精霊の力。
「あ~、気づいてくれて良かったよ、坊主魔術師体質だったんだな」
緑の髪に黒い目、無精ひげを生やした青年は、一応魔術師の塔の礼服であるローブを羽織って…俺達と目線を合わせるようにしゃがんだ。
「何があったか、分かるか?そっちの坊主は警戒心が強くてよぉ」
シャルが俺をぎゅっと抱きしめる。
…あぁ、確かに警戒心を向けているのが分かる。
「シャル?」
ぽんぽんと抱きしめる腕を叩いた。安心させるために。
「リュクヤ…っ」
「ありがとう、シャルと精霊が助けてくれたから、もう大丈夫」
泣きそうなシャルの頭を撫でる。
「おーい、無視かぁ?」
いや、順番からいって、シャルに礼を言い安心させるのが先だろう。
「リュクヤ…ぼくのこと、こわく、ないの?」
「なんで?」
「だって、これ…ぼくが」
建物半壊…確かに凄い力だ。人を燃やしたのも怖かっただろうに、この現状を目の当たりにしたら子供は怖いだろうし、シャルの頭の中では母親からの「化け物」という言葉がこびり付いているだろう。
でもなぁ…
「全然怖くねぇよ、だってシャル、俺のために怒ってくれたんだろ?俺に対する好意の大きさじゃん、シャルと精霊の」
ちっちゃい子供に好意を示されて、嫌える大人がいるだろうか?
力に怯える大人なら、いるかもしれないが……はっきり言って、俺はそうゆう人間にはなりたくないのだ。
それにな、正直実質的な力よりも…我が身の危険で言えば、娼館コースの方が恐ろしい。
「ありがと、すっごく嬉しいよ」
よしよしと頭を撫でていたら、闇の精霊の影蛇がシュルリと寄ってきて、俺とシャルの手に頭をひと擦り
してシャルの影へと潜った。
…気のせいでなく、精霊の力増してるな……
俺がシャルを拒絶しなかったことで、シャルの中の精霊に対する怯えも消えたのだろう。
このまま育ったら、こいつ一人でアクラスに勝てるんじゃねぇ?二種の精霊に愛されてて、しかも一種はアクラスと同じ闇の精霊だ。精霊を道具としてしか見てないアクラスよりも、精霊と相思相愛な術者の方が強い…ぜひともこのまま育ってくれるといいな~、貞操的な意味のバットエンドが一番恐ろしいが、世界が滅びるのも勘弁だし。
「…あ~、そろそろこっちいいか?お兄さんの名前はリラック、塔の魔術師で講師を務めている…って子供に言っても分からないか…ともかく、ここの建物を管理するとこから来たんだ、何があったか聞きたい」
闇の精霊の結界は無くなったけれど、不用意に近づかず、声をかけて来た青年に俺は苦笑した。
やっぱり、ゲームキャラと同じ名だった。
ちょっとラッキーだ、のんびりとした食えないおっさんキャラだったが、彼は心の底から女好き…主人公に落とされるまで、ノンケキャラ。そして闇の魔術師。
男には冷たいが、実は孤児院出身で子供好き(健全な意味で)意外と世話好きでもあるのだ。
俺は、シャルと出会ってからのこと、協会に来てからのことをちゃんと話した。
「なるほど、すげぇな坊主」
俺の話を聞いて、暫くしてしみじみとリラックは感嘆の声を零した。
確かに二種の精霊に愛されし子なんて、いるとは思わなかった。
精霊は一種でも強力な力を持っているのだ。魔術師と素人の精霊に愛されし子が戦っても、楽勝で精霊に愛されし子が勝つくらいだ。一流の魔術師なら、素人の精霊に愛されし子であれば何とか押さえられるだろうが。
だから塔に所属してなくても、天才的な頭脳で一流の魔術師の域に達した闇の精霊に愛されし子のアクラスが、世界を滅ぼせるんだか。
「いや、そっちの坊主もすげぇが、お前良く知ってるし分かったな」
「え?」
リラックの視線が俺を写しているのに気づいて、目が丸くなった。
「普通精霊に愛されし子だって気づかねぇし、魔術師体質のことだって…身内に魔術師いるか?」
俺は首を振る。
魔術師協会以外で、俺と同じ体質の人間に会ったのはシャルが初めてだった。
あんな怪我を負って、第一声が「おなかへった」なんて言う人間は、高確率で魔術師体質だろう。
「一般にはあまり知られてねぇんだよ、一昔前に血迷った一般人が、魔術師体質の子供を浚って不老不死の実験材料にする事件があってな……あんまり広められてないんだ」
うぇえ、マジですか…
「だからよく分かったなと」
「魔術師の塔に入りたくて、勉強してますから」
「お前、何歳?」
「えっと…四歳で、す」
……子供っぽくないか、確かに。
でもずっと放置生活だから、子供っぽく振る舞う必要なかったし……
「七歳になる前に、魔術師の塔に入りたいから…」
「七歳になる前にって、切実だなぁ…」
「娼館には売られたくないので」
リラックは頭を抱えた。
四歳の子供が…どうゆう親だ…とか、ぶつぶつと呟いている。
シャルは俺を凄いと評価したリラックを気に入ったのか、何だか嬉しそうだった。
話の半分も分かってないようだったが…
うんこれなら、安心だな。
「リラック、シャルのことお願いできますか?」
「ん?…いいのか、俺で」
「正直、ここに勤めていた窓口係の魔術師に任せるのは不安だったんです。でも、あなたならシャルをちゃんと保護してくれそうだから」
「リュクヤ…」
袖を引かれ、シャルを見てにかっと笑う。
「魔術師も人だから、どうしようもない奴らもいれば、信頼出来る人もいる。俺はリラックを信頼出来る人だと思ったから、シャルはどうかな?」
シャルは俺を見て、リラックを見て、小さく頷いた。
「うん、ぼくも、しんらいする」
リラックは耳を赤くして「負けた」と呟いた。
「分かった、二人の信頼に応えてやるよ。ここも建て直したら、ちゃんと信頼出来る奴を置く。魔術師になるための相談とか出来るようにな……他のとこも抜き打ち検査しなきゃな…」
歩み寄ってきたリラックは俺達の頭を、やや乱暴に…けれど優しく撫で回して苦笑した。
ゲームキャラ・リラック
魔術師の塔の講師で、闇の魔術師。ゲームの中では珍しく女好きキャラ…緑の髪に黒い目、無精ひげ。男には冷たいが子供には優しく、意外と世話好き。孤児院出身で、給料の半分は孤児院に寄付している。
主人公とくっつくと、講師をしつつ二人で孤児院経営を始める。
リラック・ゲームキャラとの相違はあまりない。
この世界にゲーム主人公が現れるかどうかは謎なので、その辺の予定は分からない。
シャルの保護者となる予定。