七歳。
研究馬鹿師弟と知り合って、からは暫し平和で単調な日々が続いた。
シャルとステフは仲悪いまんまだけど、それが悪化することもなく。
睨みあうのも一種の日常として慣れたし。
数回貴族が俺を攫おうと画策したらしいが、塔の関係者と双子によってさくっと防がれたらしいことは全部終わってから報告された。
その期間を人は料理革命浸透期と呼んだ。
これまでの料理といえば、王宮でも見目の華やかさと庶民では口に出来ない高級食材が、違いとしか言いようがなかった。
確かに手間は増えたが、料理人達はそれを喜んでいた。
いままで仕事は作業だった。
一般市民の作る料理と、それを仕事とする料理人の作る物に、大した違いはなかった。
現在は違う。
俺の調理した物を口にした彼らは、まだ少年とも言えない子供の俺に尊敬と敬愛の念を抱いたという。
俺の講義は発想力を刺激し、一通りの基本を習った者達はそれぞれにレシピを作り出したりもし始めてもいた。
勿論、手間を嫌って新たな料理を倦厭する者達もいる…が、それらの人々は料理人という職種から追い払われることとなった。
……追い払われた料理人もどきに、俺は逆恨みされていて…でもなー、同情出来ねーよなぁ?習えば習えるようにしているのを放棄したんだし…
そうゆうことで一段落した現在も、身の危険からは完全に逃れられなかったが、仕方ないと諦めた。
ご飯は美味しい方が嬉しいしな。
俺は七歳になっていた。
料理の講義は勿論続けているし、たまに料理人達に助言を求められたりもしていた。
でも、俺の料理の腕だけで狙われるという時期は、無事脱したと考えていいだろう。
双子の護衛は完全に専属になっていて、一流魔術師まであと一歩の位置につけている。
シャルは魔法騎士となったリュウと入れ替わるように、塔所属の一流魔術師となった。
勿論、塔を出たリュウの代わりに俺の後見人となっている。
一緒に生活できて、日々楽しそうだ。
まぁ、俺も知識と技術だけなら、一流魔術師の資格を取れそうなんだけど……
ただ、この年齢と料理講師の立場があって、まだ塔ギルド登録と実技講習が取れてないので、最速で一年か二年は生徒のままだろう。
一流魔術師となる条件の中に、ギルド出張がある。いまだ開発されていない土地で危険な魔物や魔獣を退治し、それらの素材を採取したり、貴重な食材や、鉱物、薬草や場合によっては毒草などを採取する…そんな冒険者達のギルドに、出張して助っ人となるのが塔ギルド所属の魔術師だ。
塔ギルドの魔術師は、全員塔の生徒で、そこで最高レベルにならないと一流魔術師の資格は取れないのだ。
そして、ギルド登録も七歳からなのだ……つまりシャルは二年で…いや、あまり外に出るのは……むしろ俺から離れるのが嫌なので、ぐだぐだとやりながら…でもリュウが塔を出て王宮所属になる前に、その条件をクリアしたのだった。
実質は一年かからずに最高レベルへと達したんじゃないだろうか…
相変わらずの天才…シャルが俺の七歳の誕生日に作ってくれたケーキは、美的センスもあって、元の世界だったら世界コンクールでも優勝しちゃいそうな域に達していた。
クリームと果実の花々とか飴細工の蝶や鳥とか…俺、流石にここまで芸術的には作れないよ…
そして……七歳を迎えてから、自身に変化を見つけた。
胸の中央……そこに、魔法陣のような痣が、うっすらと浮かび上がってき始めたのだ。
普通の魔術も普通レベルに発動出来るようになっていたが、少しずつ、焦り始めてきていた。
ゲームでも見たことも聞いたことも無い現象
少しずつ…理想通りに、まるで『日本語魔術』のように、発動出来るようになっていく一般の魔術
そして魔素
一定期間過ぎると、飢餓状態になるまで『どこか』へ消え失せてしまう魔素
気のせいか、目や髪に紺碧のような艶が宿り出したようにも思えた。
胸の痣から、何か変化はないかとずっと気にしていたので気付けたことで、周囲はまだ気付いてなかった。
そんな変化の謎に、一人密かに悩んでいた俺に知らせは届いた。
……ゲームとはちょっとだけ…塔を出て、魔法騎士の役職に就くくらい時期がズレたが、リュウが例の病気を発病したのだ。