『日本語』。
「わが名は、サフル。よろしくたのむぞ」
妖精のような容姿の(偽)少年は、そう言ってニヤリと笑った。
「さぁ、お主も名のれ」
どこか色気を滲ませた笑みに、俺は思わずリュウの服をぎゅうっと握ってしまう。
うう、絶対皺になったよ、ごめんなさい。
俺と同い年か一・二歳上くらいの外見になっている塔の最高権力者は、「ん?」と小首を傾げて俺が答えるのを待っている。
「りゅ、リュクヤ…です」
あんまりよろしくしたくないけど。
「よろしくお願いします」
ズダボロ状態となった庭に通されたサフルは、彼らしくないことに暫し口をぽかんと開けて固まった。
「………ず、ずいぶん前衛的な庭じゃのぉ」
「第一声がそれか」
リラックが深くため息をつき、俺を手招く。
「おい、もう一度やれるか?」
「え?」
「こんな状態なんだ、これ以上やっても構わないだろう?」
問いかけは騎士リュースに向ったもので、彼もにこにことしたまま頷いた。
「でも…」
「魔力か足りんか?」
ひょいっと目の前が白くなる。
あったかいものが口にぶつかって……
「…っ」
ぎょっとして叫びそうになったら、口の中に何かが入ってきた(泣)
いや、分かっているのだけれど分かりたくない。
「ぅっん、く」
逃げようとしたけど、腰と後頭部を拘束されて…頭が真っ白になった。
相手は嫌だけど現実離れした妖精のような容姿だ…気持ち悪さはあんまりなかった所か、凄いテクニックだった。
まだ幼児といっていい体なのに、全身が痺れたように力が抜けていく。
「おい、それくらいにしておけ」
べりっと離してくれたのはリュウだった。
「ふぇ…っ、おにいちゃ」
思わず縋りつく。
兄ってなんて素敵な存在だろう、これがあの姉だったらニヤニヤ笑いながら携帯に動画記録残して、更に布団の用意までするかもしれない。
「おめーな…」
「なんじゃ、ちょっとした味見にすぎん。それに流石のわれも、十にも達してない子供に無体を働いたりせぬわ」
…十歳から危険なんですね、気をつけます。
俺は皆の注目を浴びながら、仕方なしに空中へ『日本語』を描いた。
本当にこの世界の人達に、理解出来ないのかも知りたかったし。
『水の飛沫』
実は『水の飛礫』よりも威力の低いはずの、魔術である。
しかし……
ドドドドドォンッ
と、地面を抉る水の固まりを見せてから、すぐに『日本語』をかき消した。
そろりと皆を見上げる。
皆、目を丸くして固まっていた。
「あ…の」
「もう一回じゃっ」
サフルにがしりと肩を掴まれ、その勢いに恐怖して指を動かした。
皆の目は俺の指先に集中した。
「もう一回っ」
サフルは食いつくような目で、そのセリフを何度か繰り返した。
やっぱり…理解出来ないのかな?
そのうち「ん?」と、リラックが首を傾げた。
「なんじゃ、何か気付いたか?」
「いや、ちょっとリュクヤ、待て」
リラックは俺に魔術を繰り返させるのをやめさせて、俺の顔を覗き込んだ。
「疲れてないか?」
俺は首を傾げる。
「あんまり…」
「腹具合は?」
俺はお腹に手を当てた。不本意だが、サフルにキスされたことによって、久しく感じたことのない満腹状態だったので…今はちょっとだけ消化した感覚だ。
そうゆうことを説明してみれば、リラックとリュウはため息をついた。
「なんじゃ二人とも」
「気付かないんですか?こいつの魔術、魔力の消費が凄く少ないです」
「リラックの言うとおり…水の精霊に愛されし子でもなきゃ、普通魔力切れで倒れてる」
あ、そういえば『日本語』は、世界に描き示すだけの魔力消費以外は必要ないんだっけ…だからこそ、主人公が魔王化したアクラスを、唯一倒せる存在になるんだが……
「すごいの、しかしどんな術式を描いているのか理解できん…むしろ考えられないというか、覚えてもおけんの」
「おめーでもか…」
リラックは呻いて、悲惨なことになっている庭を眺めた。
もうなんか…湿地帯っぽい。倒れていた木々は跡片無く粉砕して、破片が所々泥の中に埋もれているのが見れる。
「リュクヤ、普通の術式はどうだ?」
リュウに言われて、俺はちょっと赤くなった。
だって…庭の草花への水やり的威力…しかも飛沫のようなそれは飛礫なのだ。
「うむ…まぁ初心者じゃの」
「なんか、あれの後で見ると微笑ましいよな」
リュウに言われて見せた『水の飛礫』に……リラックがやけに優しい表情で、しみじみというのが余計に恥ずかしかった。
「もういいですか?」
「ああ、悪かったな」
ぐりぐりとリラックの手が頭を撫で、皆も意識が切り替わったのか家へ戻ろうと足を進め出した。
俺はほっとして、指を這わせた。
『再生』と、『日本語』で。
まぁ…だって、本当にめちゃくちゃにしちゃったからさ。
イメージ的にはジ○リ?にょきにょきーと…草木が繁っていく感じを想像してた。
結果は、想像の通り…
にょきにょき、ぐぐーっと…めちゃくちゃになった庭に、でかい森が出来た。
なんか、本当に森の妖精が住んでそうな、立派なものが。
……明確なイメージがあると、その通りになるらしい。
振り返ると、家へと戻りかけていた皆が立ち止り、振り返った格好で固まっていた。
「……どうしたの?」
俺は嫌な予感を感じつつ、首を傾げた。
「ちょっと待て、リュクヤお前、何やった…」
「まさか、お主の使う術式には法則があるのか?」
「偶然、あの威力が出た術式を描いたわけじゃなくて?」
あ、もしかして、偶然あの威力の術式を描いてしまったと思ってたのか?
どうりで、あれはどうやってとか聞かれなかったわけだ。
………うわぁぁぁんっ、墓穴掘ったぁっ
ゲームキャラ・サフル
塔の最高権力者。時の精霊という特別な精霊に愛されし子…で、身体年齢自由自在のショタジジイ。銀の髪に銀の目で妖精のように可憐な容姿でありながら、塔一のエロジジイ・セクハラジジイである。
攻略可能キャラの中で、一番のテクニシャンで可愛い男の子ハーレムを作っている節操無し。
サフル・時の精霊に愛されし子
とはいっても中身は結構な年寄り。リュクヤが怯えるのはその性格…気付いていないが、どことなく『姉』に似ているせいでもある。まぁ、ゲーム設定と今の所は大した違いはない。