間違いなく、ゲーム登場キャラだ。いきなり遭遇率高いな…と、現実逃避気味に思う。

目を開けたつもりなのに、目が見えない。息がし難い。体が痛くて動けない。

…昼間の水の飛礫など、比較にならないダメージを負ったっぽい。巻き添えで。

あ、これ死んだなと思う。いくら魔術師体質でも、治癒力追いつかないだろう。

「…しまった、こいつが生きてる間に、目の前でバラバラにしてやる予定だったのに…」

たぶん知らなかった兄、リュウの声と赤ん坊の泣き声が聞こえる。

どうせ死ぬなら…

「ころ、さないで」

擦れた声が何とか出た。

「ん?まだ生きてたか…」

「あ、かちゃん、殺さないで…」

生まれたばかりの子供に罪はなかったのにと、ゲームの中で彼は苦しんでいた。

不治の病も、血縁者の血で薬が作れるのだ。

彼は赤ん坊を殺した罰だと、病を受け入れていたが…

「おれ、ころしていいから…」

たぶんもうすぐ死ぬ、痛くて苦しいのが何だか気にならなくなって、意識が重く沈み込むような感覚がおそってくる。

だから、んなことが言えるんだけど。

それに妹って、前世からちょっと憧れだったし…

「おね…が……」



まさかこんな死亡エンドが待ってるとは思わなかったなぁ…と、最後の意識に浮かんで消えた。






ゲームキャラ・リュウ

不治の病に犯された光の精霊に愛されし子で、一流の魔術師。元々は七歳で娼館に売られた身で…幼さゆえ訳も分からず凌辱されていたが、ある時そうゆう趣味の貴族に殺されかけ娼館を精霊の力で潰してしまう。混乱していたリュウを騎士リュースが拾ってくれ、後ろ盾に…信頼していて好きな人間は義父である騎士リュースだけで、基本人嫌い。主人公とくっついても結局病気で死んでしまう。


リュウ・実はリュクヤの存在を消されていた兄だった。

両親に待望の娘が生まれたので、幸せの絶頂から絶望に染めるため復讐にやってきた。まだ病にはかかっていない。本当は両親を殺す前に、目の前で待望の娘をバラバラにする予定だった…が?


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