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弟子。

目の前にはコジーィの背中…その前で土下座している同級生に、俺は首を傾げた。

「えっと?」

いきなり凄い勢いと表情で駆け寄ってきた青年は、とっさに守るためコジーィが前を、ロジーィが背後に立って構えたことに気付く様子もなく土下座を披露した。

「リュクヤ様っ、どうか一生の願いにございますっ、私めを弟子にして下さいっ」

「はぁ?」

コジーィが目を丸くして、疑問符の声を上げた。

「ステフ、これから授業ですよ」

横から講師の声が…少し頭痛そうにしながら、彼を咎める。

「でも先生っ、彼が噂の『あの』料理革命の祖で在らせられるのでしょう?」

顔を上げた青年は無駄に瞳を輝かせていた。

オレンジの飴玉みたいな目と、ふわっふわな赤茶の髪、淡い褐色の肌となんとなく暖色系でまとまった青年の顔には、見覚えがあった。

……そう、ゲーム攻略キャラの一人

主人公の元の世界の料理を再現しようと、頑張ってくれるキャラだ。

最初はとんでもないモノが出てくるが、仲良くなると美味しいモノを作り出してくれる。

そしてバッドエンドでも、リラックと同じように…ただお友達なだけで終わるという、なんとも『安全・安心』なキャラなのだ。

うわっちゃー…個人的な食の改善からずっと、この一ヶ月間流されるような怒涛の展開だったから、彼の存在忘れてたよ。

ごたごたしてる間に、シャルは上へと上がってしまったし。なんか一連の騒動で、後見人になるやる気が溢れかえったようだ…せっかく塔でいつも会えるようになったのに、全然一緒にいれないとすねてたらリラックとリュウが何か助言したらしい。

なんかリュウ、シャルに比較的優しいなぁと思っていたら、何やら助けられた相手を一途に慕う所を自分と騎士リュースに重ねてしまって応援せずにいられないらしい。

……お兄ちゃん…

なんて現実逃避している間も、俺の教えた料理がどんなに素晴らしかったか絶賛している弟子希望者。

そしてその言葉に同意しているクラスメイト一同。

あれ?意外と俺、歓迎ムード?

一応覚悟はしてたのだ。なにせ塔最年少でいきなり、一段階上に上がる直前の最高クラスに転入…実技は初心者なのに後見人つきで部屋入り………日本語魔術を見せないかぎり、風当たりは強いだろうなぁ…と。

「どうかどうかっ、お願いいたしますっ、私めを弟子に」

ステフはやっと喋り終え、懐から丸まった皮用紙を差し出してきた。

契約書…だ。

それも、隷属の。

「なっ、何作ってんのっ!」

「あなた様の弟子になれるのならば、永遠の忠誠を誓いますからっ」

「誓わなくていいからーっ」

ある魔物の皮をなめして作られた用紙は、隷属の契約書となる。

魔術師を従わせる絶対の契約書だ。

ゲーム中でも何度も出て来た。

盗賊とか三流冒険者とか、火の精霊に愛されし子の親衛隊にとか…犯されて魔素酔い状態で判断力や理性を失わされた後で、無理やりに承諾させられるろくでもない契約書だ。

肉奴隷コース承諾書とも、俺の中では言う。

「では弟子に?」

「ソレ燃やして消し去らないと、絶対だめっ、返事しないっ」

そうこれは、サインを書きこまなくても魔力と了承の返答だけで、契約が成立してしまうモノもあるのだ。魔素酔い中は魔力ただ漏れ状態だが、今の俺はそんなことはないと分かっていても、怖い。

俺が主人でも、何となく嫌だ。

「わ、分かりました」

ステフは属性的には火だからか、簡単な術式を用紙に這わせてそれを燃え消した。見事にコントロールされているのが分かる。

ほっとした俺を、何だか一層キラキラした目でステフが見る。

首を傾げた俺に、警戒態勢を解いたコジーィが耳打ちした。

「感激されたんじゃねえ?アレ消したらイイ返事してやるってことだろ?」

身を売らなくてもいいって言ってもらえたようなもんだしな…と、コジーィは呟く。

「えっと、ステフ…さん」

「どうぞステフと呼び捨て下さい。リュクヤ様」

「えっと、俺も様づけはいいですから、立って席について授業を受けましょう?お話は休み時間に」

「はい。分かりました、リュクヤ様っ」

俺に促がされ、びしっと立ち上がり席に戻るステフを見送りながら……

「様はいいって言ったのに…」

分かってねぇ…と呟いてしまった俺だった。


なんか俺を尊敬しまくって、いっそ信仰してそうな態度といい…契約書といい、ステフに対するちょっとした罪悪感も吹き飛んでしまった出会い…だった。

ゲームキャラ・ステフ

料理人で元魔術師。オレンジ色の目と、天然パーマな赤茶の髪、淡い褐色の肌。属性は火で火の魔術が得意。武器は包丁で、時々料理の材料を自分で狩りに行く戦うコックさん(笑)主人公の世界の料理の再現に尽力してくれる。


ステフ

現在はまだ魔術師。火の魔術を完璧に会得してから、塔の魔術師になるか料理人になるか迷っている途中だった。しかしリュクヤの料理革命によって、料理人への道しか見えなくなったが、リュクヤが塔に所属している間は彼も塔を辞める予定はなくなった。リュクヤのことをすでに信仰対象としており、リュクヤに対してだけ畏まった言葉使いになってしまっている。想像以上に幼かったリュクヤに驚いたが、それが一層尊敬を募らせてしまった……ちょっと現在、暴走&盲信気味。


皮用紙

ある魔物の皮を加工して作られる用紙。魔術師を従わせる契約書に使われる。

一定以内の距離で、主人が隷属対象の魔力と了承の返事を得ると契約は刻まれてしまう。契約が刻まれると隷属者は主人のいいなりとなってしまい逆らえない。


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