塔入り。
塔の登録に訪れた俺を、出迎えてくれたのはシャルだった。
ゲーム画面でもよく見た、白いバラの…時の魔術が掛かっていて枯れない花の蔓が巻きついた塔の出入り口…その前で待っていたシャルは満面の笑みを浮かべて、駆け寄り抱きついてきた。
「リュクヤっ、」
「シャル、久しぶ…っ」
いきなり、うちゅーっと唇を吸われた。
「ちょっ、うぐっ」
慌てて引きはがそうとするが、塔に入ってからすくすくと一般的な少年の体格に成長しつつあるシャルは、俺とそう変わらなかった当初よりも、ちゃんと二歳くらい年上に見えるようになっていた。
つまり、どうにも力負けする。
「ふぁ、んっ」
何度も唇を奪われ、舌を絡められ…力が抜ける。
なんかシャルの雰囲気が、人懐っこいわんこが、大好きな相手に飛びかかって顔を舐めまわしているような感じなのが救いだが。
「リュクヤ、今日からリュクヤと一緒なんだね、嬉しいっ」
「…うん、俺も嬉しいけど、キスは緊急事態の時だけにしよーぜ…」
ちょっと息を乱して言う俺に、シャルは無垢な眼差しで首を傾げて見せる。
「どうして?リュクヤとキスすると、すごく気持ちよくて満たされるのに」
「…普通は恋人同士ですることだから」
「じゃあ僕、リュクヤと恋人になるっ」
「いや、俺は男と恋人になる趣味はないから」
反射的にキパッと言ってしまったら、シャルの目が潤んだ。
「リュクヤ、僕のこと、きらい?」
ひっくとしゃくりあげながら聞かれて、つい宥めるように頭を撫でる。
「好きだけど、恋人の好きではない。つーか、俺達まだ子供だし、恋人とか早いだろ?」
しかしシャルの目は潤んだままで、今にも涙が零れ落ちそうだ。
俺の手の上から、ぽんとリュウの手が置かれた。
うん……一緒に来てたんだよね、兄弟で後見人だし。
「これから頑張れば?」
「へ?」
シャルがリュウを見上げる。
「まだリュクヤもお前も小さいんだ、これから頑張って口説き落とせばいいことだろ?」
いやいや、お兄ちゃん……何助言してますかっ
けれどシャルはキラキラと目を輝かせて、うんと頷いた。
…リュウの表情はあまり変わらず、何となく……泣かれると面倒だという雰囲気だったが。
さて、塔入りの儀式として、塔に所属する誓約書に署名をした後、サフルが待ち構えていた。
ゲームではルートを選べば、サフルと顔を合わせるのはこの時だけのはずだった……俺は、もう…そうもいかないんだが。
「よく来たな。塔は新たな仲間を歓迎する」
そうしてサフルの指が俺の手の甲に、術式を描きこんだ。
術式は淡く輝き消えた。
これでゲームではゲートが一日三回まで、無料で使えるようになったのだが……
「ゲートの存在は知っておるかな?」
サフルの問いかけに、一応頷いた。
協会の管理している…つまりはワープゲートだ。
このデュラン世界…と、いうか大陸のあらゆる場所に簡単に行ける。
大きな楕円を思い浮かべてもらえば、
中央に塔
王宮政治施設の集中している場所を、時計に見立てて十二時方面。
一時から四時までの間と、九時から十一時の間までが居住区。
四時から九時までの間が、未開発地…つまり魔獣やらなんやらが蠢く戦闘地域だ。
まさしく時計と同じように、塔の協会は十二か所あって、細かく分けると色々だが、おおざっぱに言うなら上記のとおりである。
塔の魔術師はこれを一日三回、無料で使える。
勿論一般市民も、お金を払えばこの施設は使えるのだ。
後は王宮務め…だろうか、無料で使えるのは。
勿論十二時のゲートはそれ関係専門で、一般人も普通の魔術師も許可なく通行は出来ない。
騎士リュース達などは、仕事であればこのゲート関連は使いたい放題らしい。
「普通の魔術師であれば、最初の一か月はゲートの使用は禁止じゃ…力の使い方、基礎、魔術師としての心得を教わって初めて、塔から外出可能となる。」
ゲームのままの説明が、サフルの口から流れた…が、おまけがついていた。
「しかし、精霊に愛されし子や、お主は、力の制御が叶うまで塔からの外出は基本、禁止となろう。例外としては塔での後見人や一級魔術師の同行が不可欠となろう。分かったかな?」
うーわ、やっぱ俺…精霊に愛されし子と同じ処置ですか……
ま、いいけどね…
「それから、『あの』魔術を練習する時は事前にわれに連絡を入れること、忘れるでないぞ。通常の演習で『あの』魔術を使うことは禁止とする。よいな?」
「…はい」
こうして俺は正式に、塔所属となったのだった。
ゲート・詳しくは本編リュクヤ説明そのまま。この世界にも時計があり(高価だが)一般の人も二時のゲートとか九時のゲートなどと呼んで区別している。時間や暦は基本日本と同じ。ちなみに未開発地などの、ゲート設備の協会には結界が施されている。