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祝福と料理。

量的には子供の力だったので、大量に調理は出来なかったのだが…不思議なことに食べる量は少なめ(魔術師基準としては)だったが、満足出来た。

首を傾げながら、片付けて…何とか人が暮らせる最低限状態にまでは、部屋も片付けることが出来た。

放課後、部屋を覗きにきたリラックは、俺の日本語魔術を見た時より、なんだか奇跡を見たような目をしていた。

「よく…あれをここまで」

声にも感嘆が滲んでいる。

リュウとシャルもほどなくやってきて、一か所だけ異様に片付けた台所に目を丸くしていた。

「お前、自分でご飯を作るつもりなのか?」

リュウの問いかけに、頷く。否定しても否定しきれない状態になってしまっているし……

正直、この世界基準の食事は…なんとかなってしまったお昼を味わった後では、我慢出来るわけがない。

「あの、何か台とかってありますか?」

一応教員であるリラックを見上げて問うと、リラックは少し首を傾げてから台所の隅に置かれた椅子と、俺を見て頷いた。

「なるほど、持ち運びの簡単なやつか」

「それか、幅の長い」

ベンチみたいなのがあれば、それこそ楽だろう。

そう身振り手振りで、欲しい台を表すとリラックは口に手を当てて、ぶふっと噴き出した。

噴き出すほどの笑いを誘った覚えはないので、ちょっとムッとするとリラックはいやいやと手を振った。

「魔術使えばいいじゃねぇか、お前シャルの精霊から祝福受けてるし」

シャルがぽんと手を打った。

「これ?」

シャルの影がうねり、持ち上がる。

シャルの体も持ち上げて。

術式もなく出来るのは精霊に愛されし子だけ、だが…たしか精霊に愛されし子に信頼と親愛を注がれると受ける恩恵で『祝福』があった。ゲームにもあった設定を思い出す。

ソレは人間よりも精霊の基準なので、必ずというものではないが。

そう、精霊は人間の欲を見通す。精霊の祝福目当てに人が近づいてきても、そんな相手には祝福は与えられない。

それになにより、一番最初に祝福を与えた相手以外には、それほど祝福の恩恵はないし…その力だって永久的なものではない。精霊に愛されし子の心一つでたやすく失われるものだ。

しかしまぁ、祝福をうけた系統の術式は発動継続時間は長く、安定性も高く、魔素消費は低くすむ。

つまり、調理中くらい余裕で初心者である俺でも、『影の舞踊』を使っていられるのだ。

「き、気がつかなかった…っ」

「お前、知識は十分だし、年のわりにしっかりしすぎてるのに、ちょっとまぬけだな」

うう、お兄ちゃん、追い打ちかけないで下さい。



少々やけになって、夕飯の支度を始めた。

始めて早々、戦力外だったリラックとリュウは台所から追い出して、シャルと食事の支度をする。

…煮る、焼く、くらいしかないこの世界の料理で、料理がしないんじゃなくて出来ない…って、救いようがないものだな…と、ちょっと遠い目になってみたり。

ちなみにシャルは料理に関しても才能があった。

……ものすごく物覚えがよいし、コツもすぐに掴む。

影を手足のように操って、俺が魔術的にもたつく所はすかさず助けてくれた。

傍から見てたら台所は子供が二人で、影がたくさん蠢いていて、ちょっと暗黒料理教室としかいいようのない不気味さが漂っていただろうけど。

「シャル、ちょっと味見してみて」

味噌汁を小皿に入れ、差し出すとシャルはソレを受け取ることなく口をつけた。

仕方ないので、注意して零さないように傾けて飲ませてあげる。

「!」

シャルの体が硬直し、目が見開かれる。

うむ、ずっとアレだったのだから、口に合わなかっただろうか?

ちょっと不安になるまで硬直していたシャルだが、次第に嬉々としかいいようのない雰囲気を振りまきだす。

飲み込むのが勿体無いといった感じだったが、せいぜい一口分だ…あっと言う間に口の中から無くなって、涙目になった。

嬉々としていて、涙目で、なんと表現していいか分からない表情だ。

口の中の風味を少しでも長く味わっていたいのか、口は閉じたままだが…ワンコの耳と勢いよく振られる尻尾を幻視した。

「美味しい?」

シャルはこくこくこくと何度も頷いた。

「よかった。もうすぐ出来あがるからね」

うむ……一人ずつ分けないと、取り合いになるかもしれないと危惧した俺は、大皿に盛っていたおかずをそれぞれの皿に四等分したのだった。

途中匂いに誘われて覗きに来てたリュウとリラックは、暗黒料理教室を見て、ちょっと顔色を悪くして退散していたが…なんか「ちゃんと台を作ってやるべきだったか…」とか「大丈夫なのか?」とか不安そうな会話も聞こえてきたが

用意が出来て、恐る恐る一口含んだ途端……シャルとほぼ変わらない反応を返した。

それからガツガツと食いついて、途中で味わわなければ勿体無いという意識が働いたのか、ゆっくり噛み締めるように食べ…夕食を終えた。

放心というか余韻に浸っているような三人に、お茶を入れてあげると

「うまっ」

「お茶まで、こんな」

「ん」

と、好評だった…まぁ、お茶はそれほど格差はないと思うけど…

「…やばい、リュクヤが女だったら、俺即座にプロポーズしてる」

リラックが苦悩に満ちた声を零した。副音声で「なんでお前女じゃなんだ」と聞こえたよ(笑)

「だめっ、リュクヤと結婚するの僕だもんっ」

ん、シャル…リラックのソレは食欲オンリーの戯言だから、本気にするな。

それから俺は、男と結婚する予定などない。

「よし」

脳内だけで突っ込みを入れてたら、ひょいっと俺はリュウに小脇に抱えられた。

「へ?」

「一度家に連れて帰る」

「おいおい、リュウ」

「リュースにも食べさせてあげたい」

「今日は城勤めでいないんだろ?」

「家の料理人に教えさせる」

あ、だから今日はリュウ夕飯一緒に混じってたんだ…

今更なことに気付きながら運ばれる。

「大丈夫だちゃんと許可はとる」

リュウの指先が光で文字を描き、それはするりと飛んでいった。術式ではない。光の文字の伝言だ。

内容は今日俺を家に連れて、一緒に帰るとのこと…宛先はサフル。

「許可はとるって、断り入れるだけじゃねぇか…」

「リュクヤっ」

「大丈夫だ、明日こっちに来る時、ちゃんと一緒に連れてくる」

リュウはシャルにそう言って、ポンと頭を撫でて…すたすたと家路を急いだ。

俺の意思確認はゼロだったけれど、騎士リュースへのリュウの暴走を止められるはずがないから、大人しく…その日はリュウに抱えられて帰った。

家の料理人さん達も暗黒料理教室にはびびっていたが、一口味見をすると、物凄い熱心さで子供の俺を師と仰ぎ、真夜中すぎまで料理の特訓となったのだった。




祝福・精霊に愛されし子からの好感度により得られる力。その系統の術式は、発動継続時間は長くなり、安定性も高く、魔素消費は低くすむ。ただし、好感度を失うと祝福も失われてしまう。大抵は一人、一番大切な人間に与えられる。精霊基準なので、他にも与えられたりするが、一番大切な人には及ばない。


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